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1-15 誰かが使っていた部屋

 んで、妹に大体の事情を説明して。


「お兄ちゃんが犯罪者じゃないのはわかったけど……女の子を拾ってくるって凄い事をするね」

「いやあ、褒めても何も出ないよ」

「褒めてないけど」


 紗幸は全てを理解してもなおまだ釈然としていない様子だった。コミュ障の彼女からすれば他人が家にいるというのは落ち着かないだろうし。


「そりゃ何とかしてあげたい気持ちはあるけどさ……」


 大人しくしていたミヤタに妹はちらりと視線を向ける。するとずっとバツが悪そうな顔をしていた彼女は寂しそうな顔でこう言った。


「そ、そうだよね、わたしがいたらめいわくだよね。すぐに出ていくから、ごめんなさいなの」

「ぷひー……」

「あ、いや、そうじゃなくて!」


 悪者になった紗幸は慌ててミヤタを引き留める。妹は道理にかなった至極当然の事を言っているけれど流石に罪悪感を抱いているようだ。


「まあまあ、いいじゃない、悪い子じゃなさそうだし」

「う、うん」


 母さんは笑顔で紗幸を言いくるめる。ヨシノ家で絶対的な権力を持つ家長がそう言っている以上紗幸にそれを否定する権限はなかった。


「で、でも、お兄ちゃんの部屋にいるのは駄目だよ! やっちまうかもしれないよ!」

「ないからね?」


 ただ紗幸は最後の悪あがきをする。だけどこの点に関しては僕も同意見だった。バレた以上僕と同じ部屋にする必要はないし。


「本当に? ワイシャツ姿の金髪ロリにムラムラしないって言いきれる!?」


 僕はミヤタの姿を改めて見る。サイズが合っていないだぼだぼのワイシャツを着たミヤタは不思議そうに僕を見つめ返した。


「言い切れる、」


 僕はイメージする。


 自室のベッドの上には彼女の素肌に触れたワイシャツが脱ぎ捨てられていた。そして妄想の中の僕は無意識のうちに両手でそれを掴み、人が足を踏み入れてはならない森の奥深くにある泉に咲く白い花の様な甘美で芳醇な香りを全力でスーハーと嗅いで堪能してしまったのだ。


 ワーオ、グッドスメール! ごはんが進むね!


 ……じゃない、何馬鹿な想像をしているんだ。


「……………よ」

「すごい間があったけど?」


 紗幸は害虫を見る目で兄を見つめる。今のは、うん、本当にただの妄想だからね。


「とにかくないから。でも部屋を僕と別にするのは賛成かな」

「わたしは押入れでもいいけど」

「駄目よ、公園から連れて来た女の子を押入れに入れたらちょっとシャレにならないから」

「まず公園から連れて来る時点でアウトだけどね」


 遠慮をするミヤタだったけれど母さんはちょっと考え込んでからポン、と手を叩いた。どうやら妙案が浮かんだらしい。


「空き部屋もいくらかあるしそこで生活してもらいましょうか」

「空き部屋、って」


 それは僕が思っていても提案しなかったアイデアだった。母さんの口からその言葉を聞いた紗幸は何かを言いたそうだったが黙ってしまった。


 そして空き部屋に移動し早速ミヤタたちと一緒に部屋に入る。なんの変哲もない半分物置になってしまっているやや生活感のない部屋だ。


「ほへー」


 そんな部屋をミヤタとぶたにくは興味深そうに見渡す。ごちゃごちゃだけど自分の部屋になるわけだからね。


「今日からここがあなたの部屋よ。といってもまずは掃除をして荷物をどかさないといけないけど。ささ、ゆう君」

「あらほらさっさー」


 母さんに指示をされ僕は早速荷物の運び出し作業を始める。けれど紗幸は目をそらし何も言わずに立ち去ってしまった。


「?」


 ミヤタはどうして彼女がそのような行動をとったのか不思議そうな顔になったけれど、追及せずに段ボール箱を掴んだ。


「わたしもおてつだいするの!」

「無理しなくて、え?」


 幼女に力仕事をさせるわけには、と思ったけれど彼女は大きな段ボール箱を容易く持ち上げ何事もなく部屋の外に出た。僕は少しびっくりしたもののきっと中身は軽い荷物なのだろうと考え納得させる。


「あらまあ、力持ちなのね。ちょうどいい機会だし取りあえず一旦ゆう君の部屋に運んでいるものといらないものの仕分け作業をしましょうか。それでいいわよね?」

「まあいいけど」


 僕は感情を込めずにそう返事をする。この部屋をいつまでも物置にするのも忍びないし、いつかは不用品の片付けをしないといけなかったから。


 だからそのタイミングが来ただけだ。僕はそう考える事にした。


「えっさ、ほいさ!」

「ぷひ!」


 ミヤタはお手伝いをしている気持ちになったのかどこか張り切っていて、アホ毛を楽しく揺らしていた。


 僕は無駄口を叩かず粛々と作業を進める。


 作業中、姉さんが写っていた写真立てを見つけ一瞬だけ手が止まってしまったけれど、僕は何らかの感情を抱く前に無言で引き出しの中に隠したのだった。

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