1-57 ゾンビ映画で死ぬ三番手みたいな奴の愛の告白
同時刻、南合馬総合病院にて。
暴徒に狙われないために明かりを消し野戦病院となった病院には、人間、ゾンビ問わず多くの負傷者で溢れかえり耐え難い恐怖と絶望感に包まれていた。
入り口には急ごしらえのバリケードを設置したが暴徒の数は多く、突破されるのも時間の問題だろう。傷だらけの避難民たちは根拠のない希望にすがり恐怖に耐える事しか出来なかった。
「出て来いッ! 出て来いよッ!」
「皆殺しにしろォッ!」
罵詈雑言を浴びせながら入り口のガラス戸を鉄パイプなどで破壊する音が聞こえる。血走った目で群がるその姿はまさしく映画に出てくる血肉に飢えたゾンビそのものだった。
「ひっ」
「だ、だいじょうぶ、きっとたすかるよ!」
ゾンビの子供の一人はマタンゴを抱きしめ涙を流して震えている。マタンゴも怖いのは同じはずなのに子供をなだめようと必死で勇気を振り絞っていた。
「まずいな……援軍はまだなのか!」
頭に血で染まった包帯を巻いたホンジョウは苛立ちを隠せなかった。最早一刻の猶予もない。だが彼らに打つ手はもう存在しなかった。
「こりゃ危険を承知で裏口から避難したほうがいいかもな」
彼がそう提案するとシャロとチョコがさらに意見を述べる。そして臨時区役所の職員も。
「もしその手段をとるなら私たちが時間を稼ぎます」
「猫に九生あり……意地を見せてやるニャ」
「俺も行きます!」
「年寄りを舐めてもらっては困るのう。ワシも行くぞ」
彼女たちは町の人を護るため決死の作戦に臨む覚悟を決める。だがただ一人、この期に及んで躊躇していた人間がいた。それは代表のアマミだった。
「アマミさんはどうする。もう時間が無いんだ。意見があれば聞かせてくれ。何もしないなら全滅する。他に案が無い場合は俺達だけで行動するよ」
「そ、そんな……私には……決められません」
泣き叫ぶようにアマミは答えた。自分の決断にコミュニティの人間の命がかかっている。少し前までただの少女だった彼女に助かる命を選ぶ事なんて出来なかった。
「そっか、一応聞いたけどそりゃそうだろうな……決断しないならそれでもいい。いや、決断しなくていいんだ。だからもうアマミさんは無理しなくていいんだ」
「そんな、それじゃあホンジョウ君たちが!」
ホンジョウはその言葉を聞いて笑みをこぼしてしまった。その時彼はようやく自分が嫌われているわけではなかった事に気が付いたのだから。
「ありがとう、アマミさん。けどさ、好きな女の子の前なんだからカッコつけさせてくれ。こういう時どう言えばいいのかな……ああ、こう言えばいいのか。大好きでした、アマミさん」
「ホンジョウ君!」
バキィ! ブルドーザーが突っ込みバリケードは大きく損傷し人々は悲鳴を上げる。次の一撃で最後となるだろう。
生贄を前にした悪魔の様な暴徒たちの歓声が聞こえる中、止めを刺すためにブルドーザーは荒々しく後退する。
決断の時だ。
ホンジョウは覚悟を決めた。愛する人と町の人を守るために。
「行ってくるよ」
「ホンジョウ君!」
彼が駆け出すと同時に再度突撃したブルドーザーによって入り口のバリケードが破壊され大量の暴徒がなだれ込む。滅びの時は訪れてしまった。
「私だって……私だって! 皆さん、逃げてください! こっちです!」
そしてアマミも歯を食いしばり涙をこらえて自分の戦いをする事を決意する。彼女は危険を顧みずパニックになる避難民たちの誘導を始めた。




