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1-44 福島の旧友との再会

 シャロに案内された場所は公民館のような場所だった。プレートがある場所には南合馬自治区臨時区役所と書かれておりどうやらここに拠点があるらしい。


「臨時って。不法占拠?」

「厳密にはそうなりますが市の方との話し合いでこうなりました。違法っちゃ違法なのでグレーゾーンには該当するでしょうけど」

「なるほどねー」


 このゾンビのコミュニティは非公式ではあるがその存在が許されているらしい。地元のお偉いさんが認めているのならよそ者があれこれ言う必要はないだろう。


 室内にいる職員は一目見てもすぐにはわからないが、よく見れば全員白い眼をしているので白ゾンビのようだ。彼らは僕らを物珍しそうに見ていたけれどすぐに興味を失い仕事に戻った。


 執務室と書かれた扉の前でシャロはコンコンとドアをノックする。どうぞ、という女性の返事が聞こえたあと、彼女はぴょんとジャンプしてドアノブを回し扉を開いて中に入った。


「失礼します。ミヤタさんたちを連れてきました」

「ご苦労様です。もう持ち場に戻っていいですよ」

「はい、では私はこれで」

「うん、ありがとう」

「ありがとうなの!」


 仕事を終えたシャロはその場を離れ部屋には僕とミヤタが残される。執務室には幽霊のように顔色の悪い大人びた赤ゾンビの少女が座っていて、その眼は優しくもありどこか恐怖を感じさせるものだった。


「あれ、アマミちゃん? アマミちゃんなの!」


 だけどミヤタは少女の顔を見て嬉しそうにその名を叫ぶ。そしてアマミさんは途端に柔らかい笑みに変わったのだ。


「ええ、久しぶりですね、ミヤちゃん」

「知り合い?」


 この流れで知らない人なんて返事が返って来るはずがないだろうけど、僕は一応ミヤタに尋ねた。


「うん、よつのはにいたころの知り合いなの! レイカちゃんのお友だちなの!」

「あー、レイカの」


 レイカはゾンビの知り合いがいると言っていたけどもしかして彼女の事なのかな。それとも……ま、いっか。それに僕はそれよりも気になる事があったし。


「アマミさん。氷嶋の駅にいましたよね、カネヒラと一緒に」

「ああ、気付いていましたか。ミヤちゃんが生きていると聞いて、いえ、死んでますけどこっそり様子を見に行きました」


 そう指摘するとアマミさんは恥ずかしそうに笑った。あと大して上手くないよ。


「そうだったの? 話しかけてくれればよかったのに」

「ごめんなさい。私は目立つわけにはいかないので。反ゾンビ団体からは嫌われていますし、もしかしたらミヤちゃんも仲間と思われる可能性がありましたから」

「そっかー、それなら仕方ないの」


 アマミさんは丁寧な口調で謝罪しミヤタもそれを受け入れる。けどそれはなかなかに理不尽な理由だった。


「あなたが何かしたわけじゃないんですよね」

「……ええ。私たちはただ静かに暮らしたいだけなんですがなかなか上手くいかないものです。反ゾンビ団体の嫌がらせに過激派が対抗し、それにまた反ゾンビ団体が報復をし、だんだん互いにエスカレートしていって最近ではテロのような事も起こすようになりました」

「ふに……かなしいね。どうにかならないのかな」

「ええ、こんな負の連鎖はいい加減に断ち切らないといけないのはわかっていますが、なんの力もない私にはそれが出来ません。本当に申しわけないです」

「アマミさんが謝る事じゃないですけど」

「いいえ。昨今の事件は私の力不足も原因の一端である事は間違いありません」


 彼女は心の底から悲しんでいるように見えた。僕はこのへんでようやく警戒心を完全に解き彼女に心を許したのだった。


「そうなの! アマミちゃんは悪くないの!」

「ありがとう、ミヤちゃん。けど私に実力が無いのは重々承知しています。私は生徒会長の経験があって家が地元の名士という事だけでコミュニティの代表に選ばれたのですが、それだけです。私には特別な何かは何もないんです」

「成程ねー」


 家柄がいいというだけで集団の代表になる。田舎ではよくある話だ。彼女はそうやって面倒事を押し付けられ、その人の良さから断り切れなかったのだろう。


「私の愚痴はこのくらいにしておきましょう。長旅で疲れているでしょうしまずはゆっくりしてください」

「あ、はい」


 コンコン。入り口のドアが再びノックされる。


「大丈夫ですよ」

「失礼しまーす。ありゃ、お客さん? まあいいや、頼まれていた仕事片付けておいたぞ」

「あ……え、ええ、ありがとうございます」


 そして室内に一人のチャラそうな少年が現れアマミさんは戸惑ってしまう。眼の色を見た感じ彼は普通の人間のようだ。だがミヤタは彼をじっと見て何かを思い出したらしい。


「あれ、ホンジョウくんなの?」

「ん? あー、お前は確かミヤちゃんか! 生きてたんだな!」


 ホンジョウと呼ばれた少年は人懐っこい笑みを見せたけど、それを見た僕はなんとなく昔のシガキを思い出してしまった。マイルドヤンキーって奴なのかな。


「ゾンビだから死んでるけどね。あ、ヨシノくん、この人もレイカちゃんのお友だちなの。わたしとはそんなにからみはないけど」

「へー。あ、どうも、ヨシノです」

「あ、ども、ホンジョウです」


 僕は取りあえず挨拶を交わす。ただそれっきり話す事もなく僕はアマミさんに視線を戻した。


「それではお仕事があるみたいですし、僕らはこのへんで」

「ええ、それではお気をつけて」

「じゃあね、アマミちゃん、ホンジョウくん!」

「おう、じゃあな」


 僕らは二人に別れを告げて部屋を後にする。もう少しこの町の様子を見てみたいし観光がてら色々と歩き回ってみよう。


「あ、カネヒラの事を聞き忘れちゃった。まあいっか」

「?」


 僕はその事を思い出したけど部屋に戻る事はなかった。彼が今どういう立場に立っているのか状況から何となくわかるし、あえて聞かなくてもいいだろう。

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