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1-36 爆弾テロ犯を追って

 素早い身のこなしでビルの外壁を駆け上った襲撃者たちはその人外の動きで、いや実際人外なんだけどあっという間に距離を離してしまう。もたもたしていたら逃げられてしまうだろう。


「ふに!」


 ミヤタは窓のサッシやダクトによじ登りパイプを掴んでサルのように素早くよじ登る。それにさらっとついていける僕もすごいけどさ。パルクールをしているみたいで楽しいね。


「ミヤタ!」

「あれ、ヨシノくんも来ちゃったの?」

「うん、こっちのカバーに入ったほうがいいかなって。事故現場にいても出来る事はそんなにないし」


 ミヤタが途中で僕に気付いてスピードを緩めてくれたので僕は何とか彼女に追いつく事が出来た。僕らは会話をしながら同時に駆け出しビルの間をジャンプして向こう側に着地する。落っこちたら確実に大怪我をするから皆は真似しちゃダメだよ。


「……………」


 明確に聞き取れないが話し声が聞こえる事から襲撃者はすぐ近くにいるようだ。「ここからは静かにね」、と僕はミヤタに小声で告げ慎重に、慎重に接近した。


 彼らは現場から離れた古い雑居ビルの屋上に集合し作戦会議のためにいったん休憩しているらしい。僕とミヤタは息を殺して貯水槽の物陰に身を隠し、ひとまず連中の様子をうかがう事にした。


 屋上はやたらと換気扇やら配電設備やらよくわからない装置が多くここからでは相手がよく見えない。だけどそれは向こうにも言える事だから地形を便利に使うとしよう。


「ふう、何とか最低限の目標は達成出来たはええねんけど、しっかし今朝から何なんや一体。ここまでことごとく予定が狂うとはのう」


 関西弁のリーダーらしき青年の声には覇気がない。テロの作戦を遂行する時トラブルでもあったのかな。


「本当っすよ! ここ最近オイラたちは全然アピール出来てないです!」

「まあまあ、目的が達成出来るのならそれでもいいんじゃない?」


 血気盛んな少年の声になだめるような中年男性の声。さて、相手は何人だ。


「でも街中で爆破だなんてもうちょっといいやり方があったんじゃないでしょうか。関係ない人まで巻き込んでしまいましたし」

「ハッ! 何をぬるい事言ってんだよォ、知らねえよそんな事! むしろ俺はもっと派手にやりたかったなァ!」


 上品な優しい少女の声とガラの悪い声。ふむ、人数は全部で五人か……人?


 さて、ある程度は敵の戦力を把握した。ここは一気にカタをつけよう。僕はミヤタとアイコンタクトを交わし物陰から飛び出て銃を構えた。しかし、


「で、さっきから何をコソコソ聞いとるんやドブネズミッ!」


 ヒュッ!


 敵はとっくに僕らの存在に気付いていた。リーダーが投げたナイフが僕の頬を掠め、僕は寸でのところで回避する。


「わわ! 大丈夫ヨシノく……わわっ!? 猫さんなの! 猫さんがしゃべっとるのー!」


 ミヤタはまず不意打ちに驚き、さらにまた驚いてしまう。白昼堂々テロ行為を行った凶悪犯は武装した二足歩行の猫たちだったのだから。


 その愛らしさとは不釣り合いな緑の軍服を着た猫たちはナイフや爆弾で武装し、ノコノコと現れたヒーロー気取りの人間に冷たい視線を向ける。二股のしっぽをバタバタとさせて毛も逆立っているし警戒心マックスなようだ。


「何や、猫が喋ったら悪いんかい。んでお前らは何しにここに来たんや? 観光にしてはちと寂しい場所やけど」


 リーダー格のネコは曲刀のナイフを上に投げて一回転させ何度か上手にキャッチして挑発する。あの短い手でどうやって掴んでいるのだろうか。しかしナイフさばきの腕前はそれなりにありそうだ。


「決まってる」


 その問いかけに対してコンマ数秒。ボケの準備は万全だ。


「猫がそこにいたのならモフらない人間なんていないよ」

「は?」

「そして僕は猫でもイケる口なんだ。さっきからよだれを出すのを我慢しているんだ。だからお願い、君たちを全力でモフらせてくれるかい?」

「こ、この人変態です!」

「やべえ……アホやこいつ」


 シャムネコの少女の猫は警戒心をあらわにし全員が僕を倒すべき敵と認定する。だけどミヤタは、んー、と不思議そうな顔になった。


「猫でもイケるって、どういういみなのー?」

「猫を見るとヒャッホーウ! ぬここここっこお! ドゥエハッハアア! どっぴゅるううう! みたいな感じになるんだよ」

「よくわかんないの」


 僕は全力で猫への愛を表現するけどミヤタはその説明を聞いてもちんぷんかんぷんなようだ。猫軍団もまた肩をすくめて呆れているように見える。


「君はまだ分からな」


 ズドン! そして会話の途中で僕は脈絡もなくリーダー格の猫に発砲した。


「うお!?」

「くていいよ。うーん、外したかー」


 むう、流石は猫。殺気は完全に消したのに野生の本能で即座に回避したか。今の一撃でやっつけるつもりだったけど。


「ったく、わけのわからん奴やのぉ! お前ら、この舐め腐ったボケのタマ獲ったれやァ!」

「「了解ッ!」」

「ヨシノくん!」

「わかってるよ、やれやれ」


 猫のテロリストたちは散開し取り囲むようなフォーメーションになる。不意打ちに失敗したので不利な状況からバトルがスタートしてしまったけれどやるしかないだろう。

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