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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
後日譚 太陽が照らす世界、未来に咲いた花【エピローグ】

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aft-4 義父への感謝

 マリアとアスカが無事に退院し、それからしばらく夫婦で協力しながら産後の一番忙しくも充実した日々を乗り越え、時間に余裕が出来た頃に僕はある人物を尋ねていた。


 そこは一応病院ではあるけれどどちらかと言えば刑務所のような雰囲気が漂っていた。それもそのはず、ここで研究しているのはゾンビ化のワクチンや治療方法についてであり、そこに存在するものは全て国家機密で世界を救うために重要なものだからだ。


「ヌイ、最近どんな感じ? ぼちぼちでんな?」

「ぼちぼちでんな。この言葉は実に便利だ。やや好ましい状況でもやや悪い状況でも包括して表現する事が出来る。しかし今はやや好ましい状況だな」

「ぶひー」


 ラボでビーカーコーヒー片手に休憩中のヌイは我が子同然のぶたにく(三代目)を撫でてどこかご機嫌な様子でそう伝えた。ポーカーフェイスな彼女がこんな顔をするなんてきっと本当に好ましい状況なのだろう。


「私たちは埼玉のチェーン店のうどんのつゆに用いられていた特効薬の材料となる醤油を探していたが、まさか東北のその辺に類似の効果をもたらすものがあったとはな。多くは特定の地域限定の物ばかりで数も少なく失われてしまったが……あのそば狂いには感謝せねばならん」

「そういえばカキョウインさんが回収したもろみからようやく醤油が出来たんだっけ」

「ああ、あれを量産して安定的に供給出来る様になれば人類はしばらく安泰だろうな。無論ゾンビになった人間たちもより長い期間生きながらえる事が出来るだろう」


 彼女が喜んでいる最大の理由はやはりあの醤油についてだろう。


 カキョウインさんが究極のそばを求めて釜牛の研究機関で手に入れたもろみはゾンビ化に対して極めて有用である事が判明し、それを素材にワクチンや治療薬が完成、現在は量産している真っ最中だ。


 やがてエックスバレットに類似したものも作られ人類がゾンビに勝利する未来はそう遠くないうちに訪れるだろう。もっとも時空の歪みによる消滅現象や気候変動など、それ以外にも様々な問題は山積しているしそれだけじゃ人類の終焉は防げない。だからそのあたりの事については僕らがどうにかすべきだろう。


「さて、私とおしゃべりするのもいいが幸信は彼に会いに来たのだろう? 時間は有限だ、特に彼の場合はな。早く行ってくるといい」

「うん、そうするよ」


 取りあえず元気そうなヌイの顔を見て安心した所で僕は彼の下に向かう。しばらくはご機嫌な日々が続くし彼女については心配ないだろう。働き過ぎて身体を壊さないかそれだけがちょっと心配だったけど。


 僕は白い廊下を進み、一際厳重な警備が敷かれていた病室を訪れる。それもそのはず、ここにいるのは世界を滅ぼした大罪人なのだから。


 けれどその男は白髪になりひどくやせ細っていた。頬も痩せこけ骨と皮しかなく、たくさんのチューブや人工呼吸器によって辛うじて生かされていたのだ。


 苦痛に満ちた生は苦痛に満ちた死よりも苦痛であると言うけれど、これが彼に対する罰ならこの上ないだろう。だけど彼は自ら望んでこの選択をしたのだ。


「生きてます?」

「生きているかと言われれば微妙な所だな。これが死を越えた存在になった報いだ。この姿をゾンビという存在に憧れを抱くものに見せたのならばすぐにそんな馬鹿げた妄想を捨て去るだろうな」


 宮田秀樹は皮肉たっぷりに現在の状況を伝えた。不老不死は言い換えれば死にたくても死ねないという事であり、死ぬ権利が剥奪される事は決して人として幸福な事ではないのだ。


「報いではありません。これはあなたが自ら選んだ選択です。あなたが自らの肉体をモルモットとして捧げなければゾンビになった人を救う薬は完成しませんでした。あなたのおかげでマリアも、僕の大切の人たちは全員未来を手にする事が出来たんです」

「その称賛は筋違いだ。俺は世界やゾンビになった人々を救う事など全く興味はなかった。俺はただマリアを救いたかっただけだ。親子関係にあり遺伝子が類似した俺はこの上なく最適なサンプルだからな」

「それでもです。あなたとヘレナさんは最初から最後までその事だけを考えて行動していました。人生の全てを娘の命を救う事だけに費やして、地位も命も何もかもを犠牲にして……」

「……そんな目で俺を見るのはやめろ。惨めになってくる」


 彼はひどく不愉快そうにそう告げる。彼は人としては間違っていたけれど、我が子を思う親としては正しい行動をしただけだったんだ。


「正直僕はアラディア王国であなたに導き出した真実を伝えた時、そこまでするのかって思ってました。ですがアスカが生まれて、僕も父親になって、必死で彼女の命を護って……ようやくどんな事をしても子供を助けたいって気持ちがわかるようになりました」

「……俺なんかとお前を比べるな。おこがましいにも程がある。結局俺はマリアを助けられなかったんだ」

「いいえ、あなたはマリアを助けてくれました。彼女を護ってくれたおかげで、僕たちはアスカに出会う事が出来ました。本当にありがとうございます、お義父さん」

「……くっ」


 僕が感謝の言葉を伝えると秀樹さんは静かに涙を流してしまう。僕と彼はまるで同じだったから、その涙の意味も今ならすべて理解出来たんだ。


「傲慢かもしれませんが、僕はあなたの人生の最期を幸せな形で終わらせたいんです。遅れてしまいましたが結婚の挨拶に来ました。そしてどうかあなたにも結婚式に来て欲しいんです。マリアもそれを望んでいます。もう自分を赦してあげてください」

「そうか」


 その申し出に秀樹さんは黙り込んで熟考する。そして彼はようやく言った一言は、


「少し時間をくれないか」

「ええ、いつまでも待っています」


 そんな短いもので確約はしてくれなかったけれど、僕は彼が必ず来てくれると信じて病室を後にしたんだ。

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