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1-22 多重事故と人命救助

 ズゥンッ!


 ロリコンを許さない善意の市民から僕らは逃げていたわけだけど、その最中近くで大きなクラッシュ音が聞こえた。


「ん?」

「ぷひ!」


 音に驚いたぶたにくは身をすくませる。でもこれは何の音だろう。事故でもあったのかな。


 そしてその音の主は幹線道路に出てすぐに発見する事が出来た。


「ありゃま」

「わー!?」


 賑やかないつもの大通りには複数の事故車両が横たわっていた。どうやら多重事故を起こしたらしく電柱や道路標識もポッキリと折れている。


 ガラスも散乱しガソリンの臭いもどこからともなく漂いなかなかに凄惨な事故現場だった。こりゃ一人や二人は死んでいるかな。


 パトカーや救急車も見受けられない。さっきの音がこの事故の音なら今しがた起こったばかりなのだろう。一部は救護活動をしている人もいるが中にはスマホで撮影している人もいる。安易にこういう動画をあげると炎上プラス高確率で特定されるから止めた方がいいんだけどなあ。


「はむはむ!」

「え?」


 僕が何も出来ずにいたその数秒の間、ミヤタは急いでコロッケを胃袋に詰め込み迷う事無く事故車両へと向かった。


「ミヤタ!」


 僕は荷物をその場に置き慌てて後を追うけど、僕が辿り着く前に彼女は一台の車の運転席側のドアの前に移動していた。


「ふに!」


 ベキッ! ロックされた車のドアは彼女の手により容易く引きちぎられる。怪力自慢なのはさっき知ってしまったけど改めて目の前で見るとなかなかビックリする。


「んしょ、んしょ、だいじょーぶなの?」

「う、うう……」


 ミヤタはどうにか運転手の男性を救助しようとするけどシートベルトで固定されているため脱出出来ない。駆け寄った僕は仕方なく冷静にシートベルトを外し、彼女と一緒に救助活動を手伝う事にした。


「ミヤタ、危ないから下がっていなよ。漏れたガソリンに引火したら終わりだよ」

「ぷひー」


 遅れてやってきたぶたにくも気が気でないようだ。迷わず人助けをするのは人間としては正解だけど保護者代理としては子供にこういう事はしてほしくない。


「で、でも、けがしてる人がたくさんいるの!」


 二次災害の恐れは十分にある。鼻を削ぐようなガソリンと血の強烈な臭いがここから逃げろと警告する。けれどこんなに必死な彼女を見てしまえばそんな正論を言えるわけがなかった。


 それに彼女の怪力は下手な工具よりも遥かに役に立つ。この状況において人命救助のために使わないという手はない。


「わかったよ、三分で終わらせよう」

「ヨシノくん!」

「ぷひっ!」


 それが妥協点だった。許可を得たところでミヤタは張り切って救助活動を再開した。


「ミヤタ、ドアを壊すのはいいけど下手に車内から出しちゃダメだよ。一気に出血するリスクもあるし脊椎を損傷する可能性もある。だけどその辺の判断は僕には出来ないからそこの医療従事者っぽい人に頼んでね」

「わ、私か? まあいいが」


 僕は取りあえず先に救助活動をしていた顔色の悪い女性を指名する。突然の指名に彼女は戸惑っていたけれど承諾してくれた。


 彼女の応急処置の手際は完璧としか言いようがないので医学の知識があるのだろう。僕も一応講習は受けているけれどレベルが違い過ぎる。彼女はきっと本職の人間だ。


「そこの撮影している暇人! すぐ近くにある病院からAEDを持ってこい! ついでに消火器もな!」

「え、お、俺!?」

「ついでに使えるだけ包帯でも何でも持ってこい! てめぇらが何もしなけりゃここにいる奴は死ぬぞ!」

「は、はい!」


 医療従事者らしき女性は激しい口調で指示を出し何もせずに撮影していた人間を手伝わせる。僕はそれを見て彼女は相当な修羅場をくぐってきた名医なのだと確信した。彼女のような人間がいたのは不幸中の幸いと言えるだろう。さて、さっさと僕も仕事をしようかな。


「あ、うう……!」


 このうめき声はどこから聞こえる。僕は耳を研ぎ澄ませて助けを求める人の声を聞き取ろうとした。


「ぷひ!」


 最初にその人物の居場所に気付いたのはぶたにくだった。彼女は横転した車に駆け寄ると、車体の下のあたりに人の手があるのが確認出来た。


「ふにー!」


 ミヤタは急いで車の下に向かいその馬鹿力で車体を持ち上げる。その間に僕は下敷きになっていた人物を救助した。


「なんだか見慣れた特攻服だね。生きてる?」

「あ、ああ、何とかな……」

「冗談だったのにまさか本当に不運ハードラックダンスっちまうとはね」

「うるせー……」


 一瞬見えた紫色でなんとなく気付いたけれど下敷きになっていたのは先ほど別れたばかりのハスミだった。意識ははっきりしていてそれほど出血しているようには見えないけれど、内臓が損傷している可能性もあるし予断は許さないだろう。


「い、痛い、痛い……!」

「大の男がガタガタ泣きわめくな、骨が折れてるだけだ。今止血するから我慢しろ」


 ミヤタのチートな怪力は便利だけれど僕らがいなかったとしても問題はなかっただろう。何故なら先ほどの女性が的確な指示を出して救助活動にあたっていたので思いのほか早く済んだからだ。


「この人は!? すぐに出していいの!?」

「待て、こいつは慎重に出すんだ!」

「う、うん!」


 女性の指示を仰ぎつつ救助をしているとすぐにタイムリミットの三分が訪れる。


 結論から言えば無事全員の救助に成功した。負傷者は爆発の危険がある車から離れ各々手当てを受けており、もう僕らが出来る事はあまりなさそうだった。


「さて、これくらいかな」

「でも、手当てとかがまだだけど……」

「ぷひ……」

「そこは僕らよりも本職の人に任せよう」


 ミヤタは不安げだったけれど顔色の悪い女性の指示は完璧で、ちょうどいいタイミングで大勢の医療従事者の人が集まってくれていた。彼らは全員看護師や医者の服装をしておりAEDを回収した病院から急いでやってきた事がわかる。人手は十分足りているようだし技術が未熟な僕らが何かをする必要もないだろう。


「やれるだけの事はやったさ。さ、帰ろうか」

「うーん、ヨシノくんがそういうのなら」


 彼女もようやく納得してくれたところで、僕は購入した荷物を回収し帰路につこうとした。今日は色々あって疲れちゃったなあ。


 ゴンッ!


「ん?」


 けれどその時鋼鉄を叩くような音が聞こえる。車が爆発したのだろうか。何が起こったのか確認するため僕は再び事故現場を眺めた。


 特に変化はない。気のせいじゃないにしても、気にするほどの事でもないのかな。そりゃ事故ったんだから爆発くらいするだろう。再度身を翻して帰ろうとしたその時、


 ガンッ!


「おっと」

「ぴゃー!」

「ぷひ!」


 今度は一段と大きな音が。横転したトラックの後部のドアが吹き飛び回転しながら落下、大きな音を立てて転がるのを僕は目視で確認した。


 ……ああうん。ものすごーく嫌な予感がするんだけど。

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