11-70 互いを理解した同じ痛みを知る者たち
……………。
………。
…。
そしてゲスミの記憶を垣間見た僕らは現実世界に帰還し、紗幸はどうしようもない虚脱感を抱いてしまった。
「ね、ねえ、お兄ちゃん。今のって」
「記憶が再生された原理はわからないけど、多分ゲスミの記憶だろうね」
「そう、だよね」
全てを知ってしまった紗幸は茫然自失としていた。どうやらあれがゲスミが紗幸を虐めのターゲットにした理由だったらしい。
もちろん紗幸が直接何かをしたわけじゃない。強いて言えば虐められていたゲスミを見て見ぬふりをしたくらいだけどそれだけなら他の人物でも該当する。
なんであいつが生きてるの――両者の運命を決定づけたのは間違いなくかつて絶望の中にいた紗幸が僕に対して浴びせ、ゲスミが自分を殺そうとした母から告げられた言葉だった。
逆恨みと言えばそれまでだけどやはりそう簡単に割り切れるわけなんてない。紗幸は『あの日』自分が犯した罪をようやく自覚しひどく震えていたんだ。
「う、ぐう……」
「ゲスミっ」
「弓削さん!」
動揺したのも束の間、ゲスミは意識を取り戻し苦しそうにうめき声をあげた。
「その名前で呼ぶんじゃねぇ……」
「よかった……」
ゲスミが真っ先にした事はその仇名に対しクレームを入れる事だった。紗幸はあれほどまでに彼女の事が憎かったはずなのに、まず息を吹き返した事に安堵してしまう。
「フミちゃんはッ! うぐっ」
意識を取り戻した彼女はすぐにハッとなり友人の姿を隻眼で確認する。しかしわずかに動くだけでも激痛が走るのだろう、彼女はわき腹を抑えて苦悶の声を上げてしまった。
「無茶しないで! 怪我してるんだから!」
「フミちゃんは無事なのか!?」
ゲスミは心配する紗幸を無視しまずそう尋ねた。泣き言をいうでもなく、ただ友人の安否だけを気にかけていたんだ。
「あの後出て行ったフミを追いかけて学校で会って追い返されたよ。動いてなければ今も学校にいるんじゃないかな」
「馬鹿、何で一人にしたんだッ!」
「その理由の半分は君が一番よく知っているはずじゃない?」
「……確かにな。そりゃそうだ」
殺人鬼がうろつく中、僕がフミを学校に一人残した事をゲスミは糾弾するけどすぐに自分がその原因となった事に気付き落ち込んでしまう。一応責任転嫁をしない所は評価しておこうかな。
「行ってくる」
「え!? い、いやいや無理だって!」
ゲスミはすぐに真剣な顔つきになりベッドから立ち上がった。しかし誰が見ても彼女が戦う事はおろかまともに動く事も出来ない事は明らかだったので、紗幸は慌てて考え直すように説得した。
「るせぇッ! ここで逃げたら私は本当にゲス野郎になるんだッ! 私はこんな自分を受け入れてくれた皆を助けたいんだよッ!」
「フミはそう思っていなかったみたいだけど」
「だからどうしたっていうんだッ! 私はたとえ憎まれていたとしても一方的に気持ちを押し付けてやるッ! 私が邪険にしても見捨てずに先におせっかいを焼いたのはあいつらだッ! こちとらこんなゲス野郎と友達になってくれてクソほど感謝してるんだよッ!」
「弓削さん……」
ゲスミの息も絶え絶えな様子で力の限り叫ぶ。そこにいたのは小悪党のゲスキャラではなく、ただ一心に友達の事を想う強い意志を持った人間だったんだ。
「泣かせるねぇ」
「サク」
「私もいるよん」
大声で彼女が目覚めた事に気が付いたのだろう、サクタロウは金属バットを、カヤはシャベルを持って部屋の中に入ってきた。最初は何でこんなものを持っているんだろうと思ってしまったけど、僕はすぐに彼らが何をしようとしているのかを理解する。
「よっしゃ、ここは友達の仲直りのために一肌脱ぎますか!」
「軽トラを用意している。いつでも行けるぞ」
サクタロウたちもまた戦う事を選んだのだ。死の恐怖に抗い、惨劇を終わらせるために。たとえその先に未来が存在しなくても――そんな事は友を助けるという大義名分の前には些細な問題だったのだ。
「いいのかい?」
「なぁに、どの道無茶して死んでもこの世界ならやり直しは聞く。人間いつかは死ぬんだ。いや――いきなり心構えも出来ずその時が来る事だってある。ならその時に後悔しない様酔狂に生きてナンボだろ」
「……確かにそうだね」
人間はいつか死ぬ。そしてその時はいつ訪れるかわからない。僕たちはそれを嫌という程理解していたからそれ以上その事について議論する事はなかった。
「頼む、サク、カヤちゃん」
「おう」
「任せて!」
ゲスミたちは気持ちを一つにし、因縁に終止符を打つため決断をする。僕もまた紗幸に目配せすると彼女もコクリと頷いたんだ。
「お兄ちゃん、私も戦うよ」
「そっか。じゃ僕も」
「え? そりゃ助かるけど……なんで」
紗幸はゲスミのために戦う事を決意した。その事実が彼女は信じられなかったらしくゲスミは目を丸くして驚いてしまう。
「私は償わなくちゃいけないから。だから戦わせて、弓削さん」
ゲスミに関する真実を知ってしまった今、紗幸に見て見ぬふりをするという選択肢は存在しなかった。向こうがどれくらいその意味を理解しているのかはわからないけれど。
「……ああ、頼む!」
「うん!」
葛藤はあった様だけど友を助けるために手段を選んではいられなかったゲスミはその申し出を受け入れ、紗幸も戦友に向けるような頼もしい表情になったんだ。
さあ、これで後はフミを助けるだけだね。




