2-2 ボランティア団体を作ろう
何が起こったのかわからない。ただ腹部に強烈な鈍い痛みを感じた。その痛みで、僕は夢の世界から強引に現実世界に引き戻されてしまった。
「ヨーシーノーくーん! はやくおきるのー!」
「ああうん……」
意識がはっきりしない中目を開けると、僕のお腹の上にミヤタが馬乗りになっていた。そして窓を開けて太陽の光を浴びるのと同じくらい輝いていた彼女の元気いっぱいな笑顔に、僕はばっちり目が覚めてしまう。
多分僕はさっきまで夢を見ていた。だけどどんな夢を見ていたのか思い出せない。大抵の夢なんてそんなものだけどさ。
「起きるけど、寝起きにボディプレスをしていいのはフィクションの中だけだよ」
「ヨシノくんがねぼすけさんなのがわるいのー。早く朝ごはんを食べるの! ハーリーハーリー!」
「はいはい」
僕はよっこいせ、とベッドから降りて居間に移動する。
今日のごはんの当番は紗幸で、こんがり焦げ目がついたトーストの上にはジューシーに焼かれたベーコンと程よく半熟な目玉焼きが乗せられ、なかなか美味しそうに出来ていた。
「あ、お兄ちゃんおはよう。今日は上手に出来たよ。今コーヒー淹れるね。ミヤちゃんはホットミルクでいい?」
「うん」
「いいよー」
僕はもしゃもしゃとトーストをかじる。卵の黄身がパンとベーコンに絡んで最高だ。このカリサクでそしてもっちりとした食感はトーストでしか味わえないよね。
日本人なら米を食べよう! 僕はその格言に一言付け加えたい。日本人なら米を食べよう! けどたまにはパンもいいよね! こんな感じにさ。
「ぷひゅ、ぷひゅ」
僕はふと餌にがっつくぶたにくに視線を向ける。また一回り大きくなった彼女のサイズに少なからず違和感を覚えてはいたけど僕はあえて見ないふりをしたんだ。
『――アラディア王国は名指しでアメリカと中国を非難し、議論は平行線のまま――イギリスのレイトン元首相は――緊密に――その後、アメリカが牽制――』
ニュースではなにやら偉い人が喧嘩している映像が流れていた。外交というのは絶妙なバランスが求められるけど、僕はそんなに興味がなく断片的にしか内容が頭に入らなかった。
『――王立大学は、認知症の治療――実用化に向けての臨床試験が――』
「ん」
ただつい最近聞いたワードが出てきたので僕は思わずテレビを見てしまった。どうやらアラディア王国の有名な大学で凄い認知症の治療法が見つかりその臨床試験が始まったみたいだ。
これを使えばミヤタのおじいさんもよくなるかもしれないと一瞬思ったけど認知症にも色んなタイプがあるし、そもそも日本じゃまだ認可されていないし出来たとしてもかなり高額になるから運がいい人と金持ちしか無理だろう。
結局こちらも庶民には縁のない話だった。数十年後に普及したとしてもその頃にはもうミヤタのおじいさんも亡くなっているだろう。
「ほけー」
ミヤタはホットミルクを飲んでまったりしている。幸いにしてこのニュースには気付いていない様子だった。
ニュースに興味を失った僕はパンを口の中で頬張りながら彼女に尋ねる。
「ふぉれで、ミヤタ。今日は随分と朝から元気だったふぇど、なんか用事でもあふの?」
「あ、そうだったの! だいじなことを忘れるところだったの!」
どうやら彼女もその何かを忘れていたらしい。僕は咀嚼したパンを飲み込み話を聞く事にした。
「この前も言ったけど、わたしね、みんなのために何かしたいの。だから何をするかを考えたいの」
「ああ、そんな事言ってたね。それで何をするつもり?」
話を聞く限り彼女は意欲があるけどノープランのようだった。だけどミヤタはうんうんと唸って難しい顔になってしまう。
「そもそもボランティアって何すればいいのかな?」
本当にそもそもの話だ。まあ普通はそうだろう。ましてや彼女は何も知らない子供だし。
「はい、お兄ちゃん、コーヒーだよ」
「ども。うーん、僕らには人も伝手も知識もないからなあ。よし、じゃあまずは人と伝手を集めようか」
「ふに?」
そして僕は紗幸から渡されたコーヒーをグビリと飲んで朝食を済ませた。さあ、今日も張り切っていこう。




