ウィザー・ブラックウォーターは加わる②
あけましておめでとうございます。
年明けは色々と時間が少なく、時間が掛かってしまいました。
少し慌てて書いているところもあるので、もしかしたら後ほど訂正をするかもしれません。
ウィザーは、かつて存在したメキア皇国の騎士だった。
メキア皇国は、ギルヌベリア王国とは古い盟友であったが、電撃的な奇襲を伴う宣戦布告で初戦で、王族のひとりを討ち取るもその反撃により最終的に国は滅びた。メキア皇国の暴挙と言える行動の裏には、以前から強大な帝国の暗躍があり、帝国の支援を秘密裏に受ける帝国派と皇国としての立場を堅守する皇国派が長い政争の末、皇国派の重鎮であった自分の師を含めその大半が反逆の罪で処刑された。
ウィザーは師の手引きで国外へ逃亡して難を逃れたが、その時からすでに10年近くが経っていた。
それこそ脱出した後は、ギルヌベリアに仕官する道もあっただろう、メキア皇国では、それなりに名を馳せていた時期もある。剣の腕も、魔法の技術も、自惚れかもしれないが、かの第三王子と比肩されるほどであった。
しかし、そうしなかったのは、彼らが居たからだ。
アトン、フィオナ、ロモロ、マッテオの4人の子どもたち・・・。
どこからか逃げ出してきた彼らを追ってきたチンピラを撃退した時からウィザーと子どもたちとの逃亡生活の始まりだった。
最初は、チンピラに毛が生えた連中だったのが、徐々に裏から表から次々と刺客が送り込まれるようになった時からウィザーは、何か大きな陰謀に巻き込まれたことを自覚した。その原因が、保護をした子どもたちにあることも。
彼らは4人とも魔法適性を持っていた。
この世界で魔法適性を持つ者は、その貴賤に関わらず、優遇されるものだ。間違っても、街で濡れネズミのようになることはない。
しかし、同時に彼らの体には、全身をなます切りにされたような見るも無残な傷があり、本人たちも気づいた時にはそのような傷があり、魔法を使えるようになったと言うのだ。その話を聞いた時、ウィザーは無意識に奥歯を強く嚙み締めていた。
それが彼らの体にどのような影響を与えているのか、ウィザーには見当も付かないが、どこかで何者かが、度し難い何かを行っていることだけはわかった。
ウィザーは、自分の持つ技術を、彼にそれを与えてくれた師と同じように、4人に惜しみなく与えた。彼らがたった一人となっても生き残れるようにと。
しかし、一つの誤算は、彼らと同じ境遇の子どもたちが彼らだけではなかった、ということだった。そして、子どもたちが同じ境遇の子どもたちを保護していき、成長をした4人を中心に、どんどんと大所帯となっていってしまった結果・・・。
この状況が生まれてしまっていた。
◇◇◇◇
「先生」
子どもたちに、仕事の前の装具の点検を指示した後に、そう声を掛けられる。
ウィザーは、子どもたちから「お頭」「兄貴」「ウィザーさん」などと呼ばれるが、自分のことを先生、とそう呼ぶのは一人しかいなかった。
彼女は、深いフードを被り、うつむきがちなため、その表情を伺い知ることはできないが、今日は珍しく新緑色の瞳をこちらにはっきりと向けていた。
「どうした、フィオナ」そう聞き返す。
フィオナは、他の子どもたちと同じような切り傷の他に、火傷の痕がその体の広範囲に渡って残っている。なんでも彼女の母親が生まれたばかりのフィオナに熱したナイフで少しづつ付けられたという話だが、その話をする彼女は、なぜか少し嬉しそうな、しかし悲しそうな表情をしていたことに何か複雑な事情があるのだと、察するしかなかったことを覚えている。
自分に声を掛けたフィオナは、すぐに話を始めることはせずに少し周囲の様子を伺いながら、その手をギュッと握り直すと、何か伝えようと口を開きかけたが、思いとどまったようにフードを目深にかぶり直すと、「なんでもない」と走り去っていった。
フィオナは、最初の4人の中で一番幼かったが、特に優秀な教え子だった。だからこそ、自分たちが今からやろうとしていることに不安が大きい一方で、これしかないということを理解しているのだろう。ウィザーも同じ気持ちだが、時間だけは刻一刻と減っていってしまう。
「来たぞ、領主たちだ!」斥候に出ていた何人かが、戻ると同時に声を挙げる。それは押し殺したような声音だが、想像以上に響き、子どもたちはお互いに見合うと、自然とウィザーへその視線を集めた。
「全員、所定の位置に付け!」
ウィザーは、自分の気持ちが伝わらないように、短く指示を出す、その声が届くと子どもたちは変わらぬ様子でそれぞれの位置に移動をしていった。
もう引き返すことはできないのだ。
◇◇◇◇
ダクルレスの町を出発してから、自分たちを見つめる誰かの視線に、ジュードは早々に気づいていた。
それはこちらを見るというよりも、野生の生き物が様子を伺うような静かな波のような気配だが、時折その波の中に隠しきれない鮮烈さが混ざっていた。
そしてその波は、入れ替わっては、違うところから頭を出してくるような、それなりの巧妙な気配の殺し方をしていた。
(なかなかに器用だ)
未だに視線の持ち主の素性は明らかになっていない。
ジュードは、馬上から周囲を探ろうと力を込めたところで、こつんと後頭部に何かがあたった。
後ろを振り向くと、荷馬車に跨ったご夫婦、スチュ・・・ミュラー殿とフランシスカ殿がその手になぜか、どこで拾ったのかわからない木の実を持って、
こちらをジットリと睨み。口の形だけで、ヤ・メ・ロ、と伝えてきた。
本当なら気づいた時点で、制圧し、その目的や他の仲間の在処を洗いざらい吐かせることもできるが。
それは、二人が望むところではないと心得ていた。二人曰く、まだ敵でも味方でもない、だから出方を見る、ということらしい。
クラレント領の町オルフクまでは、日暮れまでには到着する予定だ。この道中のどこかで、きっと何かが起きることを、確信していた。
想像以上に長くなってしまいましたが、次に③を投稿したら次の話に行きます。