1-32 東北第二の都市、氷嶋
近代的な駅舎を後にして僕らは氷嶋の地を踏んだ。
氷嶋は福島県の県庁所在地ではないけれど人口は三十万そこそこと規模が大きく、商業の都市として栄え東北第二の規模の都市圏を形成している。ぶっちゃけ福島で最も栄えていると言えるだろう。
「ほへー」
同じ福島でも田舎在住のミヤタはその都会的な町並みにワクワクしており、先ほどからしきりにアホ毛を揺らしていた。
観光名所にグルメとこの街に見どころはたくさんあるけど僕らは別に観光に来たわけではない。ミヤタのおじいさんに会いに来たのだ。
「ねえ、ヨシノ。今更だけど、あたし怖気づいちゃった」
「何に?」
駅前に置かれた緑の扉のオブジェを楽しそうにくぐるミヤタを見て、レイカはそんな弱音を漏らした。
「ミヤちゃんをおじいさんに会わせていいのかなって。もうおじいさんにはミヤちゃんの面倒を見る事は出来ない。どう考えても無駄になるはずなのに」
「その時はその時さ。もうそんなに長くないだろうし顔を合わせるくらいはさせてあげようよ。無駄になったとしても」
「……そうね。行きましょうか」
レイカはミヤタよりも辛そうな顔になったけど気丈に振る舞った。僕はそんな彼女を見て、こんなに優しい友達がいるのなら何も心配ないんじゃないかな、と思ったんだ。
――だけどその時、ふと視線を感じる。
「……………?」
その方向に視線を向けると少し離れた場所にこちらの様子をうかがう少女と少年がいた。少女はまるで幽霊のように生気がない瞳で、ぎらついた眼の不良風の少年とは対照的だった。
だけど遠くから見てもわかる。二人の眼から血のように赤い光が放たれている事に。
というかそれ以前に少年のほうはもしかして……いや間違いない!
僕は急いで声をかけようとその場から駆け出そうとした。けれど、
「ヨーシーノーくーん、おいてくよー?」
「あ、う、うん」
ミヤタに呼び止められ僕は彼らに話しかける事が出来なかった。気が付くと二人は僕に背を向けて立ち去り、すぐに群衆の中に消えてしまったんだ。
仕方ない、気にはなるけど今は本来の目的であるミヤタの用事を片付けよう。僕はタクシー乗り場に向かうミヤタたちを追いかけその場から立ち去った。




