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ゾンビのミヤタさん~英雄が敗北した未来を変えるために、勇者の剣と愛と勇気と豊橋名産のちくわを携えやって来た二回目の世界、東北には太陽が昇り、花咲く明日への物語が始まる~【完結】  作者: 高山路麒
後日譚 太陽が照らす世界、未来に咲いた花【エピローグ】

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EX-2 メアの優しい嫌がらせ

 ――星崎芽愛の視点から――


 チーム明日花が杉沢村で死闘を繰り広げて童貞ソウゲツをぶっ潰し、傷心のミヤタとついでにハナコと親睦を深め、主だったイベントを消化して――まあアタイは要するに暇になっていた。


「むー」

「にゃー」


 アタイはクーラーの効いた真深沼のアジトで使い魔と引きこもりながらだらだら過ごしていた。


 基本的に夏場の日中は引きこもるのがアタイのライフスタイルだ。普通の人間でも死ぬ日本の猛暑は、太陽に嫌われ日差し対策にパーカーやマスクなどで重装備しないといけないアタイは即死するレベルなのだ。


 一応クソ高いクリームを使えばある程度は日光をしのげるけどそれでも限度はあるし、何よりシンプルにこの暑さはダルい。


「おいお前、なんかおもろい事するのら。ミヤタのとこのブタみたいに」

「にゃー」


 アタイはガーディに無茶ぶりするけれどもちろん困った様に首をかしげるだけだ。ちなみにこいつはまあまあ芸達者だけど、それはあくまでも常識的な範囲内であのブタの様なレベチな事は出来ない。猫如きに期待するだけ無駄かあ。


「ひーまーなーのーらー」

「だらしないぞ、メア」

「だって暇だし。悪役も暇には勝てないのら。なんか暇潰しにちょうど良さそうなネタはないのら?」


 見かねたじゅすへるはアタイを叱りつけるけどこればかりはどうしようもない。だけどじゅすへるはふむ、と考えてこんな事を言った。


「あるにはあるぞ。実はソウゲツが生きているのではないかという情報が上がってきている。現在この情報について真偽を確かめるためうちの諜報員が動いているらしい」

「ふーん、あの童貞がねえ。別にどうでもいいのら」

「そうか」


 だけどアタイはその情報に全く興味を示さなかった。アイツがもし生きていたとしても臆病なソウゲツはかなり警戒心が強いので、組織の諜報員ですら見つけられないのならアタイが見つける事は出来ないだろう。


 アタイはしばらく暇潰しに何をすればいいのか考え、おっ、といいアイデアを閃いた。


「よし、それじゃあアタイも偽物のチーム明日花を結成するのら!」

「ふむ、どうしてその考えに思い至ったのかわからんが一応理由程は聞こうじゃないか」

「ほら、特撮とかでよくあるのら、偽物が本物の振りをして評判を落とすって奴。あれをやってみたいのら!」

「そうか。だが一人でやった所で出来る事はたかが知れているぞ。それに悪の組織でもルールはある。私はお前の命令なら可能な限り従うが組織との兼ね合いもあるので全てが出来るわけではない」

「むー、それもそうなのら」


 だけどアタイの天才的なアイデアはすぐにじゅすへるに否定される。まったく悪の組織は世知辛いのら。


「なら自分で兵隊を集めてルールに抵触しない悪事ならいいのら?」

「まあそうなるが」

「よーし、それじゃあ早速募集するのら!」

「そうか、頑張れよ」


 話し合いの結果じゅすへるは妥協してくれて悪事を行う許可を出してくれる。それじゃあ早速募集をかけてみるのら!



 で、張り紙を作って、アジトの外壁に張り紙を張って。口寂しかったからサメのジャーキーをもしゃもしゃと食べて。


「来ないのら」

「だろうな」

「にゃふ」


 待てども待てども悪事をする仲間は来ない。丸まったガーディは大きなあくびをしてすぴー、と幸せそうに眠っている。


「ハロウィンでも呼ぶか? あいつなら常に暇だ。おそらく今頃どこかで子供を法律スレスレのラインで見守って警察の厄介になっているだろう」

「死んでも嫌なのら」

「そうか」

「キュー」

「一応カワワラはやって来たけど」


 結局粘りまくってやって来たのはカワワラ一匹だった。仕方ないのでアタイは膨らんだまんまるのお腹を撫でてみる。うん、ひんやりぷにぷにしていて水風船みたいで癒されるのら。


「……寝るかあ」

「にゃー」


 アタイは仕方なくぐうたらするためダンボールに横になった。どうやら今日も暇な日々が続くようだ。


「たのもー! 悪の組織ってここか!?」

「んあ?」

「にゃ?」


 けれど半分眠りかけていると誰かが訪ねてきた。アタイは一瞬期待しそうになったけど、それはただのクソガキだったのでアタイはすぐにまた眠ったんだ。


「不採用なのら。子供は帰ってポテチを食べながら夜更かししてゲームをするのら」

「えー! 何でだよ! 折角来てやったのに!」


 男の子はどうにかして加入しようと粘るけど見るからに役に立たなさそうだ。戦力に乏しい出来立てホヤホヤの悪の組織とはいえこっちにも選ぶ権利はある。アタイは門前払いでとっとと家に帰そうとしたけど、


「ほら俺ゾンビだから!」

「んあ」


 そいつの瞳は白く濁っていたからアタイは少しだけ興味を示してしまったんだ。


 ……なるほどね、こいつは悪い子になれる素質があるかもしれない。



 アタイは活動出来る夜になるのを待って外出し浜辺エリアに移動した。じゅすへるとついでにカワワラとガーディもいるけど、この二匹は数合わせだからカウントしなくてもいいだろう。


 浜辺は一応海水浴場っぽかったけれどかなりゴミが多くとてもレジャーを楽しめそうにない。夜の黒い海も相まってヘドロの沼地にも見えた。


「なあなあ、それでどんな悪い事をするんだ!?」

「くっくっく、いい目をしてるのら。えーとカンタ? だっけ」


 ゾンビの少年のカンタは悪事がしたくてうずうずとしていたらしい。アタイは早速彼にナイスなアイデアを披露する事にした。


「悪の組織にもルールはあるのら。アタイの組織はいわばその傘下みたいなものだから実のところ好きな様には出来ないのら。大抵の悪事は基本的に上から許可か後ろ盾を貰わないと出来ないのら」

「ふむふむ」


 アタイのその説明はぶっちゃけさっきじゅすへるから注意された事をそのまま言っているだけだけど、もちろんその事は伝えなかった。


「だからアタイはそういうのがなくても出来る悪事をするのら。さて、目の前には何があるのら?」

「ゴミだらけの浜辺だね」

「実は明日チャリティー番組のロケがあってここでゴミ拾いをする企画があるのら。だからアタイ達は先に片付けて企画を潰してやるつもりなのら! もちろん違法じゃないからセーフなのら!」

「す、すごい! 姉ちゃんはなんて悪い奴なんだ!」


 そのアイデアは物凄く嫌がられる事だったけど物凄く合法的な悪事だった。カンタはとてもキラキラとした目でアタイを見つめ、その尊敬のまなざしにアタイはふふん、と鼻高々になってしまう。


「くっくっく、それじゃあ早速ゴミ拾いを始めるのら!」

「おー!」

「キュー!」

「私はもう何も言わんよ」

「にゃ」


 アタイ達は拳を突き上げ早速ミッションを開始する。連中に嫌がらせをするためにもひとつ残らずゴミを片付けてやるとしよう!



 夜の浜辺でアタイ達は黙々とゴミを片付けていたけれど、思いのほか範囲が広く流石に三人(と二匹)ではとても終わらなかった。だけど嫌がらせのためには地道にやっていくしかないだろう。


「カンタ、あんたはゾンビなのら? やっぱり自分だけゾンビになって生き返った口なのら?」

「いや、俺の母ちゃんは生きてるよ。だけどその……向こうは多分俺の事を死んでると思っててさ、それにほら、ゾンビって嫌われ者だろ? だからその会いたくても会わないほうがいいっていうか……その、うん。今は真深沼に住んでるって聞いたから勇気を出してきたけどやっぱ会えなくて……どこに家があるのかもわからないし……」

「そっか」


 作業中アタイはカンタの身の上話を聞いていた。白ゾンビはそんなに害はないけど、大体の人間からすればゾンビは赤眼も白眼も一緒くたにされ全部危険なものと認識されている。きっとカンタはお母さんと一緒に暮らせば迷惑をかけてしまう、そう思っているのだろう。


 それに家族が新しい人生を歩んでいれば既に死んでいるカンタの存在は厄介事を引き起こす。連れ子が再婚相手と揉める事はよくあるし、ゾンビはなおの事だろうな。


「だからずっとホームレス生活をしてたんだけど、張り紙を見てここなら上手くやっていけるかなって」

「なるほどねー」


 要するにこいつは悪い事をしたかったわけじゃなく住む場所が欲しくて応募して来たらしい。ゾンビに限らず最低限の生活をするためにそういう奴とつるむというのは割とよく聞く話ではある。


 こいつはアタイのアジトじゃなくてこのミッションが終わったらこのままネバーランドに連れて行ったほうがいいかもしれない。きっと皆なら居場所のないカンタを快く受け入れてくれるはずだ。


「うーん、でもたくさんあるなあ」

「むう、確かに困ったのら。これじゃあ明日までに全部片付けられないのら」


 だけどそれはそれとしてまずはこの悪事を完遂させなければいけない。浜辺を埋め尽くすゴミは一向に減らず、アタイたちは芳しくない進捗具合に困り果ててしまった。


「君達は何をやっているんだ」

「ん?」

「っ」


 黙って手を動かすしかないか、と思っているとそこにいかついオジサンが現れ声をかけてきた。夜中にうろつく悪い子のアタイは割とよく経験しているけど、カンタは臆病なのかビクンと身体を震わせてしまった。


「見ての通りアタイ達チーム明日花はゴミ拾いをしてるのら。明日チャリティー番組があるからその嫌がらせなのら!」

「チーム明日花って、確か岩巻のボランティア組織の……」


 だけどこれは願った通りの展開なのでアタイはここぞとばかりにチーム明日花の名前を出してブランドを貶める。これで作戦の第一段階はクリアだ。


「そうか、君たちは……やっぱりそうだよな、こんなのおかしいよな。こうしちゃいられない、俺も協力するぞ! 他の漁師仲間にも電話をして力を借りるか!」

「おお! 助太刀感謝するのら!」


 どうやらこのオジサンもそちら側の人間だったらしい。彼は率先して手伝いを申し出て、さらには仲間も呼んでくれた。


 しばらくすると街の人間が続々と集まりいつの間にか大所帯になってしまう。こんなに悪い事をする奴がいるなんてこの街も捨てたもんじゃないのら!


「ずっとモヤモヤしてたんだよ、あいつらゴミが少ないからってわざわざバラまいて浜辺を汚して……テレビで取り上げてやってるんだって上から目線で偉そうだったけど、これなら誰にも文句を言われずに嫌がらせが出来るよな!」

「ああ、流石チーム明日花だ! ガンガン嫌がらせをして企画を潰して恥をかかせてやろう!」

「姉ちゃん凄いよ、嫌がらせに協力してくれる人がこんなに集まってくれるなんて! やっぱり姉ちゃんは悪のカリスマだよ!」

「うんうん、もっと褒めるのら!」


 街の人々は口々にアタイの悪事を褒め称え一生懸命嫌がらせに協力してくれる。なんか思ってたのと違う気がするけど細かい事は気にしないのら。


「あ……」

「カンタ?」


 だけど大はしゃぎしていたカンタは何かに気が付き途端に不安げな表情になってどこかに走り去っていってしまう。一体なんだろうと思ってカンタの視線の先にあったものを見ると、そこには化粧っ気のない女の人がいたんだ。


 あいつの母親は真深沼に住んでいると言っていた。とするとひょっとして彼女は……。


「じゅすへる、カンタを頼むのら」

「うむ」


 じゅすへるはアタイの指示を聞いてカンタを追いかけていった。あいつも気になるけどまずは嫌がらせを完了しないとね。



 それから数時間後、浜辺はすっかり綺麗になって無事に嫌がらせは完了した。街の人々は無事にミッションをコンプリートし、とても清々しい顔をしていたんだ!


「ふー、ようやく終わった! 本当にありがとう!」

「むふふー、それほどでもー。だけどお礼はいいのら、すぐに行く場所があるから!」

「そうなのか? まあいいや、でも後でちゃんとお礼をさせてもらうよ!」


 ただやるべき事があったアタイはそそくさと退散、途中でいなくなったカンタの所に向かった。


「にゃ」


 待ちわびていたガーディは先に進みアタイを案内してくれる。ミヤタのとこのブタほどじゃないけど地味に役立つ特技だ。


 そのままガーディについて夜道を歩いていくとアタイはアジトに辿り着き、入り口のドアの前でじゅすへるが落ち込むカンタを慰めていた。


「カンタ」

「姉ちゃん……ごめん、途中でほっぽりだして」

「別にいいのら。あの女の人ってひょっとしてそうなのら?」

「うん、俺の母ちゃん」


 アタイは最初にあの女性が母親か確認するとカンタはすんなりと肯定した。だけどこの反応を見る限り決してそれはこいつにとって喜ばしい事ではなかったみたいだ。


「会わないのら? せっかくここまで来たのに」

「うん、もういいかなって。俺がいなくてもなんか元気そうだったし……」

「ふーん……ああ、ちなみにコレお前の母ちゃんの住所と連絡先」

「へ? いつの間に」

「悪の組織の情報収集能力を舐めちゃ駄目なのら」


 アタイはカンタがいない間にこっそり入手した個人情報を押し付けた。もちろんこんな事をした所でカンタは何か行動を起こす事をしないだろう。


「んじゃーアタイはお前の母ちゃんに会いに行ってくるのら」

「え? ってええ!?」


 だからアタイは無理矢理善意を押し付ける。たとえお節介だとしても、お母さんが生きているのにこのまま会えないままお別れするなんて可哀想だったし、そうなるくらいなら嫌がらせになったとしてもこうしたほうがいいと思ったから。



 アタイはカンタのお母さんに会うため高台にある住宅地へと向かった。


 彼女もまた福島から避難して親戚を頼ってこちらに移住したらしい。ただそこは真新しく安全な場所にはあるけどそれ以外に取り柄はなく、見た感じ急ごしらえで作った住むためだけの家という感じだった。


 周りには生活に必要な施設は何もなく立地も微妙だ。復興が進めばまた違うかもしれないけど、駐車場もガラガラで随分と寂しく入居者も少ないのだろう。


 アタイは浜辺の清掃が終わってすぐにカンタを追いかけたけれど彼女はしばらく他の人とだべっていたはずだ。とするときっとそろそろ家に帰ってくるに違いない。


「……お」


 するとアタイの推測通り彼女は家に帰って来た。けれど彼女は自宅に向かわず、何故か自分の住んでいる場所とは別の棟の一階にある部屋に入ってしまった。


「?」


 どうして彼女は――ひょっとして男にでも会いに行ったのだろうか。もちろん別にいいんだけど、もしそいつが再婚相手になりいい感じの関係になればカンタは浮かばれない。アタイは迷いつつもベランダのほうに回り込んで中の様子をうかがう事にした。


「フッフッフ、よく来ましたね、迷える子羊よ」

「ッ!?」


 だけどそこから聞こえてきた悪役ボイスはソウゲツの声にそっくりだった。じゅすへるはあいつが生きているかもしれないと言っていたけどまさかこんな所に――!?


「ソウゲツ様、今月の分の寄付金ですが……すみませんが少しの間待ってくれませんか」


 そしてカンタのお母さんが不安げに名前を呼んでアタイはそいつがソウゲツだと確信していた。


 だけど彼女はどうしてソウゲツなんかと接触したのだろう。何やら金銭のやり取りをしているっぽいけど。


「ふむ、仕方ありませんね。しかしそれでは君の息子さんを生き返らせる事は出来ませんね。生き返りの秘術はそれなりの対価が必要なものでして」

「お願いします! どうかカンタを……何でもしますからッ!」


 ふむ、どうやらソウゲツはカンタをダシに金をせびっているらしい。あいつらしからぬ小悪党にも程がある悪事だけどお金に困っているのだろうか?


 黄王教団は霊感商法をしまくっていたしある意味金をむしり取るのは自然な行為だ。でもこの様子を見る限りお母さんはカンタにとても会いたがっているらしい。これを彼に伝えたら喜びそうだけど今はもうちょっと情報を入手しよう。


「私は慈悲深き黄王教団の司祭、宗月翡翠です。お金がなくても代わりの物を納めていただければあなたを救済して差し上げましょう」

「ほ、本当ですか! それは一体!」

「それはですね……むほほ、そ、その、まずは服を脱いでいただいてあなたの女神の象徴で私の聖杖を……つまりおっぱいで……!」

「え、ええッ!? な、何を言ってッ!?」

「あらあら~ん!? 何でもしますって言ったよね、言っちゃったよね? ねぇねぇ!?」

「ちょい待てコラァッ!?」


 が、ソウゲツは下品な声で完全にアウトな発言をし、関係を迫られたカンタのお母さんは慌てふためいてしまったのでアタイは窓を破壊して即座に室内に突入する。


「ぬおお!? なな、なんだ!?」

「きゃっ!?」


 だけどそこにいたソウゲツの姿を見てアタイは唖然としてしまったんだ。


「誰だお前!?」


 そいつはソウゲツとは似ても似つかないぽっちゃりしたハゲデブのオッサンで、類似点と言えば黄色いスーツを着ているくらいで一目で偽物だという事がわかってしまったんだ。


「それは私のセリフだ! いきなりなんだお前は!? 私は黄王教団の宗月翡翠だぞ!」

「偽物になるにしてももうちょっと似せる努力をしろッ! もう芸歴二十年くらいの売れない地下芸人にしか見えないのらッ! チャンス○城の知り合いでこんな奴がいたのら!」

「え、ええ!? この人は偽物だったんですか!?」


 だけど多くの人はソウゲツを直接見た事は無いし騙されても無理はないかもしれない。少なくともカンタのお母さんはこいつが本当にソウゲツだと思っていたらしくひどく驚いていたんだ。


「違う、私は本物の宗月翡翠だ! 来い、ハストルード! 私を愚弄するこいつをひねりつぶせッ!」

「シャー!」


 怒り狂った偽ソウゲツはハストルードを召喚してアタイにけしかける。なんかシャーとか言って子供用の黄色い雨合羽とひょっとこのお面を被っているけどこれはきっとハストルードのつもりなんだろう。


「ッテメア様!? ナナ、ナンデココニ!? ハッ、マサカヤツカ様ニ内緒デ小遣イ稼ギヲシテタノガバレテタンデスカ!?」

「あん? あんたヤツカのとこの兵隊だったの?」

「ヒェー! ゴメンナサイ、モウシマセン!」

「ああ!?」


 だけど偽ハストルードはすぐに私が白き帝の軍勢の幹部と気付き慌てて退散してしまう。偽ソウゲツは頼みの綱のディーパがいなくなって呆然とし、あんぐりとした最高に笑える顔のままアタイのほうにゆっくりと向き直ったんだ。


「駄目っすか?」

「駄目なのら」

「ギャー!?」


 ここでこいつを殺してもいいけど事故物件にしてはカンタのお母さんや大家さんに迷惑がかかってしまう。アタイは死なない程度に半殺しにし、ついでに丸刈りにして偽ソウゲツをベランダから外に放り出したんだ。



 偽ソウゲツをフルボッコにした後は警察に引き渡し、カンタのお母さんは偽ソウゲツを乗せ去っていくパトカーを切なそうに眺めていた。


「そう、結局あの人は偽物だったのね……カンタも……ふふ、わかってたはずなのにね。もうあの子が帰ってくる事は無いのに」


 ただ彼女はお金を騙し取られた事よりもそちらのほうに絶望してしまったしい。お母さんはきっと藁にも縋る思いであの得体の知れない相手を頼ってしまったんだろうな。


「ありがとうね、私を助けてくれて。きっとカンタが私を助けるために巡り合わせたのかしら」

「ある意味ではそうかも、っていうかそのままなのら」

「?」


 カンタのお母さんは良い事を言ったつもりだったかもしれないけれどそれはまさしく真実だった。彼女は一瞬その意味が分からなかったみたいだけど、少し離れた場所から泣きそうな目で見つめていた息子に気付き言葉を失ってしまう。


「カンタ……?」

「母ちゃん……」


 二人は互いの存在を認識し――それ以上余計な言葉は語らず走り出し力強く抱きしめた。もう二度と決して離れ離れにならない様に。


「カンタぁ!」

「母ちゃん!」


 細かい理由なんて考えず、親子は生きて再会出来た事を心の底から喜び泣きわめいた。いろいろと大変な事はあるかもしれないけど、こんなにも強い絆で結ばれているのなら何も心配はいらないだろう。


 優しい光景に満たされたアタイは何も告げずそっとその場を後にし、夜の闇の中に消えていったんだ。



 後日、アタイはサメのジャーキーをもしゃもしゃと食べながら再び暇な日々を過ごしていた。


 結論から言うとアタイの作戦は大失敗に終わってしまった。


 チーム明日花は被災地を食い物にするチャリティー番組のやらせを明るみにした上に、宗月翡翠の名をかたり悪事を働いていた詐欺師をやっつけ更に名声を高めてしまったそうだ。きっとミヤタは今頃心当たりのないお礼の品物をたくさん贈られて戸惑っている事だろう。


「ひーまーなーのーらー」

「にゃふ」


 アタイは今日も変わらず退屈な日々を送る。まったく、最悪な気分だ。きっと今年の夏も変わらず家に引きこもり続けるのだろうな。


 うーん、今度はどんな悪事をしよう。まあなんかやる気も出ないし今日はもう寝よう。


「たのもー! メアちゃーん!」

「んあ」


 だけど眠りに落ちそうになった時どこかで聞いた喧しい声が聞こえ――アタイは嬉しくなってすぐにダンボールのベッドから飛び起きたんだ。


 ちょっと騒がしくなるかもしれないけど、今日は充実した楽しい一日になりそうだ。

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