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1-35 氷嶋の爆弾テロ

 一方その頃、とある中華料理店にて。


「いやあ、本当に美味いねこれ。うん」


 一人でテーブル席に座り酢豚を食べながらカメラに笑顔でそう言い放つ恰幅のいい初老の男性はとあるベテランの代議士だ。ある程度食べたところで「はい、オッケーです」という声が聞こえ、彼は食事の手を止めた。


「ふーん。小汚い町中華にしてはまあまあいけるんじゃないか」


 彼はカメラが回っていない事を良い事に水で食事を胃袋に流し込み、爪楊枝で軽く歯の間を掃除する。


「んで、あと何軒回るんだ?」

「三軒です。どれも海鮮系ですね」

「はいはい。どうせならもう少し上品な料亭とかにしてほしいもんだ」


 卓上には多くの料理が並べられていたが彼はそれには一切手を付けずに席を立った。こうなる事はなんとなく予想をしていたが店員はかなり不愉快そうな顔になってしまう。


「ありがとうございましたー」


 青年の店員は心にもない感謝の言葉を告げ、途方に暮れた様子で卓上を眺めた。


「こんなに残して……俺、お前に食わせるタンメンはねぇって言いたいですよ」

「タンメンは出してないがな。ま、パフォーマンスでも宣伝してくれるならいい。うちだけじゃなく福島は全体的に震災の色々で売り上げが落ちているからなあ」

「わかってますけど」


 若い青年の店員は店長からそう言われるも納得していない様子だった。だがここは我慢して大人しくスタッフで美味しくいただくとしよう。



 ――芳野幸信の視点から――


 黒ラーメンを存分に堪能した僕は水を飲み食後の余韻に浸る。ミヤタ、そして僕が完食し、最後にレイカが食べ終えて僕らは店を後にした。


「ねえミヤタ。どこか行きたいところある? 一応ビジネスホテルは予約してあるけど」

「うーん、とくに思いつかないの」


 満腹なミヤタは幸せに満ち足りた表情をしており何もかもがどうでもよくなっていた。そもそもいきなり言われてもパッとは思いつかないだろうけど。


「この辺の観光地って何があったっけ?」

「山とか猪神ししがみ湖、プラネタリウム、結構色々揃っているわよ。人形の奴もあるけどミヤちゃんは興味ないわよね」

「わたしはお人形ごっこよりもヒーローごっこ派のこどもなの!」

「ええ、そうだったわね」


 レイカは微笑ましそうに笑う。彼女は岩巻駅にいた時も男の子が好きそうなヒーローに興味を示していた。確かに何となくだけど元気なミヤタはあまりそういう女の子っぽい事は似合わない気がするなあ。


「それにしても二人は本当に仲がいいんだね」

「家が近所だったからね。幼馴染というかもう一人の妹みたいな感じかしら」

「もう一人? レイカって妹がいたんだ」

「え、うん……」


 僕は何気なく指摘するとレイカの顔が暗いものに変わったので僕はなんとなく察してしまい、それについて深堀りするのをやめた。


「そうだ、ミヤタの知ってるレイカってどんな感じだった?」


 それをうやむやにするため僕はミヤタに質問して話題を切り替える。彼女はうーん、と考えたあとこう答えた。


「なんかねー、一人でいばらきに行ってわるい人を百人くらいやっつけたって話は聞いたことがあるよ」

「ああ、やっぱり」

「何で納得するの。事実だけど」

「ほかにはほかには? インド象をチョップで一刀両断したり、ワンパンで衝撃波みたいなのが出て敵軍が吹っ飛んだり、星を一つ消し飛ばしたり、崖の上でチキンレースをしたりとか」

「あんた不良を宇宙の戦闘民族かなんかと思ってない? チキンレースはあるけど。電車にタッチアンドゴーもあったわね。あの頃はあたしも若かったわ」


 レイカは昔を懐かしみハハ、と苦笑した。でも電車にタッチアンドゴーはマジで危ないからよいこのみんなはまねしないでね!


「かみがたもなんか変わったよね、可愛くなったっていうか」

「やっぱり前は歌舞伎の連獅子みたいな感じだったのかな。ヤンキーだし」

「それは相当な毛量が必要じゃないかしら。知り合いにモヒカンはいたけど流石にそこまでぶっ飛んだ髪型の奴はいなかったわよ」

「へー。でも僕見てみたいな、レイカが毛振りをしているところ。似合ってると思うよ」

「あたしはそれをどう受け止めれば良いのかしら。ごめん、ヨシノって結構な頻度で異次元なボケをかますから常識人のあたしにはツッコミに限界があるわ。大人しく負けを認めましょう」

「やった、勝ったぜぇ」


 お笑いバトルに勝利した僕は取りあえずガッツポーズをする。得たものは何もないけれど。


「えと、かぶきはともかくレイカちゃんってそのかみで前が見えるの? なんかずいぶん伸びたけど」

「案外隙間から見えるものよ。ちょっと鬱陶しいのは重々承知してるけど」

「うーん、なら切ればいいのに。わたしもさいしょ会った時顔がよく分からなくて気づかなかったの」

「そういうお年頃なのよ」

「そういうおとしごろなのー?」


 ミヤタはその説明にしっくりとこなかったのか首をかしげてしまう。女子高生の中には自分の容姿に自信が無くてマスクとかで顔を隠す子がいるけど彼女の場合はそういうのではないだろう。不良っぽくてカッコいいとかそんな感じなのかな。


「まー、まずは街を適当にぶらついてみようか」

「そだねー」

「じゃ、行きましょうか」


 時間はいくらでもある。適当にのんびり行こうかな。


 ……………。


 同時刻、駐車場付近にて。


 店を出た代議士はSPに護られながらすぐ近くに停めた黒塗りの高級車へと向かう。


「今日は文字通り消化するだけの一日だな。強いて重要な仕事があるとすれば今日は連中との会合があるくらいか」

「ええ。食事も出るでしょうからペース配分は考えないといけませんが」

「また食うのか。野菜と豆しか出ないから嫌なんだがあっちは残すわけにはいかないからな」


 代議士は苦笑し秘書とともに車に乗り込む。今日は本当に胃袋を酷使する一日だなと彼は丸い腹をさすった。


 カチリ。


「ん?」


 シートベルトを締めようとしたその時何かスイッチが入るような音が聞こえる。だがそれが何の音か理解出来ないまま、まばゆい光に包まれ彼の意識は途切れてしまった。



 ――芳野幸信の視点から―


 だらけた空気の中観光を再開しようとしたその時。


 ドーンッ!


「あら」

「ふに!?」

「きゃっ!」


 すぐ近くで爆発音が聞こえ僕はまあまあビックリしてしまう。むしろ僕は爆発音よりもミヤタのアホ毛がピンと縦に伸びた事が気になったけど。


 街の人たちはパニックになり悲鳴を上げて我先にと逃げだす。一方僕は、本当はよくないのだろうけど状況を確認するため音の聞こえたほうへと駆け出してしまった。


「あらら」


 そして僕は見てしまう。黒焦げになり大破してしまった車を。説明するまでもなく何らかの理由でアレが爆発したのだろう。関係者らしき黒服の人は突然の事に右往左往し何も出来ずにいるようだった。


「っ!」


 そんな彼らをよそにミヤタはやっぱり真っ直ぐ車に向かい、後部ドアを引きちぎって中にいた人を引きずり出す。彼女の働きによって黒服の人もようやく我に返り、救助活動を始めた。


「ぐ、ううう……」


 爆発でガラス片などが飛んだのだろうか、周囲には巻き添えを食らった民間人も何人か倒れている。パッと見では重傷を負っている人はいないようだが本当に災難な事だ。


「僕も手伝うか」

「ちょ、ヨシノ!?」


 子供に無茶をさせるわけにはいかない。僕も動揺するレイカを置いて救護活動を手伝う事にした。


「は、早く救急車を!」

「ふぬっ!」


 続けて彼女は恰幅のいい初老の男性を車から引きずり出す。全身血塗れで生きているのかどうかわからないがかすかに口元が動いているのでまだ息はあるようだ。


 僕は彼を見下ろしその顔に見覚えがある事に気が付いた。この人は確かベテランの国会議員の人だ。閣僚経験があるからあまり政治に詳しくない僕でも知っている。とするとこれはもしかして爆弾テロか何かなのかな。


 しかも現場は僕が最初にラーメンを食べようと提案した店のすぐ近くだった。もし僕らがこの店で食事をしていれば爆発に巻き込まれていたかもしれない。そう思うとさすがの僕でもぞっとしてしまう。


「あっ」


 頭を上げたミヤタが声を出し僕も思わずそちらに視線を向ける。だけどビルの上で何かが動いたのはわかったけど、それが何だったのか僕には判別出来なかった。


「ヨシノくんはその人たちをおねがい!」

「え、ちょっと!」


 ミヤタはその何かを追って非常階段を駆け上ってビルの上に向かう。まさか今のはテロの犯人でそいつを追うというのか。


 名も知らない人間とミヤタの安全。悪いけどどちらを優先すべきかは答えるまでもない。


「レイカ、あとはよろしく!」

「え、ええ!?」


 僕は一方的に事後処理をレイカに任せてミヤタの後を追った。場合によっては懐に隠した得物の力を借りる事も想定しながら。


 まったくもう、本当に無茶するんだから。

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