1-51 UFOの山で、皆も一緒にベントラァアアア!
その日、僕は最後になるかもしれないミヤタとの観光を楽しむ事にした。
ゾンビのコミュニティを離れた僕たちは氷嶋周辺に戻りとある公園を訪れる。
「みょみょみょーん。ワレワレハウチュウジンダー」
「宇宙人の真似をしてるの?」
ミヤタは公園に置かれたグレイ星人の真似をし、ちょっと目頭をあげ喉を叩いてそれっぽい声を出した。多くの人間がこの文章の前半部分に違和感を覚えるだろうけどまずは気にせずスルーして欲しい。
「でもどうしてみんなうちゅうじんのまねをするときにこのセリフを言うのかな?」
「諸説あるけど昔の映画が元ネタだそうだよ。あと扇風機でもやるよね」
「うん、夏のふーぶつしなの! でもさいきんははねがないやつもあって出来ないからなんかさびしいの」
とりとめのない話をしながら僕らは公園を散策する。園内には至る所に宇宙人やUFOを模したオブジェや看板がありその個性あふれる光景は見ていて飽きなかった。
ここは万両林公園という場所でその筋では有名な場所だ。すぐ近くにある星降山は日本屈指のUFOの出没スポットであり、ちょくちょくオカルト系の番組でよくわからないオッサンがベントラーしているからおそらくそういう番組を見た事がある人は一度は目にした事があるだろう。
観光資源に乏しいのか行政も乗っかり見てのとおりこれでもかと便乗している。まあ盛り上がるならなんだっていいけどさ。
「怖いもの見たさで一度は来たかったけどね。この辺って大昔に宇宙人がやってきたらしいよ。星降山の伝説は知ってる?」
僕はふと、とある昔話を思い出したので彼女に話す事にした。どこで聞いたのか思い出せなかったけど。
「ううん、しらないの。なにそれ?」
「空から船が落ちてきて、その中には美しい不老不死の少女がいてさ。彼女はとても物知りで、その知識をこの地に住んでいた人々の生活のために生かして仲良く暮らしてたんだけど、知識と不老不死を求める人によって危ない目に遭って、最後になんかドッカンってなって、集落が滅んで猪神湖が出来たって話」
「へー。なんだかかわいそうな話なの」
「まあただの昔話だけどね」
うろ覚えで話術も何もなく適当に話したというのにミヤタは悲しそうな表情になってしまう。本当に感受性が豊かだね。
「とにかくそんなわけでここは昔からUFOが有名だったのさ」
「そうなんだー。あ、見て見てー! UFOをよぶアンテナだって! ヨシノくん!」
「アンテナだね」
うん、こういうノリは嫌いじゃないよ。なぜこんなものを作ったんだとか細かい事を考えずミヤタのように純粋に楽しもう。それが正しいUFOとの付き合い方だよ。
「わたしたちもよんでみる? みょんみょんみょーん」
ミヤタはなにやら念じてアホ毛をみょんみょんさせて電波を発生させる。僕はそれを見て彼女はそちら側の住人ではないかと思ってしまった。
でも、もしかすればゾンビの起源はまさか宇宙なのかッ!? 今の話もそれと合致する。まさか、まさかッ!?
(……なわけないか。考え過ぎだよね)
僕は馬鹿馬鹿しい思考をやめ観光に専念する。取りあえず宇宙人の看板の写真を撮ってみよう。パシャパシャと。
「ヨシノくんもやってみようよ! みょんみょんみょーん!」
「え、昼間から?」
「大丈夫、けっこうそういう人がいるから!」
僕はキョロキョロと周囲を見渡すとグラサンをかけた太っちょなおじさんが両手を天に掲げ何やらブツブツと言っていた。怪しさ全開で猛烈に距離を置きたいけどきっと彼はとてもピュアなだけの人に違いない。
「やらないの?」
ミヤタはとても純粋な目をしたので僕は思わずたじろいでしまう。これは……人としてやらないと駄目だよね!
「よし、やろうか」
「おおー!」
僕は深呼吸をし覚悟を決める。こういうのは勢いが大事だからね。
「ベッ! ンッ! トッ! ラッ! ベッ! ンッ! トッ! ラッ!」
とにかくダイナミックにッ! 宇宙と一体になりッ! 万物流転のコズミックダァンスだッ!
「スペェェエスッッ!! ピィイィポオオオォォオオッッッ!!!」
「ピイイポオオオッッ!!!」
ミヤタも元気よく呼応し、天高く叫んだ僕の願いは宇宙に届いた。
ただ、それだけだった。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「うちゅうじんさん来ないのー」
「だろうね」
僕はすぐにシラフに戻り何事もなかったかのように観光を続ける。用事も何もないのにそう簡単に宇宙の彼方から来るわけないか。
「ユーアーナイススペースボーイ」
「オウイェス」
けど熱い眼差しをした太っちょおじさんはまるで黒〇崇矢のような見た目にそぐわないいい声でそう言って親指でグッドサインをしてくれたので、僕も取りあえずサムズアップをしておいた。
ぴょこん。
「ちゅるるー?」
「さて、と、次はどこに……ん?」
草むらから僕らをのぞき込んでいたそいつは、気配を察知した僕が振り向くと同時に慌てて身体をひっこめた。
なんか今小さな緑色のタコみたいな奴がいた気がするんだけど、気のせいだよね。
「ヨシノくーん! 早く行こうよー!」
「そうだね」
何かがいたとしてもどうでもいいか。宇宙人がいてもいなくても僕の生活には特に影響はないし。




