20-64 破壊者瀬田直子
――オフィーリア・マクミランの視点から――
神在の市街地エリアに救援に向かった私が目にしたのは生き物の様にうごめく無数の飛行物体でした。最初は黒い鳥の群れかと思ったものの、よく見るとそれは全て自爆ドローンであり、ビルの上で笑いながら人々を殺める瀬田直子は魔の軍勢を操る悪魔の首領そのものでした。
黙示録において世界の破滅の際は海の砂の数ほどのゴグ・マゴグが現れ地上を炎で焼き尽くすと言いますが、あれはこの光景を示していたのかもしれない。そう錯覚してしまう程にその光景は極めて残酷でした。
「ノナカさんッ!」
「ぐ、うぅ……」
先に交戦していたノナカ警部は大怪我を負って立つ事も出来ない様子でした。けれど自爆ドローンはそんな彼女に対しても容赦なく降り注ぎます。
「くッ!」
私は盾を構え怒涛の攻撃から彼女を護り切るため懸命に抵抗しました。しかしドローンはあまりにも数が多く、とても太刀打ち出来ませんでした。
「くっくっく、英国最強のSPメイドの実力はその程度か!?」
瀬田直子は赤ゾンビでもなければ特殊な異能も持っていません。彼女は近代兵器のみで大群を圧倒しこの戦場を支配していたのです。
おそらく実際の警護においても空高くから高速で数十台のドローンが襲い掛かればどうしようもないのでしょう。最大の弱点である妨害電波を使ったところで対策を施したドローンがまた新たに作られ、これからの戦争は常にドローンを意識しなければいけなくなり、私の様な護衛は意味をなさなくなるはずです。私はその事実を実感し虚しくなってしまいました。
勢いでやって来たものの全方位からドローンが襲い掛かり、どこにも逃げ場はなく私は死を覚悟してしまいました。死ぬにしてもせめてもう少し役立ちたかったのですが……。
「うおりゃあッ!」
「ピリオドさん!?」
ですがそこにピリオドさんが現れ、黒い稲妻を放つエネルギーを解き放ちドローンを一層、全てを迎撃してしまいました。
「私もいるよー!」
「彼女を助けるにしてもまずはあいつを何とかしないとな」
「もぐもぐ」
続けて姫神家のイディクさん、折戸さん、モトさんも現れ私たちを庇う様に立ち回って戦ってくれました。護るはずが護られる側になってしまいお恥ずかしい限りですがどうにか希望は首の皮一枚で繋がりました。
「皆さん、ありがとうございます。しかし私はどう戦えばよろしいのでしょう」
ただ救援が来たところでドローン相手では私にはどうする事も出来ませんでした。せめて接近戦ならばどうとでもなるのですが……。
「大丈夫です……」
「ノナカさん!?」
しかしその時瀕死だったはずのノナカ警部が立ちあがりました。彼女は立つ事も出来なかったはずなのに何故。
「?」
その時私は彼女の背後で天使の羽が生えた妹ノナカさんが微笑んでいる事に気が付きました。けれど瞬きをすると彼女の姿は消えてしまったのできっと今のは目の錯覚だったのでしょう。
「フィリアさん、私を護ってください」
「え、ええ!」
私は戸惑いつつも本来の役割を思い出し再び盾を構えました。私は剣ではなく盾なのです。私の役割は相手を攻撃する事ではなく、味方を護る事なのです。
ピリオドさんたちは必死で戦ってくれていますがそれでも全てのドローンを迎撃する事は出来ず一部は撃ち漏らしてしまいこちらにやって来ます。けれど私はその動きを完全に読み、爆撃からノナカさんを必死で護り切ります。
案外慣れてしまえばどうとでもなる。かつて王を護るために名匠が作り上げ、現在の技術でも再現する事が不可能な鉄壁の強度を誇る神盾アイギスの前では安上がりなドローンなど全くもって無意味でした。
(お姉ちゃん)
「そう、あそこを撃てばいいのね……」
そこにいないはずなのにやはり私もまた彼女を感じてしまう。ノナカさんは朦朧とする意識の中、自身の両手と誰かの両手を重ね合わせしっかりとニューナンブを構え、勝利を掴み取るために一発の銃弾を放った。
その銃弾は瀬田直子がいる場所とは見当違いの場所に放たれ、彼女足元にあるビルの窓を貫通、どういうわけか爆発音が聞こえてしまう。
ズゥン!
「のお!?」
遅れて彼女がいた屋上でも爆発音が聞こえ、全てのドローンが制御出来ずに力無く落下し大爆発を起こしてしまった。その展開は私はもちろん瀬田直子も予想出来なかったらしく、全員が謎の現象に混乱してしまいます。
「い、一体これは何が起きたのだ!? 取りあえずアディオース!」
「あ、おい!」
武器を失った瀬田直子は緊急離脱用の転移石を砕き、ピリオドさんがすぐに追いかけましたが既に屋上からはいなくなってしまいました。
ビルの中はもう爆発してしまったのでわかりませんが、おそらく上下の配電設備は繋がっていて連鎖的に爆破、制御するための端末が損傷したのでしょう。ただそれは少なくともそれを知っていなければ実行出来ない攻撃法でした。なのにノナカ警部はどうしてそんな事が出来たのか私は不思議でなりませんでした。
「ノナカさん、今のは……?」
「……………」
私は彼女に尋ねますがすぐに意識を失ったので慌てて支えました。そして彼女を受け止めた時、
(お姉ちゃんをよろしくお願いしますね)
「っ」
私は確かにあの人の優しくも懐かしい声を聴いてしまい、魂が抜けそうになるほど驚いてしまいました。
「儂参上! ってあらん?」
「もうおわったー。もぐもぐ」
私には一体何が起こったのかわかりませんでしたが、ここは彼女へのお礼も兼ねてノナカ警部を安全な場所まで運ばないといけません。私は今更やってきた呉さんと非常食を貪るモトさんを無視し、戦場から一時撤退をする事にしました。




