1-55 VS反ゾンビ団体
僕はニュースとかで海外の暴動の映像は何度か見た事があるけれど、その非現実的過ぎる光景は正直遠い世界の話だったから見ても特に何も感じなかった。きっと多くの平和ボケした日本国民も似たような事を思っていたかもしれない。
けれど今、氷嶋駅周辺は暴力が蔓延る戦場になっていた。
「ゾンビに死をッ!」
「地球を守れッ!」
「首相は退陣ッ!」
暴徒はプラカードをゲバ棒にし、その辺の地面を破壊して入手したコンクリートブロックで投石、あるものは火炎瓶を投げ美しかった駅周辺は見るも無残な姿に成り果てていたのだ。
「機動隊はまだかッ! これ以上はもたないぞッ!」
「動ける奴は手を貸してくれッ!」
戦っているのは服装から警察官だろうか。しかし盾や催涙弾と言った専用の装備が無いため苦戦しており、負傷して戦闘不能になり倒れている人もちらほら見かける。死人が出ていてもおかしくないほどの惨状だった。
だけどそこに――明らかに場違いな一人の少女が現れた。
「ふににーッ!」
「うわあああッ!?」
ミヤタは三色の信号機を振り回し一気に暴徒を薙ぎ払っていく。ただ闇雲にグルグルと回っているだけだけどそれだけで十分強力だった。
「みんな、はなしをきいてほしいの! だからあばれないで!」
彼女は切実な声で暴徒に訴えかける。だが彼女の言葉に耳を貸す正常な精神を持った人間はこの場には誰一人いなかった。
「ゾンビだッ! ゾンビがいたぞッ!」
「殺せッ! この国を守るんだッ!」
「一切容赦をするなッ! 相手は人間じゃないッ!」
「正義のためにッ!」
「殺せェッ! 政府に洗脳された愚かな肉人形どもをヴォォォオオッ! シェロリルルララアアアァァアア!」
僕はため息をつき懐から拳銃を取り出した。頭に血が上っていて会話が成立しそうにないし最早この手段しかないだろう。宇宙言語で叫ぶ随分とエキセントリックなギョロ眼おばさんもいるし。
「いやー、人間こうはなりたくないね。そんなに暴力がお好きなら存分に鉛玉をあげるよ!」
ズドン、ズドン、ズドンッ!
「ぎゃああああッ!」
「痛ぇよおおッ!」
「銃で撃たれたぞッ!」
いかに暴徒でも拳銃は流石に怖いらしい。僕が放った数発の弾丸で暴徒の一部は恐れをなして逃げてしまった。ただし逃げなかった奴は怒り状態になってより攻撃的になったけど。
「貴様らァ! 肉の盾となる栄誉を与えようッ! 国家の礎となるのだァッ! 喜んで死にながら進めェェエエシャーハーッ!」
「だからあんた一人だけ世界観が異常なんだって」
ズドン。暴徒を扇動するエキセントリックおばさんに弾丸を一発。相手は人間だから胴体を狙っておけばいいだろう。こんなの死んだ方が世界のため、いや、とある鳥取を舞台にしたゾンビモノ風に言えば世界観ァンのためだ。
彼女は後方にゆっくりとのけぞる。これで多分エキセントリックおばさんは死んだ、と思いきや。
「キェュギュエエエエッ!」
「おわっ」
そのままブリッジの態勢になり高速で四足歩行で接近してくる。こいつどう見ても人間じゃないよね。
「そいやー!」
「げべぇッ!?」
だけどその時空から自販機が降ってきてエキセントリックおばさんは押しつぶされて動かなくなる。投げたのはもちろんミヤタだ。
「つい投げちゃったけど、だいじょうぶかなこの人……」
「大丈夫、こんなにエキセントリックな人はそう簡単に死なないよ。それよりも戦いを続行しよう」
「う、うん」
ミヤタはなお心配していたけれど、むしろ僕はこのおばさんこそゾンビではないのだろうかと思っていた。
「ねぇ、ミヤタ。もう言葉で解決出来る状況じゃない。殺せとは言わないけど暴力を振るう事に躊躇したら駄目だ」
「……うん」
僕がそう説得するとミヤタは悲しそうに頷く。ようやく理解した彼女は唇を噛みしめて暴徒を真っすぐと見つめた。
「みんなにひどいことして! お前ら人の話をきけ、ばっきゃろー!」
「うわああッ!?」
怒ったミヤタは戦略も何も考えずその辺にある自転車や道路標識を暴徒に投げつけ攻撃する。シンプルで幼稚なゴリ押し戦法だけど拳銃の恐怖効果も相まって暴徒の勢いは徐々に衰えていった。
というか、まあ、うん。
「ふににー! いつもより多く回ってるの!」
「ギャース!」
やっぱり電柱によるグルグル攻撃が最強だね。障害物がない広い空間でしか使えないという条件はあるけれど異常な攻撃範囲と威力であっという間に雑魚をなぎ倒すからさ。うーん、僕は必要なかったかも。
「おわああッ!?」
道路の向こう側から現れた火炎瓶を装備したバイク部隊は電柱の直撃をもろに食らい転倒する。これにより主だった敵は粗方撃破しどうにか一息つく事が出来るだろう。
「敵も減って警察も集まってきたし、このくらいで十分だね」
「うん、次はみなみおうまなの! 早くみんなを助けに行かないと!」
「うーん」
ミヤタは電柱をそのへんに捨て危うげな勇気を振り絞る。今の彼女は焦って冷静に判断が出来ないから注意が必要だ。
「そうだね、そのほうがいいかもしれない。僕はこんなにチートな君の事を心配するほど強くはないから。きっと君なら千人くらいは余裕で倒せるだろうね」
ただそれを補って余りあるほどにミヤタは強かったので、僕は先ほど彼女の身を案じた事が馬鹿らしくなってしまう。
これが本物のゾンビの力なのだ。もしこんな映画に出てくるゾンビが彼女のようなゾンビばかりなら人類は一日で滅亡するか、あるいはとても平和になるかのどちらかだろう。
いや、間違いなく後者だな。きっと彼女が支配する世界の戦争では銃の弾丸は砂糖菓子になって、爆弾はアップルパイになるんだろうな。
丁度移動手段に使えそうなバイクもある。僕は今しがた撃破した連中が乗っていた比較的損傷の少ないバイクをよいしょ、と持ち起こし安全に運転出来るか確認した。
周囲からは新たな暴徒や機動隊が集まってくる。ここに長居をすれば乱戦に巻き込まれてしまうだろう。
「二人乗りでノーヘルになるけど構わないかな。なんか危なそうなのが集まっているし早めにこれでこの場を離れたいけど」
「うーん、けど仕方ないの。ここはいっしょにヒャッハーするの!」
僕がバイクに跨りながらそう言うとミヤタも覚悟を決めて僕の後ろに座る。一応免許は持っているけど命を預かるわけだからやっぱり不安はある。
「そっか、しっかりつかまってね」
「うん! 早くアマミちゃんたちをたすけに行くの!」
「ラジャ」
ミヤタは腕を回し僕にしっかりと抱き着く。君の命は僕が確かに預かったよ。
さあ、交通法規なんて気にせずフルスロットルで走れ。暴力が支配するこの場には僕らを守ってくれる法律なんて存在しない。
無力な六法全書は獣肉を焼く焚火の燃料にしろ。生き延びるために必要なものはただ一つ、あらゆる手段を使ってでも生きてやるという強い意志だけだ。
黒煙と炎が立ち上る荒れ果てた氷嶋の市街地をバイクが疾走する。降り注ぐ雨はまだ当分止みそうもなかった。




