20-69 VS 作られし創造神 人工神ゾス・グレイシア
――宮田マリアさんの視点から――
無機質な白い高層ビルが並ぶそのエリアは特に混沌としていて、敵ももっぱらバグ化した今までのボスと手強い敵ばかりだった。
「そいやーッ!」
だけどいちいち相手にしている余裕はないからわたしは太陽の剣を振り回し、擬態したハストルードを迎撃する。ヨシノくんもまたブルーバードにヘッドスナイプを決め的確にわたしを援護してくれた。
「ねえヨシノくん、この空間っていろんな場所が混ざっているんだよね。でもここはどこなんだろう。なんかちょっと寂しい場所だけど……」
わたしは戦いの最中ふと気になった事をヨシノくんに尋ねた。均一で効率だけを考えて作られたビル群からは温かみが一切感じられず、わたしはどことなく悲しいものを感じてしまったんだ。
「もしかしたらこのエリアは僕たちの世界に由来する場所じゃないのかもね。きっとここは彼女に縁のある場所じゃないのかな。行こう、向こうで彼女が待っている」
「うん」
ヨシノくんはこの場所の主が誰なのかわかっていたみたいだ。わたしも何となく察し、ヨシノくんについて行って天にそびえたつ一番高いビルへと移動した。
「おや、ヨシノさん、ミヤタさん!」
「ナビ子さん!」
「うぃー」
「私もいますよ」
ビルの内部に突入すると既にたくさんの敵の屍が築き上げられ、ナビ子さんや希典さん、ハロウィンさんにみのりちゃんについでにへとへとなハネザキ先生がいた。どうやら先に来て敵を倒してくれていたみたいだ。
「お、おう。見ての通りだ。もう敵は倒してくれたぞ」
「この並びでどうして先生がいるんですか? そんな物騒なものを持って」
「私も場違いだとは思っているよ」
ヨシノくんは強者ばかりの戦場にハネザキ先生がいた事を疑問に思ってしまう。一応先生はサブマシンガンで武装はしていたけど、先生はごく普通の一般人だからなあ。
「そうですか? 地味に倒してましたけど。どこかでサブマシンガンを撃った経験があるんですか?」
「生憎サブマシンガンとは縁のない平和な人生を送ってきた。その辺にあったものを拝借したが思いのほか手に馴染んで割と活躍出来たから私が一番驚いているよ」
だけどハネザキ先生は意外にも健闘していたらしくみのりちゃんは驚いていた様だ。先生はハイスペックだからサブマシンガンくらい余裕で扱えるんだろうね。
「でもそのサブマシンガン、それにそのクリスタルは……どうしてそれを?」
「ん、ああ。保管庫っぽい場所で回収した。何かに使えるかと思ってな」
けれどナビ子さんは違う理由で驚いていたみたいだ。彼女が手に持っている綺麗なクリスタルが何なのかわたしにはわからないけどあれはどうやって使うんだろう?
「おしゃべりはその辺にしておきましょう。あなた方はそこのエレベーターで屋上に向かってください。ここは私が食い止めますので」
「ハロウィンさんだけでは心もとないですね。僕も手伝いましょう」
ただ時間をかけすぎた結果敵が復活してビル内部に侵入してくる。ハロウィンさんとみのりちゃんが足止めを申し出てくれたけれど、二人は強いしきっと問題ないはずだ。
「じゃ、俺っちたちも先に行こうか」
「ええ」
「うん! 気を付けてね!」
「みのりさん、すぐにやっつけて戻りますから!」
「ここは任せたぞ!」
この場を二人に任せてわたしたちは急いで大きなエレベーターに乗り、ハネザキ先生が手早くパネルを操作しエレベーターは急上昇して上層へと向かった。
「ええと、先生?」
「くどい様だが場違いな事は理解している。だがどうしてだろうな、行かなければいけない気がしたんだ」
だけどやっぱり途中で何故かついて来たハネザキ先生の事が気になってしまう。もちろんここまで来れたって事はそれなりに戦えるんだろうけど。
「銃の使い方も、クリスタルがなんであるかも、パネルの操作も全部覚えている。なあ希典、お前にはこの理由がわかるのか?」
「さあねえ」
でも先生は違う想いを抱いていたみたいで、希典さんに疑問を投げかけるけど彼ははぐらかしてしまう。
疑問が解消されないままわたしたちは屋上に辿り着き、そこで待ち受けていた巨大な機神兵と対峙した。その機神兵は通常の機体と比べると数倍程度の大きさがあって、まさしく人工の神と呼ぶのに相応しい姿をしていたんだ。
『ちゃんとここに来てくれたんですね、希典さん』
彼女はわたしたちには目もくれず希典さんのみを見定め、彼もまた寂しげな眼差しで人工の神ゾス・グレイシアを見つめた。
『私はあなたが当主代行になって嬉しかったんです。あのやる気のない当主様に代わって役目を果たし、かつての悲願を叶えてくれると。ですがあなたは何もしなかった。英雄としての役割を果たさなかった。世界がこうなったのは全てあなたたちの責任だというのに!』
「わかっちゃいるけどね。だけどもう俺たちは負けたのさ。過去の人間が未練がましく亡霊の様に生き続けるものじゃないよ。でもお前さんは受け入れられなかったんだよね」
彼女が恵先生の人格を再現した物ならきっと恵さんも昔はそう思っていたんだろう。わたしにはこの寂しい世界で起こった出来事の全てを把握しているわけじゃないけど、きっと彼女はとても悲しくて辛くて、閉ざされた0と1の世界でやり切れない想いを抱きながら存在し続けていたんだろうな。
「恵、この空間のバグ系の怪物はお前さんが生み出しているんだろう? 連中はお前を倒さない限り無限に湧いてくる。複製データのお前さんもね。すまないがここいらで削除させてもらうよ。過去のケジメをつける意味合いも込めてね」
『望むところです。私はあなた方を倒し、この世界に完全なる秩序を与える神となりましょうッ!』
ミヤザワはそう宣言した後武装を展開、ミサイルの雨を降らせかつてこの世界で起こった人の手によるハルマゲドンを再現した。
「私には何が正しいのかわからないけど……私にだって何としてでも護りたいものがあるから。だから私はあなたと戦うッ!」
「ああ、決着をつけるとしよう。そして全てを終わらせるんだ」
私は太陽の剣に強い想いを込めてその力を最大限に引き出した。過去の因縁を断ち切るためにも是が非でも勝利を掴み取るんだ。
「望む未来をこの手にッ! 僕は世界を再構築するッ! さあ、観測するんだ! 僕が魂から願い求めた世界をッ! さあ、行くよミヤタッ!」
「うん!」
ヨシノ君はサードマンモードを発動し、私もまた究極体アマテラスに変身してミヤザワとの最後の戦いに望む。私は早速斬撃を飛ばし、皆を護るために降り注ぐミサイルを全て迎撃した。
「使い方はわかりますよね、とも……ハネザキ先生」
「ああ、全部な。来い、オモイカネッ!」
「ではワタシも。お願いします、シグルドリーヴァッ!」
ハネザキ先生とナビ子さんもまたクリスタルを掲げ機神兵を召喚して搭乗する。どうやらあれはああやって使うものだったらしい。どちらも初めて見る専用の機体で神様を思わせる神々しいデザインだ。
「やれやれ、ちょっくら本気を出すかね」
希典さんは身体を溶かし泥の龍に変化、巨大な屍龍となって口から肉塊で出来た生体ミサイルを発射、人工の神に対して最初に反撃をした。流石に一撃では倒れなかったけど、結構ダメージはあるから地道に繰り返していけば勝てるはずだ!
「僕も援護する、思う存分やって!」
「わかったッ!」
空を飛んでミサイルの雨を上手く回避しながら私はゾス・グレイシアに何度も斬撃を飛ばしダメージを与えていく。時折危うく命中しそうになるけど、ヨシノ君は屋上から銃で狙撃して破壊してくれたから私は絶対に命中する事は無かった。
『チィッ!』
私は命の全てをヨシノ君に預け好きなように攻撃する。だけどしばらくしてゾス・グレイシアはかなり苛立った様子で障壁を展開してしまった。
『あれは確か……ッ!』
「あいつも使ってた完全に攻撃を無効化する荒木の一族謹製の使いきりの防御システムだね。時間経過で解除されるからそれまで持ちこたえるしかないか」
『それじゃああいつらが! 早く倒さないと間に合わないのに!』
ナビ子さん達にはこれが何なのかすぐに分かったらしい。私は無意味だと理解しつつも再度斬撃を飛ばしてみたけどやはり堅牢な障壁を突破する事は出来なかった。
ハネザキ先生は学校の皆が心配なのだろうか。時間をかければかける程被害は大きくなるけど、だからってどうしようもないし……!
『……やるしかないかッ!』
「ハネザキ先生、なにを!?」
だけど彼女には打開する為の策があったらしく機神兵の武装を展開、そこから強い光と音を放つと防衛システムの障壁が歪んでしまった。
これならきっと! 私はそのチャンスを逃すまいと直接障壁を斬りつけた!
「はあッ!」
『ぐッ!?』
障壁は一撃では壊れなかったけど歪みはさらに大きくなる。ゴリ押しでこれを繰り返していけばきっと勝てるはずだろう!
『今のうちに早く!』
『は、はいっ!』
「ほいほい」
『貴様ァ!』
私たちは一斉に集中攻撃を仕掛け、ナビ子さんの槍による連撃、希典さんの生体ミサイルやブレス攻撃でなんとか障壁を破壊しようと試みた。ただ当然ゾス・グレイシアの攻撃はさらに激しくなり、特にジャミング電波の発生源であるハネザキ先生の機体が狙われ被弾してしまう。
「ハネザキ先生ッ!」
『ぐッ、平気だ! 私に構わずさっさと攻撃しろッ!』
「は、はいッ!」
ハネザキ先生の機体はミサイルが直撃したせいでかなりのダメージがあったみたいだけど、皆を助けるためには短期決戦で挑むしかない。私は断腸の思いでゾス・グレイシアを倒す事を優先したんだ。
「うおりゃああッ!」
『この……ッ!』
私は何度も、何度も障壁を切りつけ少しずつ破壊していく。ミヤザワもかなり焦っているしあともう一息だ!
ズゥン!
「ッ!?」
『なッ!?』
「すみませんね、恵先生」
『トオルさん! 来てくれたんですね!』
障壁を壊す最後の一撃はどこからともなく現れた誰かによるものだった。いつの間にか屋上に現れたその人は金棒みたいな武器でガラスを割るみたいに障壁を粉々に打ち砕いてくれたんだ。
ナビ子さんは離れ離れの恋人に会ったみたいなリアクションをしていたからきっと彼は彼女の知り合いなのだろう。とにかくこれで攻撃が届くはずだ!
「はああああッ!」
私は全ての力を出し切りありったけの想いを込めて太陽の剣を振り下ろす。ゾス・グレイシアは必死に腕で防いだけれど、鋼の腕は容易く両断されてしまった。
『嫌だ、私は、私はッ! 犠牲にした彼女たちのためにも、奪ってきた全ての命のためにもッ! 終わるわけにはいかないのにィィイッ! 私は諦めない、諦めてなるものかァアアアッッ!!』
それはラスボスの断末魔にしてはあまりにも悲痛で真っすぐだった。彼女はただ人々が幸せに暮らす世界のために懸命に戦い続けていただけなのにどこでこうなってしまったのだろう。
だけどきっと私が同じ立場なら諦める事なんて出来なかったはずだ。私も今まで戦い続けて大切な人をたくさん失ってしまった。その願いを捨てる事は皆の犠牲を無駄にすることに他ならなかったから。
けれど私は彼女の想いを踏みにじらなければいけない。誰かにとって大切なものを護り、この世界で生き続けていくためにもッ!
『ごめんなさい……私はあなたたち、を……ごめん……なさい……』
最期に放ったその一撃はただただ切なく、一切の充足感はなかった。彼女が最期に述べた言葉は奪ってきた命に対しての謝罪の言葉で、ゾス・グレイシアは損傷に耐えきれずに爆散してしまう。
「……ごめんなさい。わたしのほうこそ……」
「ミヤタ……」
地上に降り立ったわたしはずっと我慢していたせいで涙があふれてしまう。変身も解除されて普段のちっぽけな子供の姿に戻り、そのままわたしはヨシノくんに抱き着いて胸の中ですすり泣いてしまった。
『恵さん……すみません』
ナビ子さんもまた奪った命に対して謝罪の言葉を述べた。彼女が死んだ事で空を飛んでいたブルーバードが墜落し、バグ人間も次々と消え去っていく。
「きっと他の場所でもバグ系の怪物が消滅していったのかな。よくやったね、ハネザキ」
『……ああ。私はちゃんと……今度は……生徒を……護れたよな……?』
「うん、ありがとうなの、先生」
希典先生も普段の姿に戻り、ハネザキ先生は苦しそうに喜んだ。返事が出来るって事はきっと生きているのだろう。早く戻って手当てしてあげないとね。
『……………』
「……先生?」
「……ええ、ゆっくり休んでください、先生」
だけどわたしがお礼を言っても先生は返事をしなかった。トオルって人も先生とは関係があったのか優しく労い――過去の後悔を乗り越えた彼女は静かに眠りについたんだ。




