2-4 ゾンビの宮田マリアさん
スイーツを堪能、ではなく作戦会議が終了しファミレスから出た僕たちにナバタメが告げる。
「あえて言う必要もありませんが今回私は力になれそうにありません。ただ別件でならなんとかなりそうなのでここで失礼しますわ」
「あ、うん、いいけど。一人でも帰れるの?」」
車椅子のナバタメが引っ越し作業を手伝うのは難しいだろう。別件がなんなのかちょっと気になったけど僕が追及する前に、
「ご心配なく。迎えが来ておりますので」
と言って、専用スペースに停めてあった黒い車に向かった。
「そっかー、じゃあねー!」
「ばいばーい!」
「ええ、ごきげんよう」
皆は簡単に別れの挨拶を済ませる。車から現れた使用人らしき人間は軽くナバタメと会話したあと車椅子を押し、車体後部のドアを開けてスロープを出し手際よく操作をして彼女を格納した後その場から去っていった。
「そういえば仮設住宅ってどこ?」
「ああ、私が案内するよ。歩いて行ける距離だし」
「そっか」
僕らはヤオに先導されその場から移動する。
改めて岩巻の街を見渡すとやはりここ最近は特に復興が進み新しい建物もそこら中に出来始めている事がわかる。復興商店街でもそうだったけど、引っ越しラッシュは嬉しい悲鳴だと思いたい。
でもイベントも起きないしなんか間が持たないなあ。ただ歩くだけってのも絵面が地味だし。
「そういえばさ、ヨシノってどうしてミヤちゃんの事を余所余所しくミヤタって呼んでるの? 下の名前とかじゃなくて」
「ん?」
だけどその時レイカはそんな事を尋ねた。僕はその質問の意図がよくわからなかったけど、出会った時のやり取りを説明した。
「ああ、ミヤタがそう呼んでほしいって。ミヤタさんなのー、って言って、ミヤタちゃんね、って僕が言って、ミヤタさんだよって言って、ミヤタさんかって言ったら、なんか変だからミヤタでいいよって」
「イマイチよくわからない説明ね……ああ、そういう事か」
「?」
当の本人のミヤタはぽへーん、と不思議そうな顔をしている。だけどレイカはその説明でなんとなく理解してくれたようだ。
「ミヤちゃんの本名はミヤタさんよ」
「へ? ミヤタさんだけど」
「違う違う、ミヤタが苗字でさんが下の名前。正式名称は宮田マリアさんだけどね」
「あ、そうだったの」
レイカの説明で僕は腑に落ちる。どうやら自己紹介の時にちょっと誤解してしまったようだ。
「ちなみにさんはおひさまのさんなの! まんなかのなまえはお父さんとお母さんくらいしかよばないから、ほぼうらせっていなの」
「へー」
なるほど、太陽のサンね。元気で明るいミヤタにはピッタリな名前だろう。でも誤解だったなら今のうちに修正すべきかな。
「今からでも遅くないし呼び方を変えたほうがいいかな?」
「別にいいよー、なんかいまさら変えられてもしっくりこないの」
「そっか。ならそうするよ」
ミヤタがそれを望むなら別にあえて呼称を変える必要もない。僕もミヤタ呼びに慣れてしまったし。




