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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
後日譚 太陽が照らす世界、未来に咲いた花【エピローグ】

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aft-8 どこかの世界へ旅立つ魔王

 ――悪原ひかげの視点から――


 夏のある日、子守を任されていた私はアスカと共に山弦町のひまわり畑を訪れていた。


 白いワンピースを着た彼女は元気いっぱいな様子でぶたにく(三代目)と一緒に一面に広がるひまわり畑を駆け回っており、そのまばゆい笑顔を見るとどうしても彼女の事を思い出してしまう。


「アスカもすっかり大きくなったね」

「子供の成長は早いからねー」

「まてー! にくー!」

「ぷひー!」


 私と彼はぶたにくにじゃれつくアスカを見て微笑ましい気持ちになってしまう。若干捕食されているっぽいけどこれは気のせいだ、うん。


「ひかげちゃーん! ってだれー? はじめまして!」

「ふふ、はじめまして。俺はシオン、ひかげの古い知り合いだよ」

「そっかー! わたしはアスカだよー! でこれがあいぼうけんひじょーしょくのぶたにくだよー!」

「ぷひー」


 アスカはかつてミヤタがヨシノと会った時と似た様な自己紹介をした。やはり親子だからその辺は似るのだろうか。


「さて、俺はこの辺でお暇するかな」

「あれ、もう行くの?」

「そりゃあね。彼女はもう彼女の人生があるからさ」


 シオン君はアスカとそれ以上交わさず立ち去ろうとする。私は彼を引き留めたけれどほんの少し寂しそうに笑うだけだった。


「じー。ていっ!」

「おっと」


 だけどアスカは背中を向けたシオン君にギュっと抱き着き、子供をあやす様に頭を撫でてあげたんだ。


「何してるの?」

「おとーさんよくこうしてなぐさめてくれる。なんかかなしそうだったから」

「……そう、ありがとうね。お陰で元気になったよ」

「そっか! よかった!」


 シオン君はかつての我が子から無償の愛を与えられ、その空虚な心は優しさで満たされた。だけど結局それはより決意を強固にしてしまい、彼は考えを変えずに歩き出してしまったんだ。


 もうちょっと駄々をこねてもいいのに、変わらないっていうか……寂しい生き方をしてるよね、シオン君も。


「ひかげちゃーん、あそぼー! ヒーローごっこするー!」

「ん、いいよ。じゃ皆」

「わー」

「であえであえー」

「ていてい!」


 元気いっぱいなアスカはおもちゃの剣……ではなく太陽の剣を持っていつもの様に魔王の私を攻撃したので、私は腕輪から同じく武装したマタンゴさんをけしかけ彼女の相手をしてあげる。


 彼女もまたハナコと同じくヒーローに憧れており、私と一緒にいると大体こうしてヒーローごっこをせがむんだよね。最近は結構しんどくなってきたので基本的マタンゴさんに任せているけど。


「たー!」

「わー」

「きゃー」

「ぎゃー!」


 ただ言うてもアスカはハーフゾンビ、子供でも身体能力だけなら剣豪レベルだ。彼女はマタンゴさんズを吹き飛ばし無事に魔王の討伐に成功した。


「いやー、腕を上げたね、アスカ」

「うん! これでわたしもヒーローになれるかな!」

「うんうん、なれるよきっと」


 アスカは無事に魔王を倒せて上機嫌だったけれど私は、


「ねえ、アスカ。もしも私がいつか魔王になったらやっつけてね」

「え? うん!」


 彼女にそう伝え、アスカはその意味をちゃんと理解出来ていなかったけれどとりあえず元気よく返事をしたんだ。


「でもね、もしひかげちゃんがわるいことをしたら、わるいことはだめだよっていって、なかなおりするよ!」


 けれどアスカは屈託のない笑顔しながらそう付け加えた。彼女はあの頃と変わらず、私に無条件の愛を与えてくれたんだ。


「……そっか、うん、ありがとね」

「えへへー」


 私はアスカの頭をわしゃわしゃと撫でてあげる。彼女はその理由もわからないままに幸せな感情に身を委ねた。


 ……うん、最後の記憶がこんなにも温かく優しいものだなんて最高すぎる。おかげでもう未練もなくなったよ。



 その日の夕方、私はそっとチーム明日花の事務所を抜け出し杜宮へと向かう。


 大都会杜宮は大災厄や時空の歪みのせいで既に廃墟となっており、物資もあらかた取り尽くされた上に、消滅現象のせいでビルや道路はところどころ怪物に食べられた様に綺麗に抉られかなり危険なので近付く人間は誰もいない。


 ビル群にはあの頃と変わらず黄昏の光が差し込み、この世のものとは思えないモリミヤヘンジの光が妖しく街を包み込んでいた。


「いらっしゃい、ひかげ」

「ん、久しぶりだね」


 そこには一匹のマタンゴさんがいた。彼は他の個体と同じく愛嬌を振りまいていたけれど、逆光のせいで長い影が延び何とも不気味だった。


「もう覚悟は決まったんだね。役割を果たす覚悟が」

「……うん。私は魔王になって世界を終わらせる。色々悩んだけど、やっぱりそれが一番良さそうだから」

「そっか。ようやく受け入れてくれたんだね。とても嬉しいよ。さあ、行こうか!」


 特別なマタンゴさんはニコニコしながらぽてちてと黄金の光に向かって走っていく。私も彼の後を追い、その途中で一瞬後ろを振り向き――またすぐに前を向いて歩き始めた。


「バイバイ、ハナコ。次はちゃんと私を殺してね」


 私は全ての未練を断ち切り、親友がやがて私を殺してくれる事を願い黄金の光に身を委ねて自らの存在を消し去る。


 そして私はこの終末の物語を終わらせる魔王となるために、どこかの世界へと旅立ったんだ。

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