20-73 いつかまた会える日を信じて
世界が滅んだ日から程なくして、復興記念公園では慰霊の灯が灯されていた。
闇を照らす灯の一つ一つが誰かの生きた証だ。炎は静かに揺らめき、人々は静かに彼らを悼む。
岩巻高校の皆さんはシガキさんやハネザキ先生たちの灯の前ですすり泣きながら静かに祈りを捧げた。きっと彼は向こうでも先生に迷惑をかけて怒られて仲良くやっているんだろうな。
「終わっちまったなあ」
「ええ……」
私たち未来チームは会場から離れた所からその様子を見守った後、桜日和神社でその時を待っていた。火神子さん達も今日ばかりは会場にいるらしく、普段は賑やかな神社は随分と寂しい事になっていた。
「俺たちはちゃんと未来を護れたよな。この世界の人たちはちゃんと護ってくれるよな」
「きっと大丈夫よ。人はとても強いってケンも知っているでしょう?」
「……そうだな。うし、そろそろ戻るか」
ケンとカナエはそう告げると身体がかすかに光始める。どうやら二人が先にその時が来てしまったらしい。
「未来でまた会おうね、ケン、カナエ」
「またいつでも僕の所に遊びにおいで! 腕によりをかけて美味しい料理を作ってあげるからさ!」
「ああ! じゃあな! サバ缶パスタを楽しみにしてるよ!」
「ずっとずっと待ってるから! アスカ、シオン!」
二人は光の粒子となって消失、世界へと還っていく。それは世界を救った英雄にしてはやや呆気ない最期だった。
「シオン君はこれからどうなるの? シオン君の場合はちょっとややこしいけど」
「そうだね……まあ頑張って会いに行くよ。それこそゴリ押しでね」
「ふふ、そっか」
続けてシオン君の身体も光り徐々に存在が希薄になっていく。次はシオン君の番みたいだ。
「だけど生まれ変わったとしてもそれは君の人生だ。僕は必要以上に介入するつもりはない。そのほうが幸せだからね」
「まったく、まだそんな事を言ってるの? なら私は意地でも会いに行くからね。その時はどういう関係になるかはわからないけどさ……きっと家族でも友達でも、どんな関係でも楽しくやっていけると思うから」
「……うん、そうだね。じゃあまたね、アスカ。いつかまた巡り合おう」
「うん、またね、シオン君」
再会を約束したシオン君は清々しい顔をして世界から消え去る。家族想いなのは嬉しいけど今度はちゃんと自分を幸せにする選択を選んでね。
「うーん、でも私が最後かあ」
ただ順番的に私が最後になってしまったのはちょっぴり不満だった。誰もいない神社で独りぼっちというのは寂しいものがあり、いろんな事を考えてしまう。
湿っぽいお別れが嫌だったからこっそりいなくなる事を選んだけど、私は誰からも看取られず世界から孤独に消えてしまうのだろうか。覚悟はしていたけどやっぱりなんか怖いな……。
「っ」
そんな無意味な事を考えていると私の身体も光り始めて虚無感に襲われてしまう。どうやら私にもその時が来てしまった様だ。
やっぱり最後は誰かと一緒が良かったなあ……私はこの後どうなるのだろう。永遠に時空の狭間の世界を彷徨うのだろうか。それだけは嫌だよ……。
「ハナコっ!」
「アスカちゃんっ!」
「アスカっ!」
「っ!」
だけど不安に押しつぶされそうになっていると私が一番会いたかった人たちがやってきてくれた。ひかげちゃん達は震える私を抱きしめ、私は救われた気分になったんだ。
「水臭いよハナコ! 勝手にいなくなるなんて!」
「あはは、ごめんね。でもやっぱりなんか悲しくなるのが嫌だったから」
「お別れ出来ないほうが悲しいの! まったくもう、アスカちゃんったら!」
「僕たちがお節介なのは君も知っていたはずだろう?」
「……そうでしたね」
とりわけ仲の良かったひかげちゃん、特別な関係のミヤタさんとヨシノさんは悲しんでいたけど、他の人もどこか不安げな面持ちでやってきてくれた。うん、正直こうなるってわかってたけどさ。
「あいつらは……もういないのか。まったく揃いも揃って人の気持ちを考えて欲しいのら」
「うん、メアちゃんも来てくれてありがとうね」
「別に付き合いで来てやっただけだし……でも……ううん、これは未来で言うのら」
「ふふ、そっか」
その中にはメアちゃんもいて、相変わらずぶっきらぼうだったけどその言葉の節々には優しさがにじみ出ていた。あんなに最初は中が悪かったのに、最後にお別れを言ってくれるだなんて感無量だよ。
「それで……もうなのね?」
「みたいやな、オカルトはわからんけど」
「ええ。ですが気にしないでください。未来で会えると思うので」
「……そう、だよね」
レイカさんとドーラさんは何かを懸念したけど、私は消え去るという表現を使わずあえて誤解する様にそう言った。紗幸さんは疑う事無くにっこりと笑ったので誤魔化す事には成功いたらしい。
「こればかりはどうしようもありませんね。いつかまた会える時を楽しみにしております、アスカさん」
「うむ、その時は喜んでチェルノ団に迎え入れてやろう」
「ええ、フィリアさんとチェルノさんもお元気で。セラエノさんもちくわばかり食べてたら駄目ですよ」
「あなたにとやかく言われる筋合いはないわ。けどちゃんといい奴を準備して待っておくわね」
「あはは、はい」
セラエノさんはきっと全てを理解していたはずだ。だけど何も言わずに空気を読んでいつも通りのちくわボケで返してくれる。
「ハナコ! ずっと待ってるから……待ってるからね! だからまた友達になろうね……ッ!」
「ひかげちゃん……うんっ!」
あらら、ひかげちゃんったらこんなにギャン泣きしちゃって。でももう私には彼女の涙をぬぐう事も出来なかった。
「また会おうね、アスカちゃん!」
「アスカ、君が戻ってくるまでに僕らはこの世界を少しだけ優しいものにしておくよ」
「はい、ミヤタさんとヨシノさん……お母さんとお父さんも……っ! 私、あなたたちの子供に生まれて幸せだったよっ!」
私は最後に大粒の涙を流しながらずっと言いたくても言えなかった言葉を伝えた。その二つの単語を言うだけで、私の心はむず痒くも暖かな気持ちになれたんだ。
二人は泣きながら笑って何かを言っていたけどもう私は声を聴く事も出来なかった。もうちょっとおしゃべりしたかったけれど仕方ないか。
私は必ずお母さんとお父さんに会える日を信じて世界に溶けていく。私は岩巻の潮風となり、海となり緩やかに自我を失っていった。
大災厄から生き残ったこの世界には今も明日が続いている。
やがて世界には太陽が昇り、暗闇の世界を照らして新しい一日が始まったんだ。




