2-11 初めての依頼完了
さて、追加クエストを終わらせ、アキヅキさんにチーム明日花への加入の約束をしてもらうという想定外の幸運もあったけど、とにもかくにも僕らはようやくおばあさんに写真を渡す事が出来た。
「はい、どうぞ!」
「まあ! こんなに綺麗になって……!」
新居で待っていたおばあさんはミヤタからアルバムを受け取りひどく感動していた。瞳にはうっすらと涙も浮かび、ここまで喜んでもらえると頑張った甲斐があるというものだ。
「そうそう、この時息子が悪さをして泥だらけになってねぇ。この頃はわんぱくで可愛かったねぇ」
おばあさんの脳裏に当時の記憶がまざまざと思い起こされる。一度失ったはずの思い出は今こうして手元に戻り、彼女はそれを愛おしそうに眺めていた。
「よかったね、おばあちゃん!」
しかし一番喜んでいたのはヤオかもしれない。親しい人間が笑顔になり、彼女は自分の事の様に嬉しそうだった。
「ええ、ほんにありがとう。引っ越しの手伝いだけじゃなくこんな事までしてくれて……いい冥途の土産が出来たわい。ささ、立ち話も何だしおあがりなさい。お茶を淹れてあげるからねぇ」
「うん、おじゃましまーす!」
おばあさんに促され僕らは新居に入る。新しい家はプレハブの家よりもずっと広かったけれど、やはりどこか落ち着かなかった。
「綺麗な家ですね」
話題に困ったレイカはうっかり皮肉になりそうな事を言ってしまったが、おばあさんは笑いながら返事をしてくれる。
「綺麗すぎるけどねぇ。昔のギシギシする床や、立てつけの悪い障子に、身長を測った大黒柱が懐かしいわぁ」
そう、この家には思い出が何もない。ただ住むだけの場所という意味では仮設住宅と大して変わりはしないだろう。仮設住宅に住む人の中には新しく出来た近所付き合いを捨てたくなくてあえて残る人も多いと聞くけど、僕はそれをようやくその気持ちを理解してしまった。
「まあこんな年寄りのために家を建ててくれたんじゃし、茶でも飲みながらのんびり余生を過ごすとするかねぇ。お茶請けはおせんべいでいいかい?」
「うん、いいよ!」
だけど家が再建出来た人はまだまだ限られている。それを十分理解しているおばあさんはそのような贅沢な悩みを口にする事はなく、ほっほっほ、と笑いながら僕たちをもてなしてくれたんだ。
「ありがとね」
お茶を準備している間、座布団に座ったヤオは自分の家の様に寛ぎながら小声でそう感謝した。
「おばあちゃんずっと暗かったから。少しは元気が出たかな?」
「うん、だといいね」
その問いかけにミヤタはえへへ、と優しくはにかむ。
結局僕らはただのボランティアで子供だから大した事なんて出来ない。本当の意味でおばあさんの孤独を救う事は出来ないのだろう。
だけど僕たちがした事で、ほんの少しでも幸せな気持ちになれたのならそれはきっと意味があるのだろう。僕はそう思う事にした。
そしておばあさんがお茶とおせんべいを持ってきてまったりと談笑を始める。特にミヤタとは話が合って盛り上がっているようだ。
「それでのう、その時に見た32文人間ロケット砲が忘れられんでのぉ!」
「ほへー! やっぱりしょーわのプロレスはシンプルだけどおくがふかいよね!」
「まったくじゃ、最近のレスラーはどいつもこいつもひょろひょろしたアイドル路線でけしからん!」
「そうなの! とくに飯〇幸太とか棚〇が好きとかSNSにとうこうしているじしょうプ女子はクソばっかりなの! 中〇真輔ならギリゆるせるけど!」
「おお、気が合うのう! そうじゃ、デストロイヤーの秘蔵のグッズがあるからちょい見てくれんかの? 覆面十番勝負の時に使っていたマスクじゃ!」
「本当!? 見せて見せて!」
「ねえ、ヨシノ。世の中のおばあさんって普通こういう会話をするのかしら」
「さあ」
まあ僕らは置いてけぼりだけど、楽しそうに会話しているからいいよね?




