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1-61 反ゾンビ団体の末路

 暴動から数時間後。反ゾンビ団体の破滅の時は刻一刻と迫っていた。彼らが所有する会館では環境保護を名目にした選挙に備えた会合が開かれる予定だったが、時間になっても幹部たちは会場に現れずこうして応接間で頭を抱えていたのだ。


「どうしてくれるんだッ! いくら何でもやり過ぎだろッ!」


 苛立ちを隠せない代議士は黒革のソファーから立ち上がりゴン、と拳でテーブルを叩きつける。彼は反ゾンビ団体が指示していた大物国会議員であり互いに利用し合っていた関係ではあったのだが、今回の暴動である意味最も被害を被った人間ではあろう。


 既に反ゾンビ団体を煽ったコメントは削除したがネットでは大炎上しており、とてもではないが沈静化出来る状況ではなかった。


「議員辞職どころじゃないぞ! 全員逮捕される! 私も貴様らも終わりだ!」

「わ、我々に言われましても! 大体あなただって煽っていたじゃないですか!」

「あんな馬鹿げた話を本気にする奴がいると思うわけないだろう!」


 反ゾンビ団体の幹部は誰一人責任を取ろうとしなかった。陰謀論によるただの金儲けのつもりがこれほどまでの事になるとは思っていなかったのだから。


「クッ……もう金を持てるだけ持って逃げるしかない。私は今日中に日本を出る。お前らも勝手にしろ! 人生を棒に振りたくなければな!」

「は、はい」


 札束の入ったジェラルミンケースを持った代議士は荒々しく歩き部屋を出てドアを勢いよく閉める。そのあまりの剣幕に残された反ゾンビ団体は狼狽したものの、保身のために彼の言うとおりにする事にしたのだった。


「クソ、クソ、クソッ!」


 代議士の怒りは収まらない。自分が長い年月をかけて培ったキャリアがわけのわからない人間の妄想によって一瞬で瓦解したのだ。冷静になれという方が無理な話だった。


「何がゾンビだ……そんなものいるわけがないだろう!」


 そんな事は子供でも分かる。ゾンビなど架空の存在だ。なのになぜ本気で信じたのだ。頭の悪い連中の考える事はさっぱり理解出来ない。


「アアアアッ!?」

「ッ!?」


 だがその時通路の奥から男の叫び声が聞こえる。代議士は何事かと思いその声の正体を確認した。そしてそこには――。


「しぃあわせだなぁああ」

「こわくないよぉお」


 そこにはこの世にいるはずのない何かがいた。虚ろな赤い眼を光らせ、覚束ない足取りでうごめく人の形をした何かが。


「あ、ああァア、ガァ!?」


 その中の数体は床でもがく職員に覆いかぶさって全身に何度も噛みつく。しばらくしてから職員は手をだらんと床に落としピクリとも動かなくなってしまった。


「あ、ああ」


 代議士は金の入ったケースを落としその場にへたり込んでしまう。あれは何だ。ゾンビか。


 いや、そんなはずはない。そんなものがいるはずがない! あれは頭の狂った人間の妄想の産物のはずだ!


「ひっ!」


 彼はよろめきながら立ち上がるが恐怖で足がもつれて上手く立てず、生きる事だけを考え金を捨てて背を向けて逃げ出した。


 あれが何なのか分からなくても生者にとって危険なものである事はわかる。今は一刻も早く逃げなければ。


「……………」


 ゆらり。闇の中を不気味な赤い二つの光が揺れる。それはどこかホタルのように儚く泣いているようにも見えた。

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