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ウィザー・ブラックウォーターは加わる③

終わると行ったのに、嘘つきになってしまいました。

戦闘描写って難しいですね。長く時間も掛かったので、一旦投稿します。

荷馬車の馬に鞭を入れ、急発進させながらミュラーは口角が上がるのを必死に抑え込んだ。


(タイミングは上々、慣れた盗賊、並の騎士隊というところか)


攻撃を仕掛けてくるのは、わかっていた。問題はいつ来るかというところだ。


ミュラーは、こと兵士の練成に掛けては一家言ある。

なにしろ女王シャルロッテ麾下の獅子王騎士団も元々は自ら手がけた兵たちだ。

長年に渡る隠遁生活の中でも似たようなことを続けてきた。


わかりやすく荒れた街道は、荷馬車には不向きだ。さらに言えば、この先には修復されていない大穴があることは、すでに知っている。


だから、仕掛けてくるならここだろう、考えていた。


だが、それでは奴等の力を推し測ることは、できない。だからこそ、わかりやすい隙を何度も見せた。


前を行くジュードと距離を開けたり、休憩で荷馬車から離れてみたり、わかりやすいチャンスは何度もあったが、ピクリとも反応をしなかった。


機を待てるというのが、ミュラーにとって重要なところだ。


「良い、なかなかに良いぞ」

思わず言葉がこぼれ落ちる、その間にも荷馬車はスピードを上げ、草や木々が一筋の線のように流れていく。


少なくとも奴等は、自らを律する理性があり、統率者の命を守る知性があり、そしてそれだけの信頼に足る統率者がいることがわかった。


「た、楽しそうね、ミュ、ミュラー!きゃあああ!」


隣で悲鳴が響き、手綱を握る腕に女の柔らかい感触が追加される。


「はっはー、楽しいかだと?楽しいに決まっているだろう!フラン!」


隣では、我が妻フランが青い顔を引き攣らせ、自分の腕に必死にしがみついていた。それでも構わずにぐんぐんとスピードをあげていく。


馬車の駆ける音は、調子の良いガタガタ音からまるで地鳴りのような音に変わりながらも進んでいく。


仕掛けてくるならここだ。

上げすぎたスピード。眼前に迫る大穴。間に合わない制動。車輪を取られた荷馬車ゆっくりと傾きながらも進むが、そこにダメ押しとばかりに石の礫が荷馬車の側面を押しこむように衝突する。


また、魔法か。本当に全員魔法適正を持っているのか、最初にその話を聞いた時はにわかに信じがたいが、すでに十重に二十重へと魔法に晒されているのだから信じるほかない。


「フラン!飛び降りるぞ!」

相変わらず青い顔で腕にしがみ付くフランに最後通牒のように告げる。


「えぇ!ムリムリムリムリーーー!きゃあああああ!」


絶叫と衝撃。

腕にしがみ付くフランを抱え込むと、庇うようにして荷馬車を飛び降りる。

身体強化を行えば、難無く着地することは分けないが、ただの御者が魔法を使えば、警戒を誘うことになる。ここはまだ我慢だ。


腕の中に居るフランを潰さないように抱きしめ、肩口から地面に叩きつけられる。無様な横回転、巻き上がる土と千切れる草の青い香り、まだ幼い頃に、フランを庇って、落馬し、空を仰ぎ見た時のことがわずかばかりに脳裏によぎった。その時も彼女はこうして腕の中に居たな。

「ありがとう。ミュラー、大丈夫?」

こちら案ずるような視線を向けるフランに、抱きしめながら笑って応える。

あの時から今まで、自分の心はずっと彼女の虜だ。愛おしい気持ちが溢れてしまう。

「当然だ。今すぐキスしてやりたいくらいにな」

「なんで!?」と彼女は顔を赤くしながらそう応えてくれた。


抱きしめたフランの手入れの行き届いた髪を撫でながらその向こう側で、木から、薮から、森から、ゾロゾロと襲撃者が姿を見せてきていた。


皆一様に、身につけているものも統一感はなく、それぞれの手には各々が使いやすいのであろう得物が握られている。比較的若い印象の者が多いが、性別や年齢にもあまりまとまりは無い。ただ全員が一様に体をバラバラにした後につなぎ直したような傷跡を持っていた。


その中で特に年かさらしい長身の男が、ニヤニヤと盗賊らしい下卑た笑いを浮かべながら近づいてきた。

「げへへへ、事故ですかぁ?お手伝いしましょうかぁ?」

長身の男がそういうと、四方から「ひひひ」「げひゃひゃ」と気味の悪い忍び笑いが響く。


フランを立ち上がらせ、自分も服についた砂埃を軽く払う。


落ちたモノクルをかけ直し、フランを自分の背に隠しながら小声で問いかける「ヤツか?」と聞くと、フランは「違う。ウィザーじゃない」そして重ねて「彼女もここには居ない」と答えが来る。

どうやらここに居るのはお目当てのちょうど半分らしいが、彼女もこちら側にいてくれたら、少しだけ楽だったかもしれない。


「フラン、ここは良い。ジュードのところへ行け」

フランにそう声を掛けると、うなづいて彼女は走り出した。


「げへへ、そう簡単には、にがさねぇぜ〜」


先頭の長身の男が下卑た笑みを浮かべると手振りで何かを合図する。想定の範囲だったのだろう、盗賊達がフランの行く手を阻むように動きだし、瞬間、拳に力と指先に魔力を込め、弾くようにして打ち出した。


打ち出された3発の風の弾は、あちらこちらへ盗賊達の間を、縫って飛び回るとフランにちょうど追いつけそうな3人をほぼ同時に昏倒させた。ほぼというのは、1人は小賢しくも魔法障壁で防御したが、障壁は撃ち抜かれてから動きを止めていた。


「ほう、アレに対応するとは、中々だ」


ミュラーは、彼らに対する戦力評価を更に上方に修正することにした。

◇◇◇◇


アトンは、目の前に居る御者の突然の攻撃に魔法が使われたことには驚かなかった。なぜならあの英雄の御者なのだ、魔法くらいは使える可能性はあるだろうとふんでいた。


(こいつ、風使いか・・・)

風属性の魔法は攻守のバランスは良いものの、決め手に掛けるところがある、とそう教わっていた。

実際に仲間内で一番の風使いのロモロは、相手を気絶させられるような魔法を使うときは、人の頭くらいの大きさにしないと威力が出ない上に、それも一発が限界だと言っていた。


しかし、執事のような仕立てのいい服を着た黒髪の男は、拳一つ分くらいの大きさの空気の塊を作ると、それを3つに分けて放ってみせた。しかもあんな複雑な軌道を描いた上、ロモロの魔法障壁までも打ち破ったのだ。


こいつはヤバい、直感でそう感じていた。


次は、1週間後を目安に投稿します。

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