20-68 外宇宙の魔王との戦い
――セラエノの視点から――
杉沢村はしばらく見ない間にすっかりキノコによって浸食されてしまい、ケンとカナエは必死にシュリーカーと応戦、近付く前に急いで撃破していた。
「おっと危ねぇ! まさか最後の対戦相手がキノコとはな!」
「でもキノコ胞子を吸い込んだら駄目よ、絶対に!」
「シュリーカーはこんな見た目だけどゾンビの中で最も危険な存在よ。世界にたった一匹でもいれば数年後には世界をキノコまみれにして滅ぼしてしまう程度にね。それに……」
「あの痴女もいるぞー! がるる!」
「相変わらずエロイなあ。だけど実力はバケモンだ、気を付けろよ」
私はそう忠告した後苗床の玉座に座ったあの女を眺めた。別の世界線で神在を壊滅させた彼女は相変わらず卑猥な格好をしており、その事を覚えていたカンパネラとサブロウはひどく警戒してしまう。
「うふふ、でも今回の相手は私じゃないわ。とっておきのゲストよ」
「だうー」
彼女はそう言うと湧き出た泥が人の形になり鹿の角が生えた少女が出現した。今までもひかげに擬態した泥人形は出現したけどこちらはオリジナルらしい。
「彩鬼……の擬態なのかしら?」
「うー」
その少女はこの世界で最初にゾンビになった現人神の少女によく似ていたけれど流石に本人ではないはずだ。国や時代によって名前や姿は違うけど、アラディア王国の技術力ならば忠実に再現する事も不可能ではないだろう。
現に彼女は地面から湧き出る泥からファンガスやマイコニドといったゾンビを召喚し使役している。認識的には泥人形よりも少し強い程度でいいだろう。
「うお、一気に増えたな。まあいい、とっとと蹴散らすぞ!」
「キャハハ! ネルが一番乗りー!」
敵の数はかなり多いのでここは素早く倒す必要がある。サブロウとネルがこの戦いでのダメージソースになるでしょうけど私も本気を出さないとまずそうだ。
「行きましょうか。二代目大山伯耆坊の力をとくと味わいなさい」
私は力を解放し最初からクライマックスで強敵に挑む。時空の刃で敵を吹き飛ばし、一気に減らした所であの女にも攻撃を放ったけど、残念な事に片手で弾きその攻撃を防いでしまう。
「とーもーだーちー。えへへー」
「……なんていうか戦いにくいな」
ケンは躊躇いつつも彩鬼に攻撃をしたけれど、ハチの巣にされても彼女は幸せそうにへらへらと笑うだけでその上攻撃してもすぐに傷は回復してしまう。元々が泥の擬態なので当たり前ではあるけど、それ以上にやっぱりこの無垢な笑顔のほうがキツイかもしれない。
おそらく彩鬼は最初にゾンビになった時からずっと幸せな夢を見続けているのだろう。それが幸せな事なのか不幸な事なのかはわからないけれど……勝手に神様に祭り上げられて、ゾンビ研究のモルモットにされて、この世界に彼女ほど哀れな人間はいないだろう。
空間転移で強制退場を狙ってもいいけど、ここはやはり最大の悪役であるあの痴女を倒すべきか。
「時津風ッ!」
私は大技を繰り出し短期決戦を挑むも、私が出来る最大火力の攻撃をもってしてもその攻撃は無効化されてしまう。一体どうすれば勝てるのだろうか。
いや、こいつはきっとどうやっても勝てない私よりもずっと強い魔王と呼ばれる別格の存在だ。勝利する事は諦めたほうがいいだろう。
「ケン、カナエ、出来る?」
「ああ!」
「もちろんよ!」
しかしドローに持ち込む事は出来る。私は事前に話し合った作戦を決行するため再び時空の刃を連続で魔王に放った。
「サブロウ、ネル!」
「わかったッ!」
「おりゃー!」
「なんのつもり?」
チーム明日花でも随一のアタッカーによる集中攻撃にも魔王は適当にあしらうだけでこれといったリアクションをせず、彩鬼に指示を出し再びゾンビの増援を出現させる。
「くッ! やっぱり多いわね!」
私はすぐに攻撃を中断、わざとらしく悔しがってマイコニドの群れを撃破した。だけど退屈そうな魔王はしばらくしてケンとカナエがいなくなった事に気付いてしまう。
「あら?」
「俺たちはこっちだ!」
「たっぷりと食らいなさい!」
二人は空間転移によって背後に回り込み空中でエックスバレットの弾幕結界を張る。流石の魔王もこの攻撃は効いたのかその表情はかなり曇ってしまった。
「ああ、これがあの……私に傷を与えた事は褒めてあげるわね」
だがエックスバレットをもってしても傷はすぐに塞がり、貴重な弾薬はまったく意味を無さなかった。そんな、これでも駄目だなんて!
「でも困ったわ、ドレスが汚れちゃったわ。ミヤザワに義理立てする必要もないしこのくらいにしておきましょう。元々私と彼女の目的は別だし。それじゃあね、来世でまた会いましょう」
「だうー?」
しかし魔王はそんなどうでもいい理由で戦い放棄し泥となって撤退してしまう。彩鬼もまた赤子の様にぽかんとした後泥となって消滅、後には大量のキノコ系ゾンビだけが残ってしまった。
「行っちまった。何だったんだ、あいつら?」
「さあね。きっと私たちがあいつの正体を知る事は無いのでしょうね」
好き放題引っ掻き回して去っていった魔王たちにサブロウは眉をひそめるも、私はその問いかけに答えようがなかったのでそう伝えるだけにとどめた。
外側の存在が考えている事なんて想像するだけ時間の無駄だ。彼らは人間とは異なる価値観と行動原理によって動いている。いずれまた別の世界でも人類はあの魔王と戦う事になるのだろう。
どうかその時に人類があっさり滅びないといいのだけれど。全ての災厄の元凶を取り逃してしまった私はそう願わずにはいられなかったんだ。




