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1-19 PPPの襲来とミヤタの無双

 さて、気がまぎれたところで僕も改めてコロッケを堪能しようかなと、そう思ったんだけど、


「見つけたぜオラァ!」


 と、何だか聞き覚えのあるオラァが聞こえたのだ。声のした方向に視線を向けると目に優しくないどぎつい紫の集団がこちらに近寄って来るのが確認出来る。


「わくわくすっぞ」

「って、その後の台詞がねぇから返せねぇよッ! 何フレーズか続く奴にしろよオラァ!」


 僕はコロッケを食べながら目の前に現れたいつぞやかのオラオラコンビの相手をする。ミヤタとぶたにくの様子が気になったけれど、彼女は特に怖がる事もなく突如として現れた珍獣に興味津々といった感じだった。


「ぷひっ!」


 ちなみにぶたにくはご主人を守ろうと戦闘態勢に入って身構えている。うん、忠義溢れる可愛いブタさんだ。


「馬鹿にするな、調子に乗ってんじゃねぇぞオラオラオラオラッ!」

「無駄無駄無駄無駄」

「ようやく言ってくれたかァ! 同じオラなら宮城出身の作者のそっちが普通だからなァ! つーか俺達はそっちを意識してたんだぞオラァ!」

「ちなみにアニメではオラオラのシーンは専門の作画班がいるそうだぜオラァ!」

「へー、そうなんだ」


 サク、サク、もひもひ。うん、やっぱりあの店のコロッケは美味しいね。


「というか鬱陶しいからオラオラ言わないでよ。ブタさんが怖がっているじゃないか」

「ぷひ!」

「ブタさん、大声を出してすまねぇなオラァ! けど長い事この口癖を使ってるから止め時がわからねぇんだオラァ!」

「しかも見た目が似てる上どっちが喋ってるか分かりにくいしなオラァ! どうせなら俺は別の口癖にすればよかったぜオラァ!」


 僕は改めてオラオラコンビを見る。よく見るとシャツの色が赤紫と青紫と違い、髪の色も微妙に違う紫色で注意深く見れば見分けられるけどまるで格闘ゲームの2Pカラーのようだ。


「今ならまだ修正は間に合うよ。うぐぅ、とか、がお、にすれば?」

「一昔前のアニメの美少女キャラかよ、うぐぅ!」

「というかそもそも今時口癖でキャラ付けをしようっていう発想自体古いんだって」

「わかってるよ! 駄目出ししないでよ!」


 僕の批評にオラオラAは素に戻ってしまう。そんな情けない姿を見て彼らが連れてきた仲間は頭を抱えてしまった。


「もぐもぐ。この面白い人たちヨシノくんのお友だちなのー?」


 一連のやり取りをコロッケ片手に眺めていたミヤタは彼らをギャグキャラ認定したようだ。実際そうなんだけど。


「オラオラコンビはそこまで仲良くはないけど後ろのほうの連中は知り合いかな。で、シガキ、何の用?」

「大体わかるだろ。返しだよ」


 紫の髪、紫のフレームの眼鏡、紫に魔改造した学ランと、悪趣味にも程がある、あるいは紫の物を身に着けると幸せになれるみたいな宗教にでも入っているかのような特徴的な服装をした長身の少年――リーダーのシガキは安い漫才に呆れつつも明確な敵意の眼差しを向けてくる。


「ふーん、ハスミとカキツバタも?」

「まあな。PPPに喧嘩を売ったからにはそれなりの報いを受けてもらわないとなあ?」


 ニヤリと笑うPPPの幹部の少女、ハスミは今では絶滅危惧種となった紫の特攻服に木刀というバキバキのスケバンスタイルだ。暴走族の聖地である岩巻では今でもたまに見かけるけどさ。


「悪いな、PPPの仲間がボコられて何もしないわけにはいかないんだよ。まあ殺さない程度にしてやるから覚悟しな」


 大柄で見るからに鈍足パワータイプなカキツバタもやっぱり紫のスカジャンを身に着けて威圧してくる。一応彼もPPPの幹部だけど顔見知りだし特に怖い人間という認識はなかった。


「さっきからピーピーピー、って言ってるけど何なのー?」

「ぷひ?」

「ふっふっふ、よく聞いてくれたな!」


 ミヤタにその名前が呼ばれハスミは自慢げにPPPと書かれた背中の刺繍を見せつける。頑張ってちくちくと自分で縫ったのかな?


「シガキさん率いるPPPは岩巻で最強最悪のチーム! この紫の服を見たらどんな不良も震え上がるのさ!」

「おそろいのお洋服で楽しそうなの!」

「悪趣味なだけだと思うけどなあ」


 PPPはカラーギャングに分類される。今となってはカラーギャング自体やはり絶滅危惧種だけど、この街で紫の服を着ているガラの悪そうな人間を見かけたら大体連中の関係者と思っていいだろう。


「ところでPPPってどういう意味なの?」


 知りたがりなミヤタは素朴な疑問をぶつける。だがカキツバタは突然のクイズに戸惑い答えに窮していた。


「え? えーと、何だっけ、ファンタジー?」

「パンツ」


 ボソ、僕は小声でそう呟く。


「そうそう、ファンタジー・パンツ・パーティーだ!」

「うん、パンツには夢とファンタジーが詰まっているよね、わかっているじゃないか。クマさんパンツやしましまとかは特に良いよね」

「アホか、サイケデリック・パープル・ファントムの略だ! 古参幹部なら覚えとけ!」


 カキツバタは手をポンと叩いて誤答をしたところでシガキは彼の頭頂部にチョップを浴びせる。ちなみに僕のツッコミはジョークだからね?


「で、シガキ。返しっていうのはやっぱりそこのオラオラ関連だよね。んで、報復に来たと。食べかけのコロッケあげるから見逃してよ。ほら僕と間接キス出来るよ」

「いらねぇよ!」

「ぽっ。ごめん、やっぱり口移しのほうが良いよね。シガキにだけ特別だからね?」

「だからふざけんじゃねぇよボケッ!」


 照れながらそう発言した僕に、シガキはついにキレて力強い回し蹴りを浴びせる。


 もちろん僕なら避ける事は造作もない。ベンチから立ち上がって素早く退避したけどどちらもすぐ近くにミヤタがいた事を失念していた。


「っ」

「ふにっ!?」


 結論から言うと、その事に気が付いたシガキが慌てて軌道をそらしてくれたおかげでミヤタに蹴りが命中する事はなかった。彼女が持っていたコロッケは粉砕されて地面に落下したけどね。


 シガキの人となりを知っている僕にはこの展開もわかっていた。彼は女性に、ましてや子供に暴力を振るう事はまずないから。


「コロッケ……」

「おっと悪いな、嬢ちゃん。巻き込まれないうちにとっととお家に帰りな」


 怖い思いをしたせいか、その単語だけ呟き微動だにしないミヤタを見て彼や部下もさすがにちょっぴりバツが悪そうな顔をしていた。僕も僕のせいでとばっちりを食らって悪いとは思っているよ。


「ごめんねミヤタ、ちょっと下がってくれるかな」


 ま、彼女がいないほうが僕としては都合がいい。子供に見せられない程度に遠慮なく暴力を振るえるからね。


 僕はいつも通り冷たい笑みを浮かべてコロッケを急いで食べる。そして目を見開きサイコパスモードに変身した。


「食べ物をそまつにしたら……」


 だけどその時。ミヤタはゆっくりとベンチから立ち上がった。


「めっ、なのー!」

「へ」


 彼女の怒声と同時に聞こえた、トラックが突っ込んだかのような凄まじい衝撃音。


 その一瞬の出来事にこの場にいる誰もが何が起こったのか理解出来なかった。


 どうにか視覚で認識出来たコンマ数秒に起こった出来事をありのままに説明すると、ミヤタはそれはそれは見事な正拳突きをシガキのみぞおちに浴びせ彼を勢いよく後方に吹き飛ばしたのだ。その見事な吹き飛ばされっぷりはたとえて言うならダメージが二百%くらい溜まっている状況で魔王の魔人拳をぶっ放した感じかな。


「オラァ……」

「おいおいおいおいッ! うちのリーダーに何してくれんだオラァ!」


 そしてそんな圧倒的な力を見せつけられてもなおオラオラBはミヤタに襲い掛かる。うん、やられ役としては百点満点の行動だ。


「ふにー!」

「ムォ!?」


 彼女はオラオラBに飛び掛かると彼の胴体を軸にポールダンスのように回転し、そのまま背中に移動、ジャーマンスープレックスを決めて頭部を地面に突き刺した。


「はふぉぼおッ!?」


 そしてその亡骸の足を掴んで振り回し呆然としたオラオラAに投げつけあっさりと撃破する。僅か数秒の間で幼女相手に三人がやられ残された幹部のハスミとカキツバタもひどく混乱しているようだけど、頭に血が上っていたのか戦う事を選んだようだ。


「バタ、こいつやべえぞ! 油断するな!」

「わかって、」

「たー!」

「るぅううう!?」


 だがカキツバタは台詞を言い終わる前にサマーソルトキックをもろに食らって彼の巨体は空高く飛んでしまう。木刀を持ったハスミは友人をぽかんと見上げていたが、遅れて落下地点に自分がいる事に気が付いてしまったようだ。


「ぶべぇ!」


 百キロは軽く超えているであろうカキツバタのボディプレスを食らったハスミは一撃で戦闘不能になり、そのままピクピクと痙攣していた。というかこれ普通死ぬよね?


「ぷんぷん!」

「ぷひ」


 コロッケの仇を無事に討ったミヤタはなおも怒りが収まらないようでアホ毛をせわしなく動かし威嚇している。一方のぶたにくは地面に落下したコロッケの残骸を美味しそうに食べていた。


「えと……今のは何? ミヤタ、喧嘩強かったんだね」


 のどかな公園は死屍累々となっていたけれど僕は強張った笑みで取りあえずそう話題を振る。彼女もようやく落ち着いてアホ毛も普段通りに戻った。


「けんかはきらいだけど力持ちなの。だってわたし、ゾンビだから!」

「へ?」


 だけど彼女から帰ってきたのはそんな意味が分からない答えだった。さも当たり前の事のように、彼女は自分をゾンビだと言ったのだ。


「あと、ごじょうろうはわるい人もけっこういたから、なんかいつの間にかけんかが上手になったよ」

「そ、そう」


 ミヤタはそう言ったあとそんな言葉も続ける。けれどそれは到底先ほどの単語のインパクトに適うはずもなかった。

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