0-0 もう一つの世界が辿った歴史
それはこことは違うどこか世界の話。
古くから国際都市として栄えた長崎のとある街では多種多様な人々が生活し、肌の色や人種、はたまたは鱗や獣の耳やしっぽを持つ人間など随分と混沌としてはいたものの、彼らは時にぶつかり合いながらも共に互いを理解し合い、これといった特別な事が起きる事もなく変わらない穏やかな日常を楽しみながら生きていた。
その街に住む少女は高校の友人たちと地元名物のボリュームたっぷりのハンバーガーを食べた後、特に目的はなかったが賑やかな商店街を歩きながら談笑していた。
大昔の人間はたかだか肌の色如きでたびたび揉めていたらしいが、商店街にはアジア系からアフリカ系の人々、人狼、タヌキからもふもふ、はたまたは半魚人など当時の人が見たら卒倒しそうな光景が広がっていた。無論この様な関係性を構築するまでそれなりに衝突はあったそうだが、その様な歴史はとっくに過去のものとなっていた。
同じ星に住む人間同士で互いに争っていたかつての人にとってこの街は楽園と呼ばれる世界だったのかもしれない。しかし自分にとっては生まれた時からこれが普通だったので、取り立ててこの景色に有難みを感じる事は無かった。
少女は今日も変わらず穏やかで楽しい日々を過ごす。その日々はあまりにも幸せ過ぎたので、もしもこれがただの幻で現実のものではないとしても些細な事だった。
「……?」
しかし彼女は黒いセーラー服の少女とすれ違い、理由はわからなかったが思わず後ろを振り返ってしまった。
「……………」
黒いセーラー服の少女はどこか寂しげに彼女を見つめた。その瞳はどこまでも深い闇と孤独が宿っており、都市伝説に出てくるこの世ならざる怪異の様に空虚だった。
「ヒカリー? 行くぞー?」
「あ、うん!」
だが前を進む男性の友人に声をかけられ、彼女は慌ててその場を離れ彼らを追いかけた。
そして数秒後には意識の中から先ほどの少女の存在はすっかり消え去ってしまい、彼女は日常へと戻っていった。




