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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
第二章 チーム明日花、始動【第一部2】

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2-15 時をかけるハナコ

 どうして女の子がこんなところに倒れているんだ――?


 だけど僕がそう思っている間にミヤタは一目散に彼女に駆け寄った。


「ふにっ! いきてるー?」

「う、うう……」


 ミヤタが女の子を揺さぶると彼女は苦しそうに呻く。そしてゆっくりと身体を持ち起こすと、まるで長い眠りから覚めたかのように、眩しそうに目を細めて左手で目元を覆った。


「取りあえず生きてはいるみたいだね。立てる?」

「は、はい」


 僕が手を差し伸べると、光に目が慣れた少女は手を取って、覚束ない足取りで立ち上がり服についた砂を手で払った。あちこち汚れてはいるけれど、ミヤタの様に空腹で行き倒れたというわけでもなさそうだ。


 汚れ以外に彼女を見てまず気になった点は黒と金色が混ざったプリンのようなカラーリングの髪と、背中に背負った大剣だろう。多分コスプレグッズ的なものだろうけど重厚感があってよく出来ていた。


 僕が少女を観察していると、彼女は何かを思い出したらしく血相を変えた表情になる。


「あ、あの! 今日は西暦何年の何月何日ですか!?」

「え? 2013年の十一月だけど。えーと、何日だったかな……」


 彼女の口からそんな未来からやって来た人がするような質問が突然飛んできたので僕はうまく答える事が出来なかった。だけどそれを聞いた彼女は、ふう、と安どのため息をつく。


「よかった、成功したんだ……」

「はあ、よくわかんないけど良かったね。そういう設定なんだね」


 僕はとりあえず彼女が未来からやってきたという設定の中二病患者なのだと判断した。タイムトラベルなんて現実には存在しないからそう考えるのが自然だろう。


「設定? なんの話です?」

「えーと、とりあえずケガはないんだよね? どろだらけだけど」

「え、あ、はい! 大丈夫です!」


 キョトンとしていたプリン頭の少女は心配そうなミヤタの顔を見てハッとなり慌ててそう答えた。痛い子ではあっても悪い子ではなさそうだ。


「あ、そうだ。ここの場所も聞いていいですか?」

「ここ? 宮城県の岩巻市ってところだけど」

「そうですかー、いしの……え? イワマキ?」


 だけどプリン頭の少女はその単語を聞いてまるで聞き慣れない外国の地名を聞いたかのようなリアクションをする。設定がわからないけどなかなか演技が上手だね。


「うん、岩巻。ロックの岩に巻きグソの巻だよ」

「そ、そうですか……」


 ボケにも突っ込まない程度になんか混乱しているけどこれはどういう設定なのかな。きっと今彼女は真っ黒なノートに緻密に書かれた設定に沿って役になり切っているに違いない。


「まあいいや、僕らは今ボランティアの真っ最中だから。暗くなる前に帰るんだよ。ほらぶたにく、探してくれる?」

「ぷひ」


 ただ何にしても遊びに付き合う義理はない。無事がわかったのなら相手にする必要なんてないんだ。ぶたにくも一瞬どうしていいか迷ったみたいだけど僕の指示に従い砂浜を調べる事にしたようだ。


「えと、いいの、ヨシノくん。この子なんかこまってるみたいだけど」

「いいんじゃない?」


 ピュアなミヤタに僕は適当に返事をする。これが物語ならフラグクラッシャーだけど僕は空気を読まないタイプの主人公でありたいからね。


「え、今、その、ぶたにくって言いました?」


 だけどプリン頭の少女はまだその場にいてその単語に驚いた顔になる。確かに初めて聞いた人にはなかなかのインパクトを与える名前だろう。


「うん、そうなの。ぶたにくはわたしのあいぼうけんひじょうしょくなの!」

「ぷひ!」


 ミヤタは自慢げに相棒の紹介をする。そしてプリン頭の少女の表情にみるみる生気がみなぎった。


「で、では、あなたはもしかして宮田マリアさんさんですかっ!?」

「ふに? そうだけどよくそっちの名前を知ってたね」

「ん? なんでミヤタの事を」


 不思議に思う僕らを無視してプリン頭の少女はミヤタの手を両手でガシッと掴みぶんぶんと握手をする。ちびっこが憧れのスーパースターにあったら多分こんな感じになるんだろう。


「そうですか、あなたがミヤタさんですか! ぜひ私にもボランティアのお手伝いをさせてください!」

「うん、いいよー!」

「はあ」


 その突然の申し出にミヤタは一秒で快諾する。僕はどうしてプリン頭の女の子がそんなリアクションをしたのかわからなかったけど、断るのも何か悪いし、変に思いつつも一緒に作業を続行したのだった。


「そうだ、あなたのお名前はなんてーの?」

「え、わ、私の名前ですか!?」


 仲良くなるためにミヤタはまずプリン頭の少女の名前を尋ねた。それはごく自然な質問だったけれど彼女は何故か少し動揺しているようだった。


「え、えーと、は、ハナコです!」

「そっかー、ハナコちゃんなのー」

「ハナコ、ねぇ」


 それは昭和の時代ならいざ知らず今では珍しくなってしまった名前だった。逆キラキラネームという奴である。


「中二キャラって設定なら、もうちょっとこう、六花りっかとか、智音さとねとか、ライトとか、邪鬼じゃきとか、洋央紀ひろおきとか、世志琥よしことかもう少し捻ったら?」

「はい? 設定? なんか後半プロレスラーが二人ほど混ざっていた気がしますが」

「ああごめん、こういうのは言わないほうがいいよね」

「はあ」


 うん、ここは生暖かく見守るとしよう。最低限のルールを守ってさ。



 その後ハナコは一生懸命発掘作業を手伝いスコップを片手にぶたにくの手助けをした。その結果僕らは相当数の思い出の品を発掘し、アキヅキさんの所に届け無事本日の任務を完了したのだった。


 気付けばすっかり日も暮れている。良い子はもうお家に帰る時間だ。


「さて、今日もお疲れ様。僕たちは家に帰るけどハナコの家はどこ? 送ろうか?」

「……え、あ、はい!」


 僕がそう尋ねると不自然な間のあとに彼女は遅れて返事をする。そしてちょっと困ったような表情になってしまった。


「いやー、実はその、諸事情により帰る家もお金とかもなくて。まあ野宿でもしようかなと」

「そうなの!? それはたいへんなの!」

「ふーん、家出か何か?」


 さらっととんでもない事を言ったハナコにミヤタは激しく動揺する。そういう人はこのご時世、特に東北では珍しくないけれど、ミヤタはやはりというかうるうるした瞳になった。


「ねぇヨシノくん? その、だめかな?」

「何が?」

「おうちに泊めてあげるの」

「うーん、親にきかないとわかんないけど多分了承するだろうね、母さんなら」

「ほんと!?」


 既にミヤタの前例があるので強く拒否出来る明確な理由もなく、何よりミヤタを悲しませるのが嫌だったので僕がそう答えると彼女は嬉しそうにはしゃいだ。


 説明がちょっと面倒だけどロリじゃない分ミヤタほど難しくはないだろう。庇を貸して母屋を取られる、みたいな事にならないといいけど。


「え、い、いや、そんな悪いですって! どうして見ず知らずの赤の他人を家に泊めてくれるんですか!?」


 むしろ説得に困りそうなのはハナコのほうかもしれない。彼女はかなり気が引けているようで、慌ててその提案を拒んだからだ。


「たにんじゃないの、ハナコちゃんはもうおともだちなの!」

「お、お友だち……」


 だけどその遠慮もミヤタの純度百パーセントの優しい笑顔に一撃で沈められてしまう。うん、やっぱりこの笑顔には勝てないよね?


「そういうわけさ。君さえよければうちにおいでよ。何もしないからさ……ホヒッ」


 なので僕も笑顔を作ってみる。折角だから出来る限り変態チックに。


「……なんかほんのり事案な言い回しですけど、でもそうですね、それじゃあお言葉に甘えて」

「うん! それじゃあおうちにレッツゴー!」


 そして僕らは苦笑するハナコを引き連れてヨシノ家への帰路につく。さて、今度も紗幸のリアクションが楽しみだなあ。

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