2-14 土の中に眠る想い出を探して
後日、僕とミヤタ、それにぶたにくは岩巻の街を歩き回っていた。
今日は快晴で絶好のお散歩日和だけどこれは別に散歩しているわけじゃない。どうしてこうなったかというと時間を少し遡って説明するとしよう。
その日、僕はアキヅキさんの団体の事務所を訪れていた。新しい修復用の道具を入手した事で作業は大幅にはかどっており、職員の人は総出で働いてかなり忙しいように見える。
「忙しそうですね」
「はい、お陰様で」
だけど今日は作業部屋を素通りし僕らは倉庫らしき場所に移動する。その部屋には汚れたランドセルやぬいぐるみといったものが置かれ、番号札が貼られて管理されていた。
「これはまた随分とありますね。写真以外もやっていたんですか」
「はい。これでもほんの一部ですけどね。保管場所が無いので一部をここにも置いているだけです」
アキヅキさんの団体では写真の修復のほかに、復興作業の途中で見つかった思い出の品を保管、元の持ち主に引き渡すという活動もしていた。これはその思い出の品の一部というわけである。
「それで、わたしたちはなにをすればいいの?」
「はい、出来ればでいいのですが、思い出の品を探す手伝いをしてほしいんです。清掃作業をしている時とかに見つけてくれたのを合間に届けていただければいいので」
「うん、いいよ!」
ミヤタはやはり二つ返事で承諾する。話を聞く限りそれほど手間でもないし断る特段の理由もないよね。
用事が済み、話を聞いたミヤタはまず自宅へと戻った。そして満腹で眠っていたぶたにくを叩き起こし強引に家の外に引っ張り出したのだ。
「ん、散歩でもするの?」
「ちっちっち。ぶたにくはね、すごくさがしものがとくいなんだよ! ホームレス時代もおかねとかあきかんとか見つけたんだから!」
「ぷひ!」
「はあ」
ミヤタとぶたにくは自慢げに胸を張る。お金はアウトっぽいけど……まあ彼女は当時ホームレスだったから目をつぶろう。
そんなわけで僕らは思い出の品の捜索という新たに受注したクエストを遂行中なのだ。ここ数日肉体労働で疲れたしのんびりと探すのもいいだろう。
「ぷひぷひー」
「わあ、またなんか見つけたの!」
「おー」
ぶたにくがそのあたりの地面を掘るとなんとそこから指輪が発掘された。僕はそれを見つけた場所のメモと一緒にビニール袋に入れてカバンの中に詰め込む。
「なんだか宝さがしをしてるみたいでたのしいね!」
「そうだね。この調子で炭焼き藤太の埋蔵金でも見つけてくれないかなあ」
今のは冗談にしてもぶたにくは次から次へとおもちゃや写真といったアイテムを発見してくれる。そのどれもが当たりでカバンももうすぐ一杯になるだろう。アキヅキさんの喜ぶ顔が目に浮かび、僕は思わずほおを緩めてしまった。
「ぷひー」
「ふわあー。なーにー?」
そしてぶたにくが続いて発掘したのは、地面の中でのんびりお昼寝していた経験値がたくさんもらえそうな黒いマタンゴさんだった。
「あれ、マタンゴさん? ごめんね、起こして」
「ようじがないならねていいー?」
「うん、おやすみなさいなの」
こんな風に外れる事もあるけどね。眠そうな黒いマタンゴさんはもぞもぞと動き、また地面の中に潜ってしまった。
「ぷひぷひ」
もぞもぞ。ぶたにくは別の場所を掘り、なんか北条家の家紋のような三角形のキラキラしたものを発掘した。
「これは何かな?」
「さあ。でも多分思い出の品じゃないから、魔王かピンクの悪魔に見つかる前に埋めておこうか」
もぞもぞ。地面を掘ったぶたにくは続いて謎の鎧を発掘する。
「ゆうしゃのよろいなの!」
「魔封じ無効にリカバリー、あと炎を軽減出来るからラスボス戦には必須だろうね。でもこれも戻しておこうか」
もぞもぞ。えーと、今度は。
「もぐらのおじさんが出てきたの!」
「リセットボタンを押してないのですみませんが帰ってください。リストラされて暇なのはわかりますが」
もぞもぞ。
「天使のおにんぎょうかな? これはだれかのたいせつなものだと思うの!」
「うぐぅ。そうだろうけどこれは多分僕らが持っていたらいけないものだよ。いつか空気の読めない初代主人公がたい焼きを食い逃げしたヒロインに渡すために埋めなおしておこうか」
「そっかー、ならもどしておくね」
ぺしぺし。ミヤタは天使の人形を地面に埋めて足で踏んで土を固めた。けどなんでさっきからこんなものが発掘されるのだろうか。
「ぷひっ」
「あれ、こっちに行くのー? まってー!」
周囲を調べ尽くしたぶたにくはお宝の気配を察知し、別の場所に移動したのでミヤタと僕は慌てて移動する。今度はどこまで行くんだろう。
たったった。僕はミヤタとぶたにくに追いつくため頑張って走る。ブタって意外と足が速いんだね。
「ぷひー!」
「このへんをさがすのー?」
そしてぶたにくを追って僕らがやってきたのは海岸エリアだった。
ここはつい最近まで堤防の建設工事を行っていたものの最近ようやくその作業が終わったそうだ。この辺りの大抵の建物は津波で流されたのであまり来る機会はなかったけど……。
真新しい壁のような堤防以外は見るものは特にない。ぶたにくはコンクリートの階段をのぼり堤防の向こう側にある砂浜へと向かった。
「まってー」
「ふむ」
ぶたにくは何を察知したのだろう。確かにここには多くの思い出の品が埋まっていそうだけど。
僕はミヤタの後を追って一段一段階段を上る。僕の心臓の鼓動が早くなったのは、今走ったせいだ。
きっと、そうに違いない。
この先には何もない。ただ静かな海が無意味に広がっているだけだ。
でも、この胸騒ぎは何なのだろう。
恐怖とも違う。得体のしれない名前が付けられない感情だ。
あえて名前を付けるとするならそれは喜びだ。意味もなく涙が出そうになってしまうほどの強い喜びの感情である。
この感情は一体何なのだ。なぜこんな感情が湧き上がってくるのだ。
「ぷひ!」
それはどこかで見たような光景だった。砂浜には一人の少女が倒れていて、ぶたにくは彼女を心配そうに鼻でつついていたんだ。




