Pro-2 世界を壊す旅の始まり
そして本命である共和国政府が管理する施設を複数の人物が駆け抜ける。陽動作戦により政府軍の戦力が減っているとはいえ、それでも彼らのほうが数は多く反乱軍は苦戦を強いられていた。
銃弾と爆薬により破壊され戦場となった施設では至る所で火の手が上がり、黒煙が立ち込め双方に多くの犠牲者が出ている。どちらも信念に基づいた目的を達成するために決死の覚悟で役割を果たしていた。
「さあ、行ってッ!」
「はいッ!」
反乱軍の幹部である少女が命を顧みず敵陣の真っただ中に突撃し大量の弾丸をばら撒く。当然無傷では済まなかったがその対価として道は切り開かれた。
見える。勝利への道筋が。まるで超越者に導かれるかのように、金髪と黒髪が混ざった少女と、両手を鉄爪の刃で武装した少年が敵の空白地帯を駆け抜ける。
「でぇいッ!」
金と黒の髪の少女はその可憐な姿とは不釣り合いな大剣を振り回し、立ち塞ぐ人型の警備ロボを断ち切り破壊していく。髪を振り乱し修羅となった少女には最早恐怖を抱いている余裕もなかった。
そんな二人に施設の守護者である銃火器で武装した巨大な警備ロボが現れる。装甲車でも容易く破壊出来るその弾丸は一発でも食らえば即座に肉塊となるが、少年は構わず弾幕の嵐の中を駆け抜け、鉄爪を高速で振り回し弾丸を切り裂いた。
「邪魔だッ!」
ヒュッ――。
鉄爪は紙を裂く様に容易く鋼の巨人を切断、爆砕する。その勢いのまま少年は分厚い鋼鉄の壁を切り刻んで内部に侵入した。
少年と少女は天界への道のような、白く穢れのない長い廊下をひたすら走り続ける。全ての人の死を無駄にしないために最後の力を振り絞って。
必ずあの場所に辿り着く。二人はそれ以外の事など考えていなかった。
「ハッ!」
少年が最後の扉を文字通り切り開き、彼らはようやくそこに辿り着いた。
その広間は世界の中心であるかのように膨大なエネルギーが渦巻いていた。部屋の中央には核であろう巨大な装置が心臓のように鼓動し、二人はまるで神を目の当たりにしたかのように恐れおののいてしまう。
「これが……セラエノ・システム」
装置を見上げた少女は禁断の力を前にして思わず息を飲む。そして少年は告げた。
「ああ。これを使えばもう一度やり直す事が出来る。この終わってしまった世界を」
世界をやり直す。だが二人はその神をも畏れぬ蛮行が何を意味するのか当然理解していた。
「だけどそれは世界を破壊する事にほかならない。過去を、未来を、そして現在をすべて失う事だ。本当にいいんだね?」
もう、引き返す事は出来ない。少年は少女に最後の問いかけをした。
「うん、もちろんだよ。私にはその罪を背負う覚悟がある」
そして少女は決意する。世界を破壊し救済する事を。それがどれだけ愚かだとしても、この世界に明日を取り戻すには最早それしか手段が残されていないのだから。
少女の覚悟を聞いた少年はその答えが満足のいくものだったらしく優しく微笑む。そして肩を震わせる少女にこう言った。
「君の覚悟は受け止めた。なら俺も一緒にその罪を背負うよ。俺は君を護りきってみせる。君の前に立ちはだかる全ての絶望を、苦痛を、悲しみを、この刃の腕で切り裂こう。それが俺の役割だから」
「ありがとう、シオン君。でもね、護ってもらう必要なんてない。私はもう誰かに護られてばかりの子供じゃないから」
少女は少年に――シオンに笑みを返した。未熟な英雄を護ってくれる唯一無二の頼もしい家族に。
「こんな私でも、誰かを護れるヒーローになれるかな」
「きっと、なれるさ」
もう戻れない。けれど何も怖くない。だってこんなにも頼もしい兄がそばにいてくれるのだから。
「行こっか」
「ああ」
二人は手を重ね合わせセラエノ・システムにアクセスする。宇宙が誕生した時のような眩い光は二人を包み、その存在を魂ごと掻き消してしまう。
――そして、全てが始まった世界への扉が開かれた。