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1-14 ロリコン疑惑と家族会議

 ――芳野幸信の視点から――


 右ヨシ、左ヨシ。うん、ブタはいないね。スーパーから出た僕は指をさし略奪者がいないか安全を確認する。


「さーて、それじゃあ行こうか」


 あとは家に帰るだけだ。昨日の埋め合わせも兼ねて今日は愛しの妹に飛び切り美味しい晩ごはんを作ってあげよう。


 自転車を押して真っ直ぐ帰路に就く。どこからともなく吹く磯の香りがする潮風を感じるだけで僕は穏やかな気持ちになってくる。


「わーい」

「にゃーん」


 僕の足元を何かと猫が駆けていった。その何かはキノコっぽい見た目だったけど、ここじゃあよくわからない何かはそのへんにいるし気にするだけ無駄か。


「ぼー」

「ちー」


 周囲を見渡すともふもふした人もいるし、白くてふわふわした人もちらほら見かける。川では頭に皿を乗せた緑色のペンギンっぽい生き物が泳いでいて、水辺では半魚人のような人が日向ぼっこをしていた。


 あれが何なのか僕にはわからないけれどそういう人だっているだろう。害があるわけじゃないし僕は周りの人と同じように特に気にしていなかった。


 岩巻は、今日も平和だった。



 僕はなんの警戒もせず玄関のドアを開けて自宅に入る。


 だけど家に入ってすぐ――とんでもない負のオーラを感じてしまった。


 たとえて言うのならホラー映画でオバケが出る直前のシーンだ。廊下がひどく長く感じられ照明も不自然に暗い。キュオオーン、というウォーターフォンの音色も聞こえてきたし。


 まあいっか、取りあえず冷蔵庫に買ったものを入れよう。だが僕が居間に向かうとギィ、とドアが開いて、


「お兄ちゃん……」


 と、ぬるりと青ざめた顔の妹のオバケが現れたのだ。僕じゃなかったら悲鳴を上げていただろうね。


「どうしたの、紗幸。人生が終わったような顔をして」

「お兄ちゃん……罪を償って。私、ずっと待ってるから」

「罪?」


 憔悴しきった紗幸は涙ながらにそう言った。ぶっちゃけ心当たりがあり過ぎるけど、一番可能性として考えられるのは現在居間のソファーに座ってぶたをもにゅもにゅしている金髪ロリに関係する事だろう。


「あちゃー、見つかった?」

「ごめんなさいなのー」

「ぷひー」


 ミヤタはアホ毛をしゅんとさせてぶたにくと一緒に申しわけなさそうな顔になってしまう。もちろん責めるつもりは毛頭ないけどさ。


「まあ最初からバレないように、ってのは無理があったし、説明を先延ばしにする事を選んだ僕のほうが悪かったから気にしないで」

「しょぼーん」


 ミヤタは何も悪くないんだけどなあ。仕方ない、紗幸にちゃんと説明するか。


「えーと、紗幸。まずは話を聞いてほしい。いろいろと事情があってね」

「事情って?」

「それはね、」


 泣きはらした妹にちゃんと説明しようと、そう言いかけた瞬間世界の時間が止まる。


 普通に説明しても面白くない。ここはボケるチャンスではないだろうか。


 だけど果たしてボケていいものだろうか。ここは人生のターニングポイント、もし失敗すれば家族の絆が崩壊してしまう。そこまでしてボケる理由があるのだろうか。


 その思考時間コンマ数秒。僕が出した答えは、


「そこに美味しそうな幼女がいたからつい持って帰っちゃったんだ! だから許してちょんまげ!」


 昭和の死語を使い躊躇なくボケる事だった。家族の絆? ボケは全てにおいて優先されるのだ。


「全力で性・犯・罪・者ッ! 漢気すら感じるロリコンだZEッ!」


 パニックになった紗幸はいつものようにキャラ崩壊をして愉快なリアクションをする。きっとミヤタもこの姿になった妹を見たのだろう。


「っていうのは冗談で。うーん、どう言ったものか……」


 ボケるのはこのくらいにしておこう。やっぱり家族は大事だからね。でも余計にややこしくなっちゃったからなあ。百パー僕の発言のせいだけど。


「あらあら、何だか不穏な会話が聞こえてきたけど気のせいかしら」


 だけどその時呑気な声をした新たな人物が居間に現れる。全員が彼女に視線を向けたので場の空気は一旦リセットされた。


「あ、母さん、ただいま」


 その人物はヨシノ家の家長、芳野幸子(さちこ)。大体わかるだろうけど僕たちの母親である。母さんはいつものようにのほほんとした笑顔でこの修羅場を楽しんでいるように見えた。


「聞いてよお母さん! お兄ちゃんがロリコンになったの!」

「がーん! こんな事ならもっと熟女モノのエロスに触れさせるべきだったわ! 私は母親失格ね! もっと息子と義母がヒィヤホウする作品を見せていれば!」


 母さんはわざとらしくショックを受けている。だけどそこには本気で悲しんでいる様子は全く感じられず妹と比べてまだ会話をする余地がありそうだ。


「いや息子に熟女モノを与える母親のほうがどうかと。というか子供の前で何言ってるの?」

「?」

「ぷいー?」


 ミヤタとぶたにくは意味が分からずぽかんとした表情を浮かべている。でもアホ毛がハテナマークになっているのは気のせいだろうか。


 この親にしてこの子あり。母さんもボケを理解している人間だ。いついかなる時も笑いを忘れないこの姿勢は見習いたいね。


 出会い頭にボケをぶっこんだところで母さんはクスリ、と笑みをこぼして言葉を続ける。


「うふふ、冗談よ。ちゃんと警察の人から話は聞いたから。事情は大体わかっているわ」

「あ、そうなの」


 なら良かった。説明の手間が省けたしこっちも楽が出来る。もっともうちの母親なら突然幼女を家に連れてしばらく家で預かる、ってなっても二つ返事で了承しそうだけどさ。


「警察!? そんな、もう捜査の魔の手が……!」

「魔の手という表現はどちらかというと犯罪者サイドだね」

「まずはさっちゃんに説明しましょうか」


 母さんの発言で妹はさらに混乱する。どちらにせよやっぱり説明をしないといけなかったみたいだ。むう、面倒くさいなあ。

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