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1-50 過激になっていく反ゾンビ団体と世論

 その晩僕らは白ゾンビの人が用意してくれた宿、正確には空き家に滞在し一夜を過ごす事になる。


「ごろごろー」


 ミヤタはもやもやしているのかじっとする事が出来ず布団の上をむすっとした顔で転がっていた。僕はそんな彼女を気にせずスマホでニュースアプリを開き画面をじっと見つめる。


『黙れよこのキ〇ガイッ!』


 画面に映るニュースからは反ゾンビ団体のデモの様子が映し出されている。番組では一部だけが切り取られ上手に編集し警察がいかに横暴なのかを主張していた。


『ここ最近反ゾンビ団体と市民との衝突が激化しているわけですが、いかがでしょうか』

『確かに無茶苦茶な主張はあるかもしれませんがそもそも無茶苦茶なのは政府も同じです。不満が溜まっている証拠ですよ。安全だ危険だ、主張がコロコロ変わりますし、隠蔽もしてますし、国民との信頼関係が崩れたのが原因です。それをわかっていながらこうやって暴言を吐くっていうのはねぇ』


 なんとか大学の客員教授でエクストリームアイロニング協会の代表というよくわからないコメンテーターはやっぱりよくわからない意見を述べる。反ゾンビ団体は被害者でこういう流れに持っていきたいぞ、という番組の意向を汲んでいるという意味では天職かもしれない。


 これ以上この中身のないニュースを見ても時間の無駄だな。僕はちょっと気になっていた爆弾テロについても調べてみる事にした。


「へえ……ほかにもテロが」


 代議士は生存して巻き込まれた全員が命に別状はなかったみたいだけど、平和な日本ではめったに起こらない爆弾テロは無論ニュースのトップで扱われていた。


 それは別に驚かなかったが、どうやらあの日は未明から連続して氷嶋にある反ゾンビ団体の拠点が襲撃されており多数の死傷者が出ていたようだ。


 あの日に起きたテロは判明しているだけで全部で四件。未明に最初の事件が起こり、そして僕らが岩巻駅を電車とバイクで出発した頃、レイカと一緒に老人ホームや市街地をうろちょろしていた頃、そしてドーラが起こした爆弾テロだ。氷嶋を散策中やたらとパトカーを見かけたけどあれはこういう事だったのか。


 関係者の一人はとある廃墟のビルで遺体となって発見されて拷問をされた痕跡があったらしい。詳しくは描写されていないけれど何をされたのかな。


『一連のテロは同一の組織が関与か』


 マスコミは少ない情報を元に早速憶測で記事を書いている。もしそうならドーラ率いる山猫一家や赤ゾンビのリーダーがその犯人なのだろうか。


 と思っていると防犯カメラには武器らしきものを持った不鮮明な人間の後姿が写っていたから犯人は少なくとも山猫一家ではないのだろう。では消去法で赤ゾンビのリーダーか。


 だけど誰が犯人だとしても僕には関係のない話だ。


(それにしても……何だか気持ち悪いな)


 コメント欄は荒れに荒れている。悲しい事に結構な人数が反ゾンビ団体を支持しており僕は反吐が出そうになった。


『支持者の皆さん、近々日本に、いや世界に大きな変化が訪れるでしょう。真実はその時明らかになります。反ゾンビ団体が、そして政府のどちらが正しいのかどうか』


 その一因となっているのは間違いなく彼らが信奉する議員だ。彼はここ最近このように思わせぶりな事を言って連中を煽りに煽っているのだ。それに踊らされるほうも大概だけどさ。


 なぜ彼らは会った事もない存在を想像だけでここまで憎めるのだろうか。一度でも会えば普通の人間となんら変わらない事がわかるはずなのに。この言葉で苦しみ、殺されて命を落とす人間もいるというのに。叶うのならコメントをした人間全員の脳天に鉛玉を撃ち込みたかった。


 あまり見たくなかったが詳細な事を知るため最新の動画も見てみる。テロ事件があったせいもあり彼らは血走った目で暴動まがいのデモをしていた。


『首相は退陣しろ!』

『腐ったゾンビ政治家どもをぶち殺せッ!』


 腐ったゾンビ政治家か、上手い事を言う。けどこれでは暴動になって死人が出るのも時間の問題だろう。


 だがこちらは実際に過激派ゾンビにより仲間を殺されているわけだから怒るのも多少はわからなくもない。そもそも先に仕掛けたのは向こうではあるからあまりそれを認めたくないけど。


 いや、何にしても彼らはゾンビを武力を使い徹底排除しようとしている。果たしてそんな暴力的な世界でミヤタは幸せに生きていく事が出来るのだろうか。


「ねえ、ミヤタ。南合馬はどうだった?」

「え、うん。おいしいものもたくさんあっていいところだと思うよー。フルーツとかからあげとか」


 ミヤタは転がるのをやめ晩ごはんで食べたとなみや食堂の唐揚定食を思い出したようだ。なんの変哲もない味だったけれどああやって普通にごはんを食べる事も実際の所容易ではないのだ。


 ここでひっそりと隠れて暮らすのもミヤタの幸せなのかもしれない。身寄りもない境遇ではなおの事だろう。


 いや、そうすべきだ。ここで暮らす以外に彼女が幸せになる選択肢は存在しないのだから。


 少なくとも僕は……まだ彼女の人生を背負う覚悟が出来ていなかった。


「ミヤタ、今日はさっさと寝て明日も適当に県内を観光しようか」

「うん、いいよー。でもヨシノくん、がっこうはどうするの?」

「こっちのほうが大事だから。僕は勉強出来るしちょっとくらいサボっても平気さ」

「そっかー。ヨシノくんはわるいこだね!」

「そうだね、悪い子だ」


 僕はハハ、と思わず苦笑してしまった。もうちょっと県内を観光したら改めて話そう。


 まだ決心がつかなかった僕は明日を最後の日と決めて、スマホのアプリを閉じたのだった。

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