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1-45 マタンゴさんの南合馬観光ツアー

 町ブラをする事数十分。僕は小腹をすかせたミヤタにアンパンを買い与え歩きながら周囲の風景を眺める。


「あーむ!」


 ぱく、という可愛らしい効果音とともにミヤタは十字の切れ込みが入ったアンパンをがぶりと食べる。アンパンにはあんこのほかに赤い何かと白い生クリームが入っておりなかなか美味しそうである。


「ぶもー」

「また牛だ」


 初めて駅を降り立った時にも見かけたけどこの町はその辺を牛が歩いている。田舎の農村では珍しくないけれど市街地には普通いない。


 付け加えると茶色の牛さんの頭には立派な黒い角が生えていた。悪魔のように禍々しいそれは穏やかな顔とは明らかにミスマッチだし、岩手とかにはブランドになっている短角牛はいるけど日本にこんな角が生えた牛はいないと思う。


「もぐもぐ。ああいう牛さん、じしんのあとに何匹か見かけたの。牛さんだけじゃなくて、ブタさんとかもそのへんにいたよ」

「へえ、どこかから逃げたのかな」


 原発事故のあった地域には養豚場や牧場もいくらかあったわけだけれど放置されたせいで何体もの動物が脱走した。特にブタはイノシシと子供を産んでしまいそれが大量発生して問題になっていたっけ。


「いや、だとしてもあの角は、うーん」

「ぶも」


 牛さんは悩む僕を気にも留めず、頭をおろして路肩の草をもしゃもしゃと食んだ。こんなパイソンのような牛がそのへんにいるなんてまあまあ危険に思えるけど町の人は駆除とかしないのかな。可哀想だから放置しているという可能性もあるけど。


「はいしどーどーはいどーどー」


 そしてさらに牛が現れる。だがこちらは沖縄にあるような二輪の牛車をひいており、牛の背中に座ったキノコくんが指示を出して巧みに操っていた。


「そこのにんげんさん、あるくのつかれたよね。のっていかない? どこにいってもおだいはかんづめひとつぶんだよー」


 キノコくんは出会って早々声をかけてくる。日常生活ではお目にかかれないなかなか奇妙な光景だけど僕は特に動じずミヤタに尋ねた。


「だってさ。乗る?」

「うん、乗ってみたいの!」


 ミヤタは迷う事無くそう答えた。ちょっと恥ずかしいけど僕は彼女と一緒に席に座ったのだった。


「どちらにむかいますかー?」

「この町の事がわかる、君がお勧めしたい場所を」

「りょーかーい。マタンゴさんのみなみおうまかんこうツアーをこころゆくまでたのしんでねー」

「ぶも」


 キノコくん改めマタンゴさんはぺちぺちと背中を叩き牛さんの動きは早くなる。時速は四十キロ程度でまあまあ早かった。


「わぷぷっ」


 そいでもって滅茶苦茶揺れて乗り心地は最悪だった。ミヤタは頑張ってアンパンを食べていたけれど。


「ぐらぐらだねー!」

「ぐらぐらだね」


 けどまあミヤタは楽しそうだし構わないだろう。こういうのも旅の思い出だしさ。

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