aft-7 太陽が見守る世界
最愛の人と別れ僕は死にたくなるほどの絶望を抱いてしまったけれど、僕には護らなければいけない存在がいたから悲しむのは最初の一日だけにした。
それからはひたすらがむしゃらに生き続け、悪戦苦闘しながらもアスカを育て、彼女が愛した世界を護るために出来る事をし続けて――僕はいつの間にか市議会議員から岩巻市の市長になってしまった。
全く、変態紳士の僕が随分と偉くなったものだ。こういうビシッとしたスーツは未だに慣れないんだよね。しかも相手は全員僕の顔見知りばっかりだし後で笑われたりしないかな。
「ふふ、ゆう君ったら立派になったわね」
「おとーさん! かっこいい!」
「式の間アスカをよろしくね、母さん」
「ええ、しっかり頑張って来てね。ハンカチは持った?」
「もう子供じゃないんだから。じゃあ行ってくるよ」
僕は母さんたちと普段と変わらない会話をしながら姿見の前で入念に身だしなみを確認し、大災厄の追悼式典でするスピーチの原稿を一応確認した。
ただ正直こんなものはあまり意味はない。変に気取らず思った事を伝えればいい。そうしたほうがきっと伝わるだろうから。
晴れ渡る青空の下、僕は控室から演説会場に向かい、登壇して大勢の市民を前にスピーチを始める。
「多くの尊い命が失われた震災から立ち直り、無慈悲にも全てが奪われた『あの日』、私はただただ絶望しました。何故再び私たちから大切なものを奪うのかと。何故世界はこれほどまでに残酷なのかと」
市民の中には懸命に闘い抜いたチーム明日花の戦友も多くいて、彼らはどこか僕に対して優しい眼差しを向け見守ってくれている。僕は彼らに対して感謝の気持ちを抱きながら、その想いを言葉に載せて聴衆に語り掛けた。
「しかし世界は終わりませんでした。太陽は変わらず世界を照らし続け、荒廃した世界で懸命に生きる私たちを見守ってくれています。この世界には今も明日が続いて、希望の種は荒れ果てた大地に芽吹こうとしています。決して希望を捨ててはいけません。明日にはきっと美しい花が咲いていると信じ、生きて生きて生き抜かなければなりません。私は果たしてこの世界に希望は存在するのか、ずっと悩み続けて生きてきました。ですが今なら断言出来ます。明日の世界は全ての人に対して平等に存在し、人は誰しも最高の結末を手にする事が出来る可能性を持っているのだと」
それはいつかの戦いで自問自答し、僕がようやく導き出した答えだった。あの時は自分の事を信じられなかったけれど、僕が愛した最愛の人は命と引き換えにその真実を教えてくれたんだ。
だから今ならばそれを疑いなく信じる事が出来る。この世界には護るべき価値があるという事を。
「世界は残酷で人は醜いものです。絶望した人の中にはこの言葉を受け入れられない人もいるでしょう。ですが同時に世界はどこまでも優しく人はどこまでも美しくなれる存在です。どうか自分を赦し、希望を持つ勇気を出してください。たとえどれだけ小さな一歩でも、その踏み出した一歩はやがて花が咲き誇る明日へと続く事でしょう」
ありのままの想いを伝えた僕はふと空を見上げる。
そこでは太陽が燦燦と輝き、アスファルトに咲いた一輪の花を優しく見守っていたんだ。




