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1-25 レイカとの再会

 ミヤタは長い間ご主人様に会わず顔を忘れた子犬のように大人しくなる。だけどしばらくして、


「レイカちゃんっ!」


 と、大層嬉しそうに駆け寄ったのだ。しっぽの代わりにアホ毛を全力で振り回して。レイカは飛びついた彼女を力の限り抱きしめた。


「やっぱり! 無事だったんだ!」

「ぷひ!」


 ぶたにくも幸せな気配を察知し彼女たちの周囲を駆け回る。一方なでなでを堪能している最中だった僕はほんのちょっぴり寂しかった。けど我慢するよ、空気を読まないとね。


「知り合いだったんだ、二人」

「うん、お友だちなの!」


 まあ大方『あの日』の何かしらで生き別れになっていたのだろう。レイカの地元は福島だったし同郷の知り合いかなんかだったんだろうな。


「てっきりもう死んじゃってるかと思っていたけど……無事でよかったわ」


 その時のレイカは僕が今まで見た事が無い素敵な笑顔をしていた。前髪のせいで下半分しかわからなかったけどさ。


「うん、一回死んじゃったけど。わたし、ゾンビなの!」

「え?」


 ただその笑顔はミヤタの口から悪意なく発せられたそんな一言によって曇ってしまう。それに不穏な気配を察知した僕は慌てて誤魔化そうと試みた。


「まあ、その、この前新選組がゾンビになる映画を見てさ、ゾンビになった主人公に憧れてるんだ」

「なにその大コケしそうな映画」

「ゴメン嘘です。まあ最近ゾンビ映画が流行ってるからバナ〇マンの日〇さん主演で一、二年後には撮られそうだけど」


 思い付きで言った嘘だけどもう少し面白い言い訳にすればよかったかな。矢〇通とゾンビが戦う映画とかさ。


「と、ともかく、どうしてレイカはここに? 散歩でもしてたの?」


 そして作戦変更、話を逸らす。とにかく逸らして逸らしまくろう。


「川のほうで幼女を抱えて頭にブタを乗せて走っているヨシノを見つけてね。よく見たらミヤちゃんだってわかったから急いで追いかけたの」

「へー、急いで。というかすごい目がいいね、よくわかったね」


 僕は逃走ルートを思い出す。あの時向こう岸にいたとするのなら彼女はかなり視力がいいのだろう。ミヤタの顔と、頭に乗せているものがブタだと判断出来る程度には。


「コンタクトしてるから。でもゾンビって本当?」


 作戦失敗。レイカはすぐに話を元に戻してしまった、むう。


「うん、本当なの!」

「ぷひ」


 ミヤタ、正直なのはいい事だよ。けど時と場合があるんだよ。


「チガフヨ、ゾンビナンテヰルワケナヒジャナヒカ」


 僕は頑張って古語の文体で誤魔化そうとしたけどレイカの深刻そうな表情は変わらない。だけど僕は遅れてある事に気が付いてしまう。


 普通、常識のある人間なら誤魔化すまでもない。幽霊や宇宙人ならまだしも物語の中でしか登場しないゾンビは架空の存在だと誰しもが分かっている事なのだ。なのに彼女はずっと考えこんでいた。


「ねえ、レイカ。レイカはまさか何か知っているの?」

「そうね……」


 僕は慎重に言葉を選ぶ。これはきっととても大事な事だから誤解があってはいけないのだ。


「ヨシノはどう思っているか知らないけど、ゾンビは実在するわよ」


 そしてレイカはさも当然であるかのように言い放つ。常識的な現代人として否定をしたかったけれどまず僕は話を聞く事にしたのだ。


「東北、特に福島を中心にゾンビが現れるって都市伝説だっけ。君はそれを信じているの?」

「信じる信じないは勝手だけどね。でもあたしは死んで生き返った人間を何人か知っている。もしこれが悪意のある噂なら怒っていたけど実際見た事があるから」

「ふむ……」


 地元民が憤慨する事無くそうだと言うのなら僕は信じるしかない。まずはゾンビが実在するという前提で話を進めよう。


 姿勢を低くしたレイカはミヤタに目線を合わせ、両肩を掴んで告げる。


「ミヤちゃん。あんまり自分がゾンビだって言いふらさないようにね。ゾンビが怖い存在だって思っている人は結構いるから」

「え、うん」

「ぷひ」


 優しくもありどこか強い口調にミヤタとぶたにくはたじろいでしまう。そして彼女は次に僕のほうを見て訊ねた。


「ところでそもそもどうしてミヤちゃんとヨシノが一緒にいるの?」

「ああ、そう言えばまだ言っていなかったね」


 僕はその事を思い出し簡単に説明する。レイカは説明を聞いて一瞬顔をしかめてはいたけれど最終的にはちゃんと納得をしてくれたようだ。


「事案野郎」

「違うよ」

「まあいいわ、ミヤちゃんたちの面倒を見てくれてありがとうね。あたしに協力出来る事があったら何でも相談して頂戴」


 彼女はクスクスと笑い、そんな優しい言葉を付け加えた。


「うん、その時は頼りにするよ。あ、そうだ」


 そして僕は早速頼りにしようとレイカに質問する。


「ミヤタの面倒を見てくれそうな人知らないかな? 二人は知り合いなんだよね」

「え、うーん」


 だけどレイカは渋い表情になる。駄目元だったけどこれは聞くだけ無駄だったかな。


「ミヤちゃんのお母さんは結構前に亡くなっていて、駆け落ちの国際結婚だから向こうの親族は頼れないし、父方の親戚も……話せそうなのはおじいさんくらいだけど今は老人ホームにいるからね」

「そっか」


 つまり親族は頼れないという事か。ミヤタは特にどうとも思っていない様子だったけど僕は少なからず落胆してしまった。


「じゃあ里帰りがてら、おじいさんに話を聞くくらいは出来ないかな。ミヤタが生きている事も伝えておきたいし。おじいさんは今どこにいるの?」

「え? ええ、そうね。氷嶋こおりじまのほうにいるけど」


 レイカはなぜか一瞬躊躇してそう告げる。なにかよろしくない事でもあるのだろうか。けれど久々の再会の機会にミヤタはただただ喜んでしまった。


「おじいちゃんに会えるの? 楽しみなの!」

「ぷひ!」

「うん、こういうのは早いほうがいいし今度の休みにでも行こうか。僕もついてくよ」

「そう。ならあたしが氷嶋を案内するわ。細かい事は後で決めましょう」


 レイカはミヤタを見て微笑んでいたけどやっぱりどこか強張っている。推測だけどきっと好ましくない想像をしているのだろう。それが何なのかは僕にはまだわからないけど。


 本当におじいさんと引き合わせるべきなのだろうか。僕は少なからず不安を抱いていたけれど、こんなに嬉しそうなミヤタを見てしまったら何も言えなかったんだ。

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