20-63 アンタレスの本懐
――谷地麗華の視点から――
あたしにあてがわれた最終決戦の舞台は皮肉にもかつてミヤちゃんと死闘を繰り広げた反ゾンビ団体の拠点跡地だった。
あの時と違う点は南合馬の皆が一緒に戦ってくれている事、そして黄王教団の異形信徒ゾンビとアレスに搭乗したアンタレスがいる事だろうか。
「もーちゃぁあん!」
「るーちゃぁあん!」
「あの二人は何を戦場で愛を叫んでいるんだ?」
「ふふ、いいじゃないですか。誰かを護るために戦えるなんて。本当はそんなものがない方が一番幸せなんですけど」
なおあの百合コンビやホンジョウは一応鉄パイプで戦ってくれていたけど、やはりぶっちぎりで強かったのはアマミだろう。彼女は部分的に暴走体に変化させ、異形の両腕でむしゃむしゃと雑魚敵を片っ端から捕食していた。率直に言ってまあまあグロテスクな光景である。
さて、あたしはアンタレスとの戦いに集中するとしましょうか。あたしは前回と同じく暴走体アクスサーラに変化した状態で彼女と対決するけど、戦いのプロである彼女は一度戦った事であたしの攻撃パターンを学習してしまい前に戦った時よりも手強くなっていた。
「アンタレスッ! なんでミヤザワに従い続けるのッ!? あいつが偽物だってとっくに気付いているんでしょうッ!?」
ただあたしはどうしてもそれが気になり楽しく戦う事が出来なかった。攻撃を防いでいた彼女はしばらく考えた後、どこか寂しげにこう告げたんだ。
『国家に忠誠を誓うのがスパイの仕事だ。それに確かに彼女は別人と入れ替わってはいるがその思想は決して間違ってはいない。どのみち世界は滅びかけているので救済は必要だ。お前らも各地で時空の歪みを見かけたはずだろう。何より私には戦う以外の道はない。私はあまりにも多くの命を奪った。今更引き返す事など出来んよ。今まで恥をさらしながら死に損なってきたが、この戦場で華々しく散る事が出来るのなら本望というものだ』
「なによそれ……ムカつくんだけどッ!」
アンタレスが語った本心はあたしを苛立たせるのに十分過ぎた。彼女は早い話があたしを使って自殺しようとしていたのだ。
「ならお望み通りブッ殺してあげるわよッ! 死に損ないのあんたをねッ!」
その強い怒りは力へと変わりあたしは激情に任せてアンタレスを苛烈に攻める。技術も何もない、極めて原始的かつ圧倒的な暴力で。
『ククッ! いいぞ、素晴らしいッ! 元より私の人生はとっくに終わっていたのだ。この茶番に付き合ってくれて感謝するぞ、谷地麗華ッ!』
アンタレスもまた一切何も考えずに得物を振り回しあたしを殺そうとした。けれど機体が損傷した結果思うように動かず、それは四肢がもげ死に瀕したサソリの最期にする悪あがきにも見えたんだ。
「うおりゃああッ!」
あたしは右腕と左腕を切断、空中で身を翻しコックピットがある部分を力任せに殴りつける。本来もっとも頑丈であるはずのその部位は大きくひしゃげ、アレスは活動を完全に停止してしまう。
「はは……やっぱり痛いなあ……私の人生を終わらせてくれて感謝するぞ……レイカ……」
「っ」
そしてほんの一瞬か細い声が聞こえ、それっきり彼女の声は聞こえなくなってしまった。地上に降り立ったあたしはしばらく唖然としてしまったけれど、すぐにまた激しい怒りが湧いてきてしまう。
「アアアアアッ! クソがァッ!」
あたしは絶叫し破壊衝動に身を任せて怒り狂い壊し続ける事しか出来なかった。あたしはその時、初めて戦いが残酷なものだという事を本当の意味で理解してしまったんだ。




