2-16 ハナコから嫌われたヨシノ
んで、ヨシノ家にて。
「フゥー! おうブラザー! また女連れ込みやがって! 明日は庭に全裸で水撒きかいチェケラァ!」
「へ、え?」
「ハナコ、すぐに慣れるから無視して」
ハナコは我が妹のキャラ崩壊の洗礼を浴び少しの間固まっていたけど、僕の指示どおりスルーして居間に三人と一匹で移動した。僕は取りあえずコーヒーを出し一生懸命働いてくれた彼女を一休みさせる。
「コーヒーで良かった?」
「え、あ、はい、大丈夫です。本当にすみません、何から何まで」
僕はまだ素性のわからない彼女の事を完全に信用したわけじゃないけど一連のやり取りはどれも丁寧なものだった。やっぱりただの訳ありで悪い子じゃないのかな。僕は相手がサイコパスかどうかある程度わかる特技を持っているけどセンサーには全然反応しないし。
「あ、そうだ。こんなものしかあげるものが無いですけど、よかったらどうぞ」
そして彼女は自分の持っていたカバンから箱のような物を取り出す。それは赤い電車を模したもので何だろうかと思っていると、ハナコは説明を続けた。
「ちくわの詰め合わせセットです。その、ちくわが大好きな人に押し付けられまして」
「へー。ものすごくその人に心当たりがあるけど。まあいいや、貰っておくよ」
多分、というか十中八九その知り合いはセラエノだろう。断言は出来ないけどどうやら二人は顔見知りだったみたいだ。中二同士どこかで絡みがあったのかな。
「なんかいろいろあるのー!」
ミヤタは箱の中身を見て多種多様なちくわに心を躍らせた。ちくわではあるけどどれも上等そうなものだし早速今晩にでも食べようか。日持ちもしないだろうしさ。
「あ、そうだ、このはこもらっていい? おかしとかこものを入れるのに使おうかなって」
「別にいいけど。とりあえず冷蔵庫に入れようか」
箱は凝ったデザインだし、ちょうどいいサイズだから物を入れるのにも良さそうだ。僕がちくわを取り出して冷蔵庫に入れていると我に返った紗幸はハナコに話しかけた。
「はあ、ふう、うん、落ち着いた。ええとハナコさん、お兄ちゃんに変な事されてない?」
「ええ、はい、本当によくしてもらって……あれ、そういえばまだお兄さんの名前を聞いてませんでしたね?」
「あ、そういえば」
僕は今さらになって名乗るのを忘れた事を思い出す。影が薄いから気にならなかったのかもしれないな。
「僕の名前はヨシノ。芳野幸信だよ。んで、こっちが妹の紗幸」
「あ、どうも、紗幸です」
紗幸はぺこりと頭を下げて挨拶する。だけどハナコは何も言葉を返す事はなかった。そしてハナコは口をパクパクさせ数秒間の沈黙の後、
「よ、よ、よ、芳野幸信ッ!?」
と、大絶叫したのだった。
「どうしたの、そんなに大きな声を出して、」
「がるるるるふしゃあー!」
「って、なに威嚇してるの?」
ハナコは先ほどまでの対応が嘘のように僕を激しく威嚇する。子犬がキャンキャン吠えているみたいで可愛かったけどさ。
「あー、そうですか、あなたが芳野幸信ですか! そりゃそうですよね、考えればすぐにわかる事でした! 今後は一切ドントタッチミー! でお願いします!」
「はあ」
「ふに?」
「ぷひ?」
ハナコは敵意をむき出しにしたけどこの場にいる誰もが、もちろん僕にもその理由がわからなかったので問題を解決するために話を聞く事にした。
「えーと、僕君に何かしたかな? さっきまで仲良くしてたのに」
「ぷい! 自分の胸に聞いてくださいー!」
彼女はそう言ったので、言われた通り僕は自分の胸に聞いてみる。
「はあ。やましい事は……ない事は……ありすぎるね、うん」
そういうのがないと思いたかったけどサイコパスな僕はまあまあ恨まれる生き方をしてきたのでぶっちゃけ心当たりがあり過ぎた。まさか東京にいたころじゃないよね。でもやっぱりあれかもなあ。
「お、お兄ちゃん!? まさかこのプリンガールにやらかしたのかァ!? ハサミをやるからプリンプリンを切ってすみやかにケジメをつけろォド畜生ッ!」
「いやしないけど。愛する息子には手を出さないで」
「よくわかんないけどあやまったら?」
「ぷひ」
うーん。困った困った。誰も味方になってくれないけど僕ってこんなに人徳なかったのかな。
ガールどもは冷たい目をして四面楚歌でィ。こいつァ前途多難だZEッ!
心の声を紗幸っぽくしたところで無論問題は解決しない。僕の昔の過ちが原因なら謝ったほうがいいのかなあ。でもどれの事なのかわからないしなあ。うーん。




