1-38 ゾンビのコミュニティに関する情報
ふう、生きていてよかった、のかな? 感電しないように気を付けながら僕はドーラを回収し安全な所に運んであげる。
「だいじょうぶ?」
「みたいだね」
本当はこういう事をする義理は無いけどミヤタが悲しむからむやみに殺したくないんだよなあ。彼女は不安そうに僕の手の中のドーラを眺めていた。
「何してるんや……とっとととどめ刺さんかい……」
「あー、そういうのはやってないんで。ただちょっと確認したい事が。反ゾンビ団体とかにテロ行為をしているゾンビってのは君らの事?」
会話や状況から見て彼らが先ほどのテロの犯人であるのは間違いないだろう。猫が二足歩行で歩いて喋る時点で普通ではないしそれに全員眼が白い。きっと彼らはゾンビなのだ。多分ゾンビになった影響で進化したとかそんな感じなのだろう。
「儂らだけやないがな。他にもおる。せやけど拷問をしたところで口は割らんで」
「しないよそんな事。けどもふもふして辱めたい気はするかな」
「ヨーシーノーくーん?」
「冗談です」
ジト目のミヤタに僕は笑ってそう言った。けどやっぱりこいつがテロリストの一味だったのか。僕はひとまず彼を地面に置いた。
「けどどうしよう。取りあえずミヤタを追って戦ったけど懲らしめたあと何をするか決めてなかったなあ」
「あ、本当なの」
追いかけたミヤタも遅れて気が付いてしまう。本当に僕らは何で追いかけてしまったのだろう。そう思ったのはドーラも同じなようで彼は心底呆れた顔になった。
「何や、けったいな奴らやのう。せやけどそっちのガキもゾンビやな」
「うん、そうだけど。あとガキじゃなくてミヤタさんなの」
「名前はどうでもええ。んで、お前らは儂らを殺すつもりはあらへんっちゅう事でええんか」
「ないよー。けどもう悪いことをしたらめっ、なの!」
「確約は出来ひんがな。まあ今日はこのくらいにしたるわ」
彼は平和ボケをしたミヤタの発言にただただ苦笑していた。テロは悪い事というレベルではないし、こんなお母さんみたいな叱り方で問題が解決するとは到底思えないけど、彼女がそういうのなら別にいいだろう。
「う、うう……」
「やめぇ」
ドーラの部下たちも目を覚ましこちらの様子をうかがってくる。しかし彼らが曲刀に手を伸ばした時、ドーラはそれを制止した。
「僕は個人的にどっちかというと君らに賛成だし。一般論で暴力はよくないけどね」
「一般論か。本音はどうなんや?」
「どうなんだろうね」
僕はニコニコと笑ってはぐらかす。そんなの言わなくてもわかり切っているじゃないか。ミヤタのいる手前そんな教育上よろしくない事は言えないけどさ。
「変わった奴やのう」
ドーラはようやく気を許しフッと安心した笑みになる。もうその瞳からは敵意は感じられなかった。
「ま、ええわ。で、お前らはなんや。福島にあるゾンビのコミュニティに逃げて来たんか」
「いやそういうんじゃないけど。場所知ってるの?」
ゾンビのコミュニティについてはゾンビの事を調べた時にチラッと聞いたけど本当にあったのか。
「儂らはそこに入り浸っとるからのう。何やったら来るとええ。場所は南合馬市。どうせ肩身が狭い思いをしとるんやろう。向こうについたら案内したるわ」
「お、親ビン、いいんですかい、人間にそんな事を教えて」
まだ警戒心が残っている茶白のチョコは異議を申し立てる。だがドーラは微笑んで首を振った。
「構へん。見逃してくれた礼や」
「親ビンがそういうのなら……」
「ま、自分らは従いますわ」
「え、ええ」
「ケッ」
ドーラの指示に山猫一家の部下は渋々承諾する。白黒の平八だけはかなり不服そうだったけど。
「で、どう、ミヤタは行ってみたい? ゾンビのコミュニティに」
「うん、なんか面白そうなの!」
「そっか、決まりだね」
同じゾンビに会えるかもしれない、そう思ったのだろう、ミヤタはご機嫌な様子でぴょんぴょんと飛び跳ねた。思いがけず次の目的地が提示されてしまったけどゾンビのコミュニティなる場所に行ってみる価値はあるだろう。
もしかすれば、そこが彼女の安住の地になるかもしれないしさ。




