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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
後日譚 太陽が照らす世界、未来に咲いた花【エピローグ】

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aft-3 命の芽生え

 夢から覚めた僕は病院からの悪夢の様な電話で叩き起こされ、わずかに市議の仕事が気になったもののマリアが入院している病院へとすぐに向かった。


 これがただの悪夢ならばどれだけ良かっただろうか。親の死に目うんぬんとは言われたけれど、どうやら僕にはまだ家族を犠牲にする覚悟が出来ていなかったらしい。


「マリア!」


 僕はベッドの上でチューブにつながれて生かされているマリアに駆け寄ろうとした。幸いにして人工呼吸器をつけていた彼女は弱々しくも微笑みかけてくれたので生きている事を理解し、僕はひとまずそこは安心する事は出来た。


 ――だけどマリアのお腹はもう膨らんでおらず、そこに産まれてくるはずの我が子はいなかった。


「……アスカは」

「幸信君……ねえ……私の赤ちゃんどこ……?」


 マリアは愛する我が子を探し懸命に手を伸ばした。ただ見た感じ少なくとも目に見える範囲にはいない。


「私の赤ちゃんどこ……!? どこなのッ!?」


 その表情は次第に切羽詰まったものに変わり、マリアは錯乱しチューブが外れるくらいに取り乱してしまったんだ。周りの看護師さんは慌てて取り押さえるけど、ほぼ人間になった彼女に彼らを振りほどく事は出来なかった。


 まさかアスカは。僕たちの子供は――僕は今までに抱いた事がないほど強い絶望感に襲われた。


「やっと来てくれたのね」

「アスカは! マリアはどうなっているんだ!」

「落ち着きなさい、ヨシノ君」

「落ち着いていられるわけないだろ!」


 そこに重苦しい表情のイイダが現れ、マリアの様子をちらりと見た後僕にそう告げる。だけど彼女は医者として使命を果たすため残酷な事実を伝えた。


「マリアさんに関しては体力を消耗しているけど適切に治療をすれば問題ないから安心して。お腹の子供はついさっき産まれたわ。だけど予定日より早く産まれたせいで健康状態に問題があってかなり危険な状態で……今はNICUで治療しているの」

「そんな……!」

「……私たちも出来る限りの事はする。今はマリアさんに寄り添ってあげて」


 絶望的な状況を伝えたイイダは僕に出来る事は何もないと告げ、務めを果たすためにアスカの下へ向かった。


 だけど僕はどうする事も出来ず、ただそこに立ち尽くす事しか出来なかったんだ。



 病院に泊まり込んでただただ時間だけが過ぎていき、僕はマリアを乗せた車椅子を押してNICUの近くまで移動した。


 だけど行ったところで何かが出来るわけでもなく、両親であるはずなのに僕らは面会すら許されなかった。それを聞いて僕は本当に危険な状況なんだな、と改めて理解し絶望してしまったんだ。


「なんで……なんで……私の子供なのに……抱きしめてあげられないの……ちゃんと産んであげられなくてごめんね……!」

「マリア……」


 けれどそれ以上に泣き崩れるマリアの事が心配だった。僕なんかよりもずっとアスカと一緒にいて、自分のお腹を痛めて産んだ彼女はなおの事辛いはずだ。


「……僕のほうこそごめん。もっと面会に来ていれば異変に気付けて、君とアスカを護れたのかもしれないのに……!」

「幸信君は悪くない、悪くないよ……! 悪いのは全部私だから……!」


 僕はアスカを護れなかった事、そしてマリアにこんな事を言わせてしまった事が悔しくて、歯を食いしばって静かに後悔の涙を流す事しか出来なかった。


「厄介事が起きたと聞いて来てみればどえらい事になってますね」

「……フェイスレス?」


 だけどそこに意外な来客が訪れた。彼は昔と変わらず何を考えているのかわからないポーカーフェイスで、病院にはひどく場違いなマジシャンの衣装を着ていた。ある意味小児科病棟ではよく見かけるけど。


「久々の再会を喜ぶのは後回しにしましょう。あのヒューマンは医学的なアプローチでアスカを助けようとしていますがそんな事をしても無駄なのです」

「無駄って!」

「話は最後まで聞くのです」


 僕はフェイスレスがそんな無神経な事を言い放ったので殴りかかりそうになってしまったけど、彼は変わらず涼しい顔で話を続けた。


「これはいわば歴史の修正機能なのです。この世界はアスカが世界に生まれ落ちる事を望んでいません。つまりこれは運命であり正攻法ではどうやっても助ける事は出来ないのです」

「そんな……!」


 マリアは彼から伝えられた残酷な真実に酷く嘆き悲しむけれど、どんな手段を使ってでもアスカを助けたいと強く願っていた僕はその発言から重要なワードを発見してしまったんだ。


「正攻法では、って事はそれ以外の方法ならあるんだね」

「その通りなのです。個人的にはおススメしたくないのですが」

「本当!? お願い、教えて!」


 その問いかけをフェイスレスは肯定し、マリアは必死に彼から答えを聞き出そうとした。きっと今の彼女ならばアスカを助けるためなら悪魔にだって迷う事なく魂を捧げてしまうのだろう。


「正史世界で君は太陽の剣に残った力で奇跡を起こして植物状態のユイを助けてくれました。そのおかげでこちらの世界のユイは元気に過ごしています。つまり一回分程度奇跡の力が余っているわけなのです」

「それってつまり……!」

「ええ、太陽の剣の力を使えばアスカを助ける事が出来ます。しかしその代わりミヤタが生きる未来は絶たれてしまいます。本当は適当な所でお礼にミヤタに使うつもりだったのですが……」


 フェイスレスはそう言って空間を歪ませ政府が管理しているはずの太陽の剣を取り出した。白き帝の軍勢のナンバー2だった彼に関しては今更な部分が多々あるけど、もちろん勝手にこんな事をすれば問題となるに違いないだろう。言うまでもなく僕らにも何かしらのペナルティがあるかもしれない。


「幸信君」

「……ああ、わかってる」


 だけど僕たちはその決断を迷うことなく下した。たとえ命や社会的地位を失ったとしても、僕たちは何が何でもアスカを助けたかったから。


「わかりました。ではこちらへ、お邪魔しますよ」

「ちょっ、ここは関係者以外立ち入り禁止で……!?」


 部屋に入ったフェイスレスは慌てて止めようとした医療スタッフの女性に魔法をかけ金縛り状態にする。彼女には悪いけどしばらくこのままでいてもらおう。


 僕もマリアの車椅子を押してアスカが治療を受けている場所まで向かった。そういえば何気に初めて我が子に会うのか。マリアもそれどころじゃなかったから初対面になるのだろうか。


 ただそれはもちろん感動的なものではなく、透明なケースに入って様々なチューブで繋がれたアスカはほとんど呼吸をしておらず生きているのかどうかもわからない状態だった。


「アスカちゃん……」

「アスカ……」


 マリアは死に瀕した愛する我が子を見つめ辛そうな表情になったけど、すぐに我が子を護るため強い母の顔に戻ったんだ。


「それでフェイスレス、どうすればいいの」

「難しい事をする必要はありません。二人で太陽の剣を握りしめアスカが助かる未来を強く念じてください」

「わかった。幸信君」

「ああ」


 僕とマリアは言われるがまま太陽の剣の柄を握りしめ、アスカが幸せに生きる未来を強く願った。


 その行為は驚くほど簡単だった。何故ならば僕らはずっと娘の幸せな人生を夢想していたからだ。


 望む未来をこの手に。僕らは世界を再構築する。さあ、観測するんだ。僕らが魂から願い求めた世界をッ!


 そう強く願ったその時、太陽の剣は眩い光を放ち――その光が消えると同時にか細い声が聞こえた。


「おぎゃあ……おぎゃああ!」

「アスカちゃん!」

「アスカッ!」


 想いの奇跡によってアスカは一命をとりとめ、母親を求め激しく産声を上げた。


 アスカは生きている! 僕らはその時ようやく彼女が助かった事を理解し、無我夢中で手を伸ばしアスカを抱きしめたのだ。


「良かった、ずっと会いたかったよぉ……ッ! 頑張ったね……ッ!」

「ああ、僕たちの娘に生まれてきてくれてありがとう、アスカ……ッ!」

「おぎゃああっ!」


 僕たちは涙を流しながら何度も何度も愛するその名前を呼んだ。ずっと呼びたくてたまらなかった愛する我が子の名前を。


 これからは何が何でもアスカを護って見せる。僕たちはそう強く決意し、彼女が壊れない様に優しく抱きしめ続けたんだ。

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