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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
後日譚 太陽が照らす世界、未来に咲いた花【エピローグ】

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EX-4 アパリマ教授の変異マタンゴに関するレポート

 ――ヌイ・アパリマの視点から――


 大災厄から月日がたち、私は桜日和神社の蔵で宮司とアカクラと共にフィールドワークを行っていた。


「よいしょっと。これで最後ですね」

「うむ、助かった。手伝ってくれて感謝する」

「いえいえ、世界を救ったアパリマ教授のお力になれるのならば。ですがどうして突然うちの神社の蔵を調べたいと思ったんですか?」


 宮司は重いつづらを床に置き不思議そうに尋ねた。私はゾンビ学が専門なので確かに民俗学という専門外の事を調べるという行為に対して疑問に思ってしまうのも無理もないはずだ。


「いやなに、妖怪や怪異の正体が病原体や自然現象というのはよくある話だ。私はカシマサマの正体が何であるか……それがどうしても科学者として知りたくてな」

「なるほど、そういう事ですか。実際平安時代の鬼の正体は疫病と言われていますからね。私も神社の歴史を後世に残すため是非とも協力させてください」


 彼はその説明に納得してさらなる協力を約束してくれたので、早速ずっと知りたかった事を尋ねた。


「ではまず岩巻という地名の由来について聞きたい。私の調べた限り諸説あるようだがこの神社ではどう伝わっているのだ?」

「そうですね、桜日和神社では昔海で網を巻き上げた時に中に岩があったので岩巻になった、と伝わっています。川の上流に岩がありそこで渦が巻いていた、というのもありますね」


 宮司は模範的な解答をするが私が求めていたのはもちろんその様なものではなかったので、続けてダンボールの開封作業をしていたアカクラにも質問をする。


「ふむ、では次にアカクラに聞こう。イワマキマルは確か鬼の大将の部下の伝承がモチーフになっているのだったな」

「はい、ただ実の所散逸していてほぼほぼオリジナルですけど。モチーフになった鬼は茨木童子だったかもしれませんし、名も無きモブ鬼だったかもしれませんし、疫病だったのかもしれませんが正直私にもその辺りの真実はわかりませんね」

「そうか……時にアカクラ。君は魔鬼まきという鬼は知っているか?」

「そりゃもちろん関係者なので一応は。悪路王と対を為す大妖怪大嶽丸の妾の鬼で向こうの山のほうにお寺があって、そこに彼女を弔ったお墓というか岩がありましたから。廃仏毀釈の諸々で何も無くなっちゃいましたけど……ん? 魔鬼の岩?」

「ああ、もしかすればそれが地名の由来になったのかもしれないな」


 アカクラはそこまで口にして私と同じ推測に思い至った。だが歴史がほぼ確定した今、このトンデモ仮設が公式見解になる事はもう決してないのだろう。


「ふむ、なかなか面白い仮説ですね。大嶽丸と悪路王の伝承は混同している部分が多々ありますし、ある意味同一の存在であるという解釈も出来ます。同じ東海地方の石巻山には鬼を祀る神社もありますしいろいろと考察が出来そうですね。うちの一族の言い伝えでは過去に石巻山と岩巻は何らかの関係があったと伝わってはいますがこう繋がるのですか。いえ、現時点では鬼くらいしか共通点がなくどう繋がっているのかはまだよくわかりませんが」

「あくまでも信憑性に乏しい仮説でしかないがな。だが私は後ほど向こうのほうにも向かうつもりだ。鈴鹿山の近所には気になる場所もあるからな」

「ふーむ、なるほど。あのあたりは今何かと物騒ですが護衛とかいります?」

「構わない。私も自分の身を護る程度の事は出来る。多忙な君の手を煩わせるつもりはない」

「そうですか、でも無理はしないでくださいね。あなたの身に何かあったら世界の損失になってしまいますから。それと……鬼を甘く見ないほうがいいですよ。あれは人間が安易に関わってはいけない存在です。油断しているとすぐそちら側に引きずり込まれて戻れなくなりますから」


 この後にする行動を彼女に伝えるとアカクラはそんなおかしな事を言ったので、私はククッと笑い、


「案ずるな。私はもうとっくに後戻り出来ない場所に来ている」


 と告げるとアカクラはそうですか、とそれ以上の忠告を諦め苦笑してしまったんだ。



 私は真実を求め滋賀県の某所に向かい、その道中カシマサマと並行して調査していた変異マタンゴについてのレポートを作成していた。


 マタンゴは一見愛くるしく無害な様に見えるがその繁殖能力はすさまじく瞬く間に日本全土に生息域を拡大してしまった。やがて訪れる人類終焉後の地球では彼らが支配者となるに違いない。


 彼らのキノコ胞子には多幸感をもたらす作用もあり、ある意味最もゾンビに近い特性を持っている変異ゾンビともいえる。彼らが友好的な性格だったから良かったものの、もしもわずかでも悪意があれば人類は既に滅んでいただろう。


 簡潔にレポートをまとめた所で私はようやく滋賀県の某所にある神社に辿り着いた。


 その神社は世にも珍しいキノコを神として祭る神社だった。その由緒はかつてこの地で飢饉が起きた時、人々がこの場所に生えていたキノコを食べて飢えをしのぎ生きながらえた事に由来するらしい。


 どこかで聞いた様な伝説だが当然キノコにとっては聖地の様な場所なのでマタンゴも生息している。いや、今やマタンゴは世界中にいるのだが。


「ようやく辿り着いたんだね、ヌイ・アパリマ」


 そこで待ち構えていたどこか悍ましさを感じる笑みを浮かべる特別なマタンゴは私にそう告げた。私はその雰囲気からすぐにこのマタンゴが他とは違う存在である事を理解したのだ。


「お前は誰だ」

「そんな事はどうだっていいじゃないか。それとも知りたいのかい? 世の中には知らなければいい事がたくさんある。人間は愚かだから生きていけるんだ」

「それでも構わない。飽くなき知識への探求は科学者としての性だ。それがたとえ破滅をもたらすとしても全ての知の探究者はそれに抗う事は出来ん」


 特別なマタンゴは笑みを浮かべながらそう告げたが、私はそれでも真実を知りたかったので彼との対話を続ける事を選択した。


「ずっと知りたかったが結局カシマサマとは何なのだ。お前たちは何者なのだ」

「そうだね、せっかくここまでたどり着いたんだから少しだけ教えてあげよう。カシマサマはいろんな呼ばれ方をしているけどその正体は国や時代によって異なる。ある時は疫病であり、ある時は朝廷から迫害された異民族であり、ある時は悪鬼悪霊の類であり、非業の死を遂げた少女であり、ある時は悪の概念そのものであり……身も蓋もない言い方になるけど君が勝手に決めるといいんじゃないか」

「まったくだな。はるばるここまで来たというのにその答えがこんなのものでは納得出来ん」


 だが彼はのらりくらりと適当に答えとも呼べない答えを述べる。事実曖昧な存在である鬼の正体などあってないようなものであり、それは実に的を射た正解なのだろうが。


「それじゃあ僕らについて教えてあげようか。君は科学者だからもちろん知っているよね。世の中には生物の行動をコントロールする寄生虫や菌が存在するって事を。人間の身体のほとんどは菌で出来ていると言っても過言じゃない。今の君の思考は頭の中に侵食した菌に由来するものじゃないって断言出来るかい?」

「出来ないだろうな。あるいはここに来た事もそうなのかもしれない」

「だよね。ちなみに埼玉の醤油蔵の火災は僕が従業員をコントロールして火事を起こしたんだ。ゾンビに害をなすあれがあったらちょっと困った事になったからさ」


 特別なマタンゴはあの一件で暗躍していた事を暴露した。おそらくアラディア王国か白き帝の軍勢が起こした事件とは思っていたがこいつが犯人だったのか。


「やがてこの世界は遠からずゾンビによって支配される。いいや、僕たちはもうとっくに君たちを支配している。僕たちは君たちを利用して繁殖し、君たち人間はその対価として幸福な夢を見続ける。別に怖がらなくてもいい。それはとても幸せな事だからね」


 彼がそう告げると空間が歪み異形の象が出現、特別なマタンゴは鼻で運ばれその背中に乗った。


「僕はもう別の世界に向かうよ。君も早く滅びを受け入れるといい。そうすれば全ての苦しみから救済されるからね」

「フッ……そのうちな」


 私はこれといった感慨もわかず外宇宙の魔王が去っていく姿を見届けた。おそらく彼はもうこの世界に来る事は無い。何故ならば既に侵略を終えてしまったからだ。


 特に意味もなかったが私は右腕の袖をまくる。


 そこにはびっしりとキノコが生えていて――それを眺めていると不思議と幸せな気分になってしまったんだ。


 だが私はまだ破滅を受け入れるつもりはなかった。何故ならば深淵を覗き込んでもなお私の知識欲はまだ満たされなかったのだから。


 あるいは、もうその時点で私は人間ではなくなっていたのかもしれないが。

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