表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/2258

1-27 ゾンビの都市伝説と反ゾンビ団体について

 さて、適当に授業を受けて待ちに待った昼休み。僕はアンパン一つだけで昼食を早々に済ませ図書室にこもって調べ物をしていた。


 取りあえず闇雲にスマホも利用しつつゾンビの都市伝説に関係する本を集めてみる。ただそもそもこの話はごく最近生まれた都市伝説。そんな事が書いてあるだろう低俗なオカルト系の本は図書室には少なく失敗したかな、と思ってしまった。


 仕方がない、気が進まないけどここは噂が好きそうな若者である同級生の力を借りるとしよう。そんなこんなで放課後僕は知り合いとだべっていた。


「ふむふむ、ゾンビの都市伝説かあ。私も聞いた事があるよ。詳しくは知らないけどね」

「ゾンビ? キョンシーみたいなものカ」


 ヤオとゼンは早速話に食いつく。やっぱり都市伝説って心惹かれるものがあるのかな。だけどほかは興味がなさそうに、あるいは少し不愉快そうな表情をしていた。


「まあ俺も聞いた事はあるけどな。原発事故の影響でゾンビが生まれたってあれだろ」

「要約するとそうなるね」


 シマムラは地元民としてこの不謹慎な噂に憤慨しているようだった。東北ゾンビの都市伝説は様々な亜種があるが基本的にその部分は共通しており、そういう意味では都市伝説の基本を押さえているとは言える。


 コインロッカーベイビーが社会問題になった時にそれをモチーフにした怪談が生まれ、高齢者の暴走事故が多発してターボババアが生まれ、倫理を無視した科学実験とともに人面犬が生まれ。都市伝説はその時代を映す鏡なのだ。


「随分と低俗な話ですわね。そんな事を聞くために私たちを呼んだのですか?」


 ナバタメも信じていない人間の一人だ。けれどハヤセだけは違っていた。


「ゾンビは実在するよ。私も何度か組織からの依頼で戦った事があるから」

「へー、凄いね、さすがハヤセちゃん!」


 なかなかとんでもない事を言ったハヤセにヤオはキラキラした目になる。他の面々は生暖かい目を向けただけだったけど。


「ハヤセの本業は謎の組織の殺し屋って設定なんだっけ」

「設定じゃないけど。むー。この前も反ゾンビ団体がゾンビに襲撃されてその後片付けに行ったんだよ」

「そっかー」


 イイダは子供の妄想話を聞くお母さんのような優しい顔になった。僕は取りあえずスルーしておこう。


 ご覧の通りハヤセはちょっと痛い子なのだ。けど異様に身体能力が高いのは事実だしもしかしたら本当にそうなのかもね。


「この世界にはいろんな人がいるんだよ。みんなが知らないだけで人ならざるモノはそのへんにいるんだ」

「ギク」

「?」


 何故かその発言を聞いたアカクラは目をそらしてしまった。思い当たる事でもあるのかな。


「で、ゾンビの事が聞きたいんだよね。ある程度は知っているしかいつまんで話そうか?」

「よろしく」


 けど話を聞けるのならなんでもいい。中二な人って結構こういう事には詳しいからね。


「まず原発事故の影響でゾンビが生まれたって話だけど実際は違う。ゾンビは元々世界各地で確認されていた。戦争で生物兵器として使われた事もある。だけど民衆はその事を知らないだけ。今回の一件も福島のよつのは町のほうでゾンビの研究をしていた要注意人物がいたみたいだし、組織はそいつが元凶と見ている。震災で施設が壊れて流出したのか、混乱に乗じて意図的にばら撒いたのかはわからないけど」

「ふむ」


 彼女は早速僕の知らない情報を語ってくれる。信憑性は眉唾物だけど……でも、よつのは町か。ミヤタの地元もそこだったしそれが事実だとすればバッチリと当てはまっている。


「ゾンビの事を語るにはまずは白ゾンビと、赤ゾンビの事を説明する必要がある」


 白ゾンビと赤ゾンビ。これは軽く調べた時にも見たな。よくわかんなかったから流し読みしたけど。


「白ゾンビは感染したけど自我を保っているゾンビ。眼が白濁している事からそう名付けられた。それに対して赤ゾンビは眼が赤くもう自我は存在していなくてほとんどが狂暴なゾンビなの。この変化はウィルスに対しての適合率の違いが原因と言われていて、適合率が高ければ白ゾンビになりやすいよ。ちなみに赤ゾンビに噛まれるとほぼ確実に赤ゾンビになる。白ゾンビはそんなに感染を気にしなくていいけど」


 そう言えばミヤタは眼が白かったっけ。ならこれは信じてもいいのかな。こんな説明をされるまでもなくミヤタが人畜無害だって事は知ってたけどさ。


「白ゾンビは死んでいるのに生きている事を除けばさほど人間とは変わらないパターンが多いけど、赤ゾンビになると肉体や五感が強化されて、場合によっては変異したり特殊能力を会得したりして地球上の生命体を超えた存在になる事が出来る。ただ白ゾンビも赤ゾンビもそもそも変化にはかなり個体差があるからあまり当てにならないね」


 白ゾンビに該当するであろうミヤタは怪力のスキル持ちだけど、彼女はやっぱり特殊で突然変異してああなったのかな。無論この説明が正しいかどうかもわからないけど。


「自我のあるゾンビたちは迫害を恐れて福島のある地域に独自のコミュニティを築いている。基本的には平和的な人たちだけど、とある赤ゾンビのリーダーが率いる一部の勢力は反ゾンビ団体に対して強硬路線で度々武力衝突をしているの。この間も出張して後始末を頑張ったなあ」

「ふむ」

「まあこの辺はネットで頑張って調べれば見つかるような情報だけどね。今話せるのはこれくらいかな」


 ハヤセは長々と興味深い話をしてくれたけれどそのどれもが根拠が一切ない。都市伝説なんてそんなものだけどさ。


 けれど僕は実際ゾンビの少女を知っている。普通小学生くらいの女の子が、というか人間は電柱を振り回す事なんて出来ないし信じるしかないだろう。


「反ゾンビ団体かあ。時々ニュースで見るけどあれは結局なんなのサ? 私にはよくわかんないケド」


 日本の事情に疎いゼンは至極当たり前の事を言うけど多分これは日本人にも明確に答えられないだろう。何故なら彼らの主張は基本支離滅裂だから。


「そちらに関しては私が説明出来ますわね」


 そして今度はナバタメが発言する。さっきは興味がなさそうだったのにちょっと意外だったけど僕は彼女の話を聞く事にした。


「反ゾンビ団体は文字通りゾンビを撲滅しようとする団体ですわね。影の政府なるものがゾンビによって人類を支配しようとしているので力を合わせて戦おうと主張しています。もっとも大抵は妄想によるヘイトクライムしかしていませんが」

「あー、そういえばこの前もやらかしてましたねー。何なんでしょうね、あれ」


 アカクラが言っているのは影の政府と関わりがあるとされた政治家の親族が経営するグループ系列の飲食店が襲撃された事件だろう。無論そんな関わりは一切なかったけれど。


「昨今世間を騒がせている反ゾンビ団体は元々いたって善良な宗教系の環境保護団体でした。最初はゾンビウィルスが環境を汚染している、という主張をしていましたが今ではすっかりその設定を忘れていますね。そして彼らはいつからか影の政府のリーダーとされる議員と対立しているとある政治家を支持するようになったので、その政治家の後ろ盾を得るようになりました。根拠のない暴論でも人間というのは信じたいものだけを信じる生き物なのです。そんな馬鹿にはいくら論理的に説明しても無意味なのですよ」


 彼女はため息をついて説明を続けた。


「その主張が聞くに値しないのは間違いないですが、組織の規模も大きく政財界と太いパイプを持っている程度に力を持っているのでこちらも無下に出来ませんの。私も本音ではあのような方々とはいい加減縁を切りたいのですが」

「およ? ナバタメはあのうさん臭いのと知り合いなの?」

「ええ、ああいう団体は適当に仲良くするだけで選挙の時に力になってくれますからコスパは最高です。数日後にも東京に行って彼らが主催する会合に少しだけ顔を出す予定ですの。気乗りはしませんけどね」


 ヤオの質問にナバタメは浮かない顔でそう答えた。


「そういえばナバタメはお嬢様だったね。いっつもヤオと馬鹿やってるから忘れそうになるけど」

「私は馬鹿をやっておりません! 毎回巻き込まれるだけです!」

「またまたあ、満更でもないくせに」

「お黙り!」


 声を荒げたナバタメは高貴な人が使いそうで使わない台詞をヤオに言い放った。生でお黙りなんて初めて聞いたよ。


 彼女はコホンと咳ばらいをして冷静になったあと、さらに付け加える。


「私に限らず元々団体にいた方々も今の組織の在り方に疑問を抱いている方も少なくないですわ。ゾンビを迫害する事がどう環境保護と繋がるのか明確に答えられる人もいないでしょう……そもそもゾンビ自体存在しないのですけれどね。影の政府がゾンビによって人間を支配するなんて馬鹿馬鹿しい陰謀論です。しかし彼らが信奉する政治家により利用されているという意味では本当の陰謀と言えますわね」

「なるほどね」


 僕の知りたかった事とは直接関係ないけれどなかなかためになる話を聞いたな。つまりミヤタと一緒にいる間は反ゾンビ団体にも気を付けたほうがいいという事だろう。


「でもゾンビかあ。実際にいたらいたで会ってみたいかな。ゾンビでも死んだ人に会いたいって人はいるだろうね」

「そう、だな」


 最後にイイダがそんな総括をし、シマムラは静かに同意したのでちょっぴりしんみりとした空気になってしまった。


 でもそっか。ゾンビって死んだ人が生き返るって事なんだよね。多分故人との再会はこの街に住む多くの人が望む事だろう。その時の姿が幽霊にしろゾンビにしろ些細な問題だ。


 ……とにかくこれだけ情報が集まれば十分かな。大半が信憑性は微妙なものばかりだったけど今はこれでよしとしよう。僕は皆にお礼を言ったあと別れを告げて教室を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ