20-66 クラムボンはさみしかったんだよ
――八百千代の視点から――
私は八百千代、またの名をクラムボン。もう一人のクラムボンとの対決にチョイスされた戦いのフィールドは何かと縁があるホテル田町だった。
一緒に戦ってくれているのは岩巻高校の皆とPPPのメンバーだけど、ぶっちゃけほぼほぼ戦力としては微妙だ。だけど皆一生懸命バグ人間相手に戦ってくれているので数合わせくらいにはなるだろう。
「シガキさんのためにもッ! テメェら気合入れて行けぇッ!」
「行くぜ、弔い合戦だッ!」
「「オラァッ!」」
なおもちろん一番張り切っていたのはハスミほかPPPのメンバーだ。不良マンガでこういうのを見た事はあるけど実際に目の前で目の当たりにすると実に暑苦しい。
まったく、そこまで誰かを思う事が出来て嬉しいよ。内心彼の死はある程度割り切っているだなんて口が裂けても言えないなあ。
「うう、キリがないヨ!」
「バグ人間でしたっけ。こんなザマじゃシガキさんに合わせる顔がないです……!」
ただゼンとアカクラは必死で応戦するけど敵は特殊な相手なので決して倒す事は出来ない。ある意味ゾンビよりもゾンビらしくなったウィステリア・キャッスルの雑魚は倒しても倒しても復活し皆は苦戦を強いられていた。
「大丈夫か、ユズハ!」
「ええ、二人の輝かしい未来のためにもここで死ねないわ。私はリョウタの子供を二人位生んで幸せな家庭を築くつもりだから!」
「ばっ!?」
「わお」
「お二人は何をしているんですか、まったく」
鉄パイプで戦っていたシマムラとイイダのコンビは困難を乗り越えた事ですっかり絆が深まってしまった。ハヤセちゃんはニヤニヤしながらそのやり取りを眺め、ナバタメちゃんは呆れつつ武装車椅子のマシンガンで応戦する。
「随分と仲が良い事で。このままじゃいずれジリ貧になるな……やはり大本を叩く必要がありそうだ。スマンがいったん離れる! しばらく持ちこたえてくれ!」
「ハネザキ先生!? 単独行動は危険です!」
そのやり取りを微笑ましそうに眺めた後ハネザキ先生は何を思ったのか離脱し、その危険な行為にハヤセちゃんは心配そうに声をかけたけれど彼女は聞く耳を持たずにどこかに消えていってしまった。
私も彼女の事が気にはなったけど想いを汲んで皆を護るためにここで戦った方がいいだろう。さて、ホテル田町は全焼したのにどうして元通りなのか、それはきっと彼女が原因なんだろうな。この場所もきっと科学技術を用いたホログラムの幻術で再現しているだけなのだろう。
「やっぱり対戦相手はあんたなんだね」
「そりゃそうだよ、私だってあんたに怒ってるんだから。まさかあんたがスパイだったなんてね。あんたのせいで私は知らず知らずのうちにミヤザワさんを裏切っちゃったわけだから」
八百万の千代姫は黒い狐の仮面を被り両手に短刀を構えた。忍者がこういう戦い方をしているのを見た事があるけど全くもって時代錯誤な戦闘スタイルだ。
「でもどうする? どっちも不死身だから永遠に終わらないと思うけど」
「そうだね。だから私はあんたのお友達を殺す事にするよ。なんであんたはそんなに友達がいるの? 私は独りぼっちなのに」
「そういう所じゃないの、独りぼっちなのは。あんたって依存した相手にはとことん尽くすよね。それこそ友達を殺してでも。そんなんじゃ嫌われて当然だよ。ミヤザワはあんたを利用しただけなのに」
「お母さんの事を悪く言うなッ!」
私がミヤザワの名前を出すと彼女は豹変して突然切りかかる。千代姫のミヤザワに対する感情は最早親子の様な生易しいものではなく神様を崇拝するレベルで、私は率直に言ってまあまあドン引きしてしまった。
「お母さんつってもミヤザワの正体って結局あんたがゲームをやって出会ったただの人間によく似たNPCだよね。で悩み相談に乗って上手い具合にそそのかされて本物のミヤザワさんの身体を乗っ取る手伝いをして。今回の騒動って要するにただの現実と区別がつかなくなった廃ゲーマーがやらかした結果こうなったって話だよね」
「黙れッ! お母さんは本物だッ! あんたにあの人の何がわかるのッ!」
「わあお、これがゲーム脳か。怖ぇー」
私は出来るだけ千代姫を煽り可能な限りヘイトを稼いだ。こうすれば彼女は全ての理屈を無視して私だけを狙うだろうし。
けれど私は全く彼女の気持ちが理解出来ないわけではなかった。永遠にも近い時を生き続けた結果、彼女は孤独によって精神が壊れてしまった。たとえ現人神と呼ばれる存在でも死に至る孤独という病にだけは勝てなかった、ただそれだけの事だったんだ。
ぶっちゃけお互い不死身なのでこの戦いは永遠に終わる事は無い。だから私に出来る事は全てが終わるまで彼女をひたすら足止めするだけだった。
うーん、でもなんか飽きてきたな。とっとと向こうも諦めてくれないかなあ……うん、無理か。仕方ない、気が済むまでこの毒親に付き合ってあげますか。




