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1-75 愚かで強欲な人間たちの商談

 その頃、とある会議室にて。


 部屋の中央に立っていた黄色のスーツを着た身なりのいい男はモニターに映し出された映像を交えてプレゼンテーションを行っていた。


 電柱を振り回す少女、赤ゾンビの集団になすすべもなく蹂躙される人々、街を破壊しつくす巨大な肉塊の怪物。その男――ソウゲツにとっては今回の騒動はよい宣伝効果になり大収穫だったと言える。


 リモートで参加していた参加者たちはその光景に感心し、あるいは恐怖し歓喜した。そのすべてに共通しているのはゾンビという人類を超えた存在に対する畏怖の感情である。


「さて、ご覧いただきありがとうございます。ゾンビが実在する事は当然ご理解していただけたでしょうが……見てのとおりゾンビには無限の可能性が存在します」


 反ゾンビ団体は実にいい仕事をしてくれた。彼らが過激派のゾンビと対立し、政府が隠蔽出来ないほどの騒動を引き起こしてくれたおかげでゾンビの存在は白日の下にさらされたのだ。


 これからはオカルトだと懐疑的な人間はいなくなり信じさせるという手間が省けてビジネスもやりやすくなるだろう。無論彼の目指すものは金儲けなどというものではなくもっと先にあるのだが。


『ああ、わずかな兵力でもひとたび感染させれば容易く都市を、いや国家を滅ぼす事が出来る。最早核兵器よりもずっと便利で強力ではないだろうか』

『それにこれは医学の分野にも使えるだろう。人類がずっと求めていた不老不死が実現出来るかもしれない』

『単純に労働力として使うのもありだ。休息を必要としないゾンビは危険で過酷な現場でも永遠に働く事が出来る。実際福島の原発ではそうしているようだし』

「まあ使い道はそれぞれご自由に」


 様々な思いをめぐらせる参加者たちの表情をモニター越しに眺めたソウゲツは不敵な笑みを浮かべた。


 こんなものを見ても考える事は自分たちの利益に関する事だけだった。やはりいつの時代も人間は強欲で残酷である。それが彼はたまらなくおかしかったのだ。


「さて、映像はまだ残っています。実は今、とある場所で余興も兼ねたデモンストレーションをしておりまして」

『ほう?』


 ソウゲツが説明しモニターの画面が切り替わる。そこは木々がうっそうと生い茂りどこかの山奥のようにも見えるが、複数に分割された画面の一つに拳銃を持った人間たちが死に物狂いで逃げる映像が映っていた。


『グオオオオ!』

『ひ、い、うわああッ!』

「ふむ、ちょうど面白そうな事になっていますね」


 彼が指示するまでもなくその画面が拡大される。そこには反ゾンビ団体が支持していた代議士と二名のSP、それに彼らを追いかけるクマゾンビが映っていたのだ。


 SPは銃を数発撃ち無意味と判断した後は抵抗するのを諦めて一目散に逃げだす。足の遅い代議士を早々に見捨てて。


『待ってくれ! 私を見捨てるのか!』

『ハッ! 最初からこうするために一緒にいたんだよ! お前は太って美味そうだからこいつらを引き寄せるエサにはぴったりだろうさ!』

『あばよ! 金の切れ目が縁の切れ目だ!』


 金で雇われた護衛には最初から忠義など存在するわけもない。彼らは代議士をその場に残して森林地帯に行方をくらました。


『あ、あああッ!』


 代議士は枝に足を引っかけて転倒しクマゾンビが背中から覆いかぶさる。鋭い牙をむき出しにし、生臭い息を吐いてごちそうを前にクマゾンビはよだれを垂らしご機嫌な様子だった。


『や、止めて、く、ぎょ、ぐぉお、ぼ、ごあ、ァ……』


 ゴギュリ、クチャリと、肉と骨を噛み砕く音が聞こえ次第に声は聞こえなくなる。しかしそんな悍ましい光景に恐怖する参加者はこの場には誰一人としていなかった。


「実はこれ、別の場所でも流しておりまして。ゾンビ相手に誰が何人生き残るかという賭け事をしているのですよ。やらせなんて一切ない極上のエンターテインメントです。残念ながら諸事情により一匹用意出来なくなり三匹だけでやっているので少々物足りないですがね」

『ふむ、なかなか面白そうだ。私はギャンブルが好きだから次に開催する時は是非とも声をかけてくれ。デモンストレーションではなくこちらも本格的に手掛けてはどうかね。君の手腕なら余裕だろう?』

「お褒めいただきありがとうございます。前向きに検討させていただきます」

『しかし彼は君のビジネスパートナーだったのでは? 血も涙もないな』

「もう過去の話ですので」


 ソウゲツはハッハッハ、と笑みを向けてプレゼンを続ける。会議に参加していた和服の女性はそんな彼を退屈そうに眺めていた。



 プレゼンテーションが終わりソウゲツは窓のない長い廊下を歩く。そんな彼に先ほどの和服の女性――ヤツカが話しかけてきた。


「カリスマ経営者になった気分はどうじゃ、ソウゲツ」

「ふむ、少し嫌味っぽく聞こえるのは気のせいか?」


 お互い笑みを浮かべていたが目は笑っていない。他人が見れば、一目で二人は犬猿の仲である事はわかるだろう。


「まあ金儲けに夢中になり過ぎて、目的と手段をはき違えぬようにな」

「当然だ、ヤツカ。金など直に意味をなさなくなる。その時には紙幣など焚火の材料にしか使えん。そんなものは最初から必要ない」

「ならよいがの。そうじゃおぬし、最近フェイスレスの奴を見んが仕事をほっぽり出して何をしとるか知っておるか?」

「私は知らんよ。あいつが自由気ままなのはいつもの事だろう」

「……まあそうじゃがの。まったく、どいつもこいつも」


 ヤツカは呆れ果ててため息をつく。イマイチまとまりがないがそれも仕方がない。超越した存在の自分たちは本来誰の指図も受けない我が強い曲者ばかりなのだから。


「ま、わしも他人の事は言えんか」


 彼女は思わず失笑する。自分にも信念などというものはない。あるとすれば退屈を紛らわすために、常に自分が楽しいと思う選択をするくらいだろうか。


「せいぜい、この宇宙に自分を満たしてくれる娯楽があればよいのじゃがのう」


 悪しき享楽に身を委ねるヤツカはそう渇望しこの先に待ち受ける滅びを楽しみにしていた。ソウゲツはそんな彼女に見下すような笑みを向けたのだった。

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