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1-17 岩巻復興商店街に出没するロリコンと冷たい視線

 そして僕らがやってきたのは岩巻の復興商店街。プレハブの仮設の店舗が並ぶ商店街は昔の商店街よりも活気がありお祭りでもしているかのように賑わっていた。


「人がたくさんなの!」

「ぷひ!」

「うん、特にここ最近は東北が全体的に観光で盛り上がっているからね。いい事だよ」


 草花にたとえるのなら今はまさに荒れ地に芽吹いた時。ミヤタも楽しまずにはいられなかった様だ。


 ただ賑わいの中に少し異なる声も聞こえる。さっきからやたら作業着の人を見かけるけど工事をしている人が集団でやってきたのかな?


 それはさておき彼女の服は洗濯をして綺麗になったとはいえホームレス生活をしていたためボロボロだった。なので取りあえず紗幸のお古を着せたけどやっぱりサイズはどうにも合わない。ともかくまずは服を買おう。


 んで、服屋にやってきたのはいいんだけど……。


「じゃ、ちゃちゃっと買おうか」

「うん!」


 僕は心を無にしてニコニコしながらおパンツを選ぶミヤタの背後に立っていた。髪と肌の色が違うため兄妹に見えないし、傍から見れば絵面がちょっと、いやかなりアレだ。ちなみにぶたにくは店の外で待っているよ。


「あの人金髪ロリがおパンツとおブラを選ぶところを嫌らしい目で見ているわ……!」

「いつでも通報出来るように準備をしておきましょう!」


 若い女性店員さんの目が痛い。僕は悪い変態じゃないよ。ピギー。


「あ、ブタさんのおパンツがあるの。これ買っていいの?」

「あー、うん、いいよー」


 何でもいいからさっさと買ってさっさと帰ろう。僕は早く終わらせるためリスクを承知で選ぶ作業を手伝う事にした。


「で、ミヤタはどんな下着をつけるの? キャミソール? スポブラ?」

「すごいわ! この空気で堂々と下着のタイプを聞くなんて!」

「どこまでも性欲に忠実なの! あれは素晴らしい変態よ!」


 ハハハー。なんか褒められちゃった。


「こういうのだけどどういうのがいいかな? ヨシノくんはどんな下着がいい?」


 ミヤタが手に取ったのは飾り気のない値段重視のシャツのような下着だけどそういう質問するかね、君は。


 でもここはボケるチャンスだね。なんか面白そうなものはないかな、と。ああ、これがいいかな。


「これなんてどうかな。ガムテみたいだけど」

「ホットでリミットでかっこいいの!」

「ほかには変態のヒーローっぽい奴とか」

「ふぉおおお! なの!」


 ミヤタはいちいちリアクションをしてくれて、ころころ変わる表情が可愛いけどこの店もどうしてこんなものを置いているのだろうか?


「ロリコンの変質者がいるから来てみれば同じクラスのヨシノさんじゃないですか」

「ん?」


 盛り上がっている最中、一人の小柄な少女が僕に話しかけてくる。えーと、誰だっけ。確か『あ』で始まる名前だったような。


 名前を忘れていた僕は左腕に巻かれた包帯と、その両サイドにある角のような髪型で彼女の名前を思い出した。


「やあ、アンドレ・ザ・ジャイアント、ここでバイトしてたんだ」

「なに盛大に名前を間違えているんですか! 私がいつジャイアント馬場とタッグを組んだんですか!」


 ああ、やっぱり違っていたか。同級生はぷんすかと怒り僕に猛抗議をする。


「ごめんごめん、同じクラスにいたような気はするけど僕人の名前を覚えるの苦手だから」

「だからってなんで人間山脈と呼ばれた往年のレスラーの名前を……私のどこに山脈要素があるんですか」

「そりゃ、」


 僕は視線をおろし立派な二つの大山がそびえたつ胸元を見たけど、さすがにそれについて言及しない程度にデリカシーはあるよ。


「何でもないよ」

「はて、まあいいです。ところでこれはどういう状況ですか? ご家族じゃないですよね、外国の方っぽいですし」

「?」


 アンドレ(仮)に視線を向けられたミヤタは不思議そうな顔をするけれど、正直に言うのもよろしくない。僕は先手を打って説明する事にした。


「赤の他人だけど成り行きでしばらく面倒を見る事になってね。ここは東北だから色々と察してよ」

「……ああ、そう、ですか」


 アンドレ(仮)は気まずそうな顔になりどうにか煙に巻く事に成功した。実際訳ありだし嘘じゃないからいいだろう。話題を変えるために僕は気になった事を尋ねる事にした。


「そういえばアンドレ、」

「アカクラです! 赤倉あかくらしのぶです!」

「アカクラ、なんか今日の商店街はバタバタしてるけど気のせいかな?」

「ああ、引っ越しとかがあるからじゃないですか?」

「引っ越し?」


 ここはそもそも仮説店舗が集まった商店街。引っ越しをするのは自然な流れだし新しい生活を始める事が出来るのなら単純に喜ばしい事ではあろう。だけどそれは本来もう少しあとのはずなのに。


「ちょっと急だね。商店街の閉鎖はまだ先なのに」

「オリンピック中止のゴタゴタですよ。私も詳しくは知りませんがどうやら裏である程度資材や人を準備してたのがパーになってそれが全部こっちに流れてきているんです。地元民からすれば復興が捗るのはありがたいですけどね。そのおかげで閉鎖が前倒しになるそうですよ」

「へー」


 そういえばそんな事ニュースでやっていたような……オリンピックなんて地方の僕らには関係ないと思っていたけれどこういうふうにつながるのか。


 でもそっか。商店街が閉鎖するのか。


「やっぱあの都知事の裏金騒動が招致失敗の原因だよね。これまた絶妙なタイミングであの人もやらかしちゃったよねー。バレたのがもう少し後だったら招致に成功してただろうに」

「こっちとしては助かりますけどね。復興五輪なんて言ってましたがただの建前なのは見え見えでしたから。もしそんな事になってたらあっちに人もお金もとられて、資材も高騰して復興が遅れてたでしょうし」

「だよねー」


 アカクラと世間話をしているとミヤタがあるパジャマをじっと見ている事に僕は気が付いた。僕は彼女のもとに近寄り優しく声をかける。


「これが欲しいの?」


 それはもこもこした生地のブタのパジャマでパーカー部分に可愛いブタの頭がある。本当にミヤタはブタが好きなんだな。


「え、う、うん。でもちょっと高いし」

「ふむ」


 値札を見てみると本当にちょっと高いだけだった。少し予算をオーバーするけれどそれくらいは僕が身銭を切るとしよう。


「いいよ、これくらいなら」

「ほんと!?」


 ミヤタは無邪気な子供らしい、にぱあ、ととても癒される笑顔をした。この笑顔を見るためならむしろ全財産を失ってもいいかもね。


「意外と優しいところあるんですね、ヨシノさんも」

「意外は余計だよ」


 失礼な事を言ったアカクラに僕は苦笑しながらそう言った。そしてとっととレジで会計を済ませ僕らは服屋を後にしたのだった。



 店を出ると、やはりというかぶたにくは近所の小学生の群れに絡まれていた。


「ブタさんだー!」

「ぷひー」

「ほら、おいで」


 子供たちのアイドルになりぶたにくも満更でもなさそうだったけど、ミヤタの姿を確認しとててと駆け寄ってくる。ミヤタはぶたにくを抱えほんのり嬉しそうに子供たちに尋ねた。


「ぶたにくをもにゅもにゅしてみるー?」

「ぶたにく?」

「こいつの名前だよ」

「変な名前ー! でももにゅもにゅしたい!」

「ぷひ」


 子供のうちの一人、義足の活発系ロリが早速ぶたにくの頭を優しく撫でた事を皮切りに他の子供たちもなでなでと彼をもみくちゃにする。それを見て僕はぶたにくがとても羨ましいなと思ってしまった。


 ……あれ、この心の声は何だろう。僕は誤魔化すように暴言を吐いた。


「はは、この豚野郎、デレデレするんじゃないぞ」

「ぶたにくはぶたやろうじゃなくてメスブタだよー?」

「あ、そうだったの」


 勝手にオスと思っていたけどこいつメスだったのか。だからといってどうというものでもないけれど。


「バイバイブタさーん!」

「ぷひー」

「じゃあねー!」

「ふふ」


 思わずにやけてしまうほどの愛くるしいロリたちと別れ僕は買い物を続行する。何だか『ロリコンがいるわ!』『通報したほうがいかしら!』って感じのひそひそ声が聞こえるけど僕は聞こえないふりをした。


 ……だけど静かになってからガタイのいい作業員の男性たちを目撃してしまい、僕はすぐにセンチメンタルな気分に戻ってしまったんだ。

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