2-7 ボランティア団体の先輩、アキヅキさんとの出会い
そしてヤオに案内され、僕らがやってきたのは商店街に拠点を置くとあるボランティア団体の事務所だった。
「ここだよー」
「ふにゃ」
「うわっ」
ヤオが事務所の扉を開けると中から強烈な海水と泥の臭いが漂ってきたので、僕らは思わず口もとを抑えてしまう。
特に嗅覚が鋭いミヤタとレイカはかなり嫌そうな顔をしている。室内では空気清浄機がフル稼働し、そこにいた人もマスクをしていたけど、それでもどうにか出来るレベルの悪臭ではなかった。
「ここは……」
事務所には大勢の若い人がいて机の上には何冊かのアルバムが置かれている。そして全員が集中して中にあった写真を洗浄しているようだ。パソコンをカチカチしている人もいるけどあちらは何をしているのだろう。
その作業を見ていると眼鏡をかけた若い女性が話しかけてくる。
「おや、あなたがヤオさんですか? 初めまして、私はアキヅキです」
「あ、どうも、ヤオです」
「あ、ヨシノです」
「レイカです」
「ミヤタさんなの」
この人はここの責任者なのかな。だけど僕が質問する前にうずうずしていたミヤタが尋ねた。
「ここで写真をなおしてくれるの?」
「ええ、そうです。ここでは被災して汚れた写真を直す作業をしています。こうやって丁寧に汚れを落として、写真を加工するソフトで地道に修理をして、綺麗な状態に戻しているんですよ」
アキヅキさんは優しい声で説明する。そういえばそんなボランティア団体があるってニュースで聞いた事があったような。
「そうなの! じゃあおねがいしてもいいの?」
「ええ、もちろんです。これがそのアルバムですか?」
「うん! はい、どうぞ!」
アキヅキさんはミヤタからアルバムを受け取り中の状態を確認する。僕はその時彼女が困ったような顔になったのを見逃さなかった。
「時間はかかりますがこれなら大丈夫ですね」
「ほんと!? ねえ、どれくらいで出来るの?」
「えーと、すぐには無理ですけど……はい」
彼女の表情からミヤタは好ましくない空気を察し、一旦上がったテンションが急激に下がってしまう。
「でしょうね。このペースだと一枚直すだけでもどれくらいかかるか」
レイカは改めて作業をしている人を見渡す。一枚一枚彼らは手作業で洗浄しており、パソコンのソフトでちまちま直しているので修復には膨大な時間がかかるであろう事は容易に想像がつく。
おばあさんの写真だけを先に直してもらう、なんてわがままな事も出来ないだろうし少なくとも一年以上はかかるだろう。それならまだいいが彼女が存命の間に終わらないかもしれない。
「すみませんね。何分写真の修復には特殊な技術が必要なので、出来る人が限られていて人手が足りないんです」
「そうなのー……しゅん」
申しわけなさそうなアキヅキさんの言葉にミヤタはあからさまに落ち込んでしまう。多分おばあさんもこの事を知っていたのだろう。だからあの時無理をしなくていいと言ったのだ。
「んー、まあ、ね、そう落ち込まないでよ、ね」
「そうよ、ミヤちゃん。気長に待ちましょう」
「しょんぼりー」
ヤオとレイカはミヤタを元気づけるけど、こればかりはどうしようもないし仕方がないだろう。
僕も彼女を慰める言葉をかけようとした。だけどそれを言おうとしたところである事に思い至ったんだ。
「すみませんがやっぱりアルバムを返してくれますか? 特殊な技術を持った出来る人がいればいいんですよね?」
「え、ああ、はい、そうですけど」
アキヅキさんはその言葉に驚いた様子だったけど、僕の脳裏にはある一人の人物が浮かんでいた。
こうしちゃいられない、早くあの人に会いに行かないと。お酒をお土産に持っていけばいいかな?




