1-65 生存者発見、そして脱出
そしてゾンビを追ってたどり着いたのは大きなドアがある部屋の前だった。部屋の前には二十体程度のゾンビが群がっておりドアを破壊して中に入ろうとしているようだ。
「もしかして……ミヤタ、すぐに殲滅しよう!」
「うんッ!」
ミヤタは飾りの天使なのか仏像なのかよくわからない像を掴みぶんぶんと振り回してゾンビを一掃する。こういうのを見ると銃でちまちま倒すのが馬鹿らしくなるね。
「この団体は宗教団体が支持母体なんだっけ。これはその神様かなんかなのかな。さあ、ドアを開けて!」
「わかったの!」
ミヤタは破損した銅像を捨て力を込めて回し蹴りを浴びせて大きなドアを破壊する。ドアの向こう側にはイスやテーブルでバリケードが作られていたみたいだけど、力加減が出来ない彼女はそれごとぶっ壊してしまったようだ。
「きゃああ!」
「ヒィィ!」
僕は恐怖した人間の悲鳴を聞いて安心する。その大部屋には多数の生存者が身を寄せ合って震えていたのだから。
人数は推定だが百人以上はいるだろう。学校の授業でミュージカル映画を見るため三クラスくらい無理矢理音楽室とかに押し込められた光景をイメージしてくれたらわかりやすいかな。
「どうやら無駄足じゃなかったみたいだね。神様のご利益があったみたいだ」
「よかったの! みんな、もうだいじょうぶなの!」
「ほ、本当か!」
「私たちは助かるのね!」
ミヤタが大声でそう告げると生存者は歓喜する。僕はある事に思い至り彼女にそれを伝えようとしたけどやっぱり救出を優先する事にした。
「さ、こっちが安全です! 慌てずに落ち着いて!」
だけど彼らも喜びのあまり周りが見えていないのか、避難誘導をしている際も誰一人として彼女の白い眼を気にしている様子はなかった。案外気付かないもんなんだね。
「ああそうそう、一階で猫のゾンビが暴れているかもしれませんが三匹だけなので気合で逃げてください! 一人二人は怪我するかもしれませんが!」
「あ、ああ!」
ドーラたちとの遭遇はリスクがあるけれど煙の勢いも強くなりもう回り道をしている時間はない。僕は迷わず生存者にそう指示を出した。
「待って! 私を置いて行かないでください!」
「ん?」
部屋にいた最後の一人を誘導したところで僕はまだ一人だけ少女が残っている事に気が付いた。シックなドレスを着た彼女は怪我をしているのか立つ事が出来ず逃げられないようだ……って?
「ありゃ、ナバタメ」
「ヨシノさん!? どうしてここに!?」
そこにいたのは僕の同級生のナバタメだった。ここに来たのは彼女の救出も目的だったけどどうやら無事生き残っていたらしい。内心諦めていたけどよかったよ。
僕は彼女に近付き手を差し伸べる。
「まあ、うん、説明が長くなるからそれは後にして今は逃げようか」
「す、すみません。車椅子が壊れてしまい私は移動する事が出来ないのです」
足が不自由な彼女は普段から車椅子で移動しているわけだけど近くにそれらしきものはない。彼女が自分の力だけで生き延びるのはまず不可能だろう。
「そっか、じゃあ僕がおんぶするよ」
「あ、ありがとうございます!」
銃をしまった僕は涙目のナバタメをおんぶし彼女をしっかりと背負う。下半身の自由が利かない彼女はすぐに落下してしまうからちゃんと支える必要があり、銃を持ちながらおんぶなんて器用な真似は出来ないからね。
小柄な部類に入るナバタメの体重は軽かった。下半身の筋肉がほぼない事も理由かもしれない。おかげで僕でも簡単に背負えるから助かるけど。
「というわけでミヤタ。僕はしばらく戦えないから」
「うん、わかってるの!」
ミヤタはモップを如意棒のように上手に振り回し気合をアピールする。厳密にはまだ安心は出来ないけど生存者を助ける事が出来たのだから今はやる気に満ちているのだろう。
「あら、こちらの方は……? それに眼が」
「それも後で説明するよ。少なくとも彼女は危険なゾンビじゃないよ」
「は、はい」
ナバタメは白い眼の事に気が付いたので僕は先手を打って否定する。ここは詳しく突っ込まれて気付かれる前にとっとと逃げないと。
ひとまず来た道を引き返し先に逃げた人と合流しよう。
火災やアマミと戦う事を考えるとたとえまだ生存者がいたとしても時間的に救出はもう無理だ。しかし百人近い人を助ける事が出来たわけだから僕は上出来だと納得する事にしたんだ。




