1-12 優しい不良とサイコな優等生
さて、どこにしようか。ちょうど静かになったしここで食べようかな。そう思って階段に腰を下ろしてハムタマゴサンドを取り出すと左側に一人の少女が断りもなく座った。
「結構なお手前で」
「どういたしまして」
その少女、レイカはフフ、と不敵に笑うと同じく購買で買ったおにぎりを手に取る。僕は自分のハムタマゴサンドの袋を開けもひもひと食べ始めた。
「見てたのなら助けてくれたらよかったのに」
「手加減は苦手なのよ。それにヨシノの貴重な戦いぶりを見たかったし」
「一応真面目キャラだからね、僕は」
安っぽい三角のハムタマゴサンドはそんなに美味しいものでもない。ただ腹を満たすためだけに僕はそれを胃袋に詰め込んだ。
「ニュースとかで見る普段は大人しくて真面目だったのにあんな事件を起こすなんて、っていう人はあんたみたいな奴なのかしら」
「はは、かもね。そうならないように頑張るよ」
「もし事件を起こしたらいつかやると思ってました、って言ってあげるわ」
先ほどまでの殺気を僕は隠し物騒な談笑が始まる。何事もなかったかのように。
レイカと僕。どちらが危険かと言われれば僕の本質を知っている人間は間違いなくヨシノのほうだと答えるだろう。自分でもサイコパスに分類されるタイプだという自覚はあるよ。
「で、今のは本気だったの?」
「そんなわけないじゃん。喧嘩なんてしても疲れるだけだし、捕まるし賠償金もあるし割に合わないって」
その反論もどこかずれている。だけどレイカはそれを指摘しなかった。
穏やかな昼休み。遠くで賑やかな喧騒が聞こえる。二人ぼっちのお昼ご飯だったけどその時間はそれなりに満ち足りていた。
ヤンキーとサイコパスという似た者同士惹かれ合うものがあったのかもしれない。僕はあんまり人付き合いが良くないけれどレイカだけは例外だった。
それはただ単に失ってしまった僕の友人に重ね合わせていただけなのかもしれない。彼は死んではいないけど仲直りするのはもう無理だろうな。ついでに言えばもう一人の紫のほうもさ……。
「はふぅ」
「寝不足?」
食事の途中、レイカは眠たそうにあくびをしたのでそれを指摘すると彼女は笑ってこう答えた。
「ちょっとバイクで遠出をしていてね。徹夜なのよ」
「ふーん」
盗んだバイクで夜の校舎の窓ガラスを叩き割ったの、と言おうとしたけれど僕は思いとどまった。怒られそうだし。
「ま、あんたはちゃんと最低限の理性があるから大丈夫か。でも近所の公園で幼女を誘拐して監禁したりしないでね?」
「ゲホ、ギクギクギク」
笑いながらレイカが言ったその発言に僕は思わずむせてしまった。心当たりがあり過ぎたからね!
「え、まさかもうやっちまったの?」
「やっちまってない事はなくなくなくなーい」
「何かそんな芸人がいたというか、これから現れて賞レースで物議をかもす事になる気がするけどどっちなの?」
「ヤッチマッテナイヨー?」
彼女は訝し気な顔をしていたけれど僕は滅茶苦茶目をそらしてそう答える。変な噂が立つのも嫌だしここは全力でシラを切らなければ。
でも大丈夫だよね? ミヤタも上手くやってくれるといいんだけど。