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トリシア・ミゼラルはそして・・・。

3話です。

ちょっと予定より早いですが、投稿します。

自分が転生者と気づいてから、15年の月日が流れた。


スチュアート王子とその婚約者トリシアが王国の歴史から消え、ゲームの公式のとおり()()()()()になって、すでに4年近い時間が流れていた。


王都から届いた手紙には、隣国であるメキア皇国の突然侵攻により討ち死にした第三王子とその後を追い自死した悲劇の令嬢の悲恋、そこから始まる()()()()()()()()の英雄譚をモチーフにした時代活劇が流行っているそうだ。

特に評判の良い一座は、王国国内で巡業をするらしく、1年後には、この西の果ての地にもやってくるだろう、ということだった。


この手紙を読んだ本人の内の一人である()()()()()()は、その一座が来た時にはこの俺が主役をやってやろう!と豪語し、当然お前を一緒だぞ、()()()()などと言っていたが、そこらへんの俳優よりも遥かに整った顔をしているのだから、本当に自重してほしい。


この4年間はギルヌベリア王国の歴史の中で最も激動と言える時代となったことだろう。


遠くの大国ミッドドルガ帝国の暗躍に端を発する第二王子の謀反や汚職を行う王侯貴族たちの一斉粛清、蝗害による大飢饉の阻止、未知の病気の蔓延の防止など、この先で起こりえたであろう未曾有の危機を全て凝縮したような4年間だった。


もちろん事態の解決に向け、私やミュラーも死んだ身の上ながらも尽力をしたが、そのほとんどを解決したのは、王女シャルロッテだった。


シャルロッテはご想像のとおり、“ぼくキミ”の主人公だ。

元々ゲームの中でも一週目からハーレムエンドにできちゃうようなスーパーな性能を持っていたキャラクターだが、まさか私の先取り教育の賜物で、更にハイパーな性能を持つチートなキャラになるとは思いも寄らなかった。そして、もう一人・・・。


コツンとビチンのちょうど中間のような音と衝撃がおでこに走る。

「アダ!?」

ヒリヒリジンジンと痛みが増してくるおでこをさすりながら起き上がると、ベッドサイドからこちらを南国の海のような鮮やかな青い瞳をぎりっと睨め付けさせながら、きっちりとした執事服に身を包み、不自然に真っ黒い髪の毛を左右に撫でつけた男性が見下ろしていた。

「おい、起きろ。フランシスカ、朝だぞ」

仏頂面を更にうんざりさせたようにミュラーは告げる。


「嘘。外を見てみなさいよ。朝の気配もないじゃない」

窓の向こうは空も白んでもおらず、むしろ未だに煌々と光る星空が拡がり月まで出ている。

これを朝というのは、ついにアレか!アレになったのだろうか!私の夫は!


「仕方ないだろう。我が家の主人が目覚めたようなのだ。それが朝の合図だ」

思わず頭を抱える。あれだけ口を酸っぱくして言い聞かせたのに、ダメだったか。

使用人根性というか、もうあの頃とは立場が違うのだからいい加減に慣れてほしいところだ。


身体を起き上がらせると、急いで身支度に取り掛かる、下着を付け、服を脱いだり着たりと色々とするが、隣で平然とミュラーは自分の支度の続きに戻っている。あれ?「ちょっと・・・あっち向いてよ」とか「そんな恰好で俺の前をウロウロするな」と顔を赤面させあって、甘酸っぱい頃もあったような気がするが、時間とは恐ろしい、慣れって怖い。


最後に手早くおしろいを軽くはたき、化粧を済ませると、黒を基調とした品の良いワンピースに、真っ白なエプロンドレス、まとめ上げた髪を飾る白いヘッドドレス仕上げに乗せれば、どこからどうみてもメイドな私の完成だ。姿見で全身を確認する時に思わずクルッと回転する形になってしまった。

さすがにこの年齢でクルッと一回転は無いか、と思い、チラッとミュラーの様子を伺うと、割と刺さったような顔をしていたので、まだ新婚って言っていいかも、と少しだけ思い直した。


夫婦として与えられた部屋を出ると魔法灯がぼんやりと照らす廊下を進んでいく。

「今日は屋敷を出る前に捕まえるぞ」

ミュラーはギラリと瞳を狩人のように煌めかせるとズンズンと歩き出した。


時間は夜半過ぎ、普通なら次の日調理の仕込みを終えた料理人たちが寝静まり屋敷全体が休んでいる頃合いだ。もちろんこの家には、まだ料理人は居ない、むしろ私とミュラー以外の使用人というのがそもそもまだ居ないのだ。

「全く、明日から新しい使用人たちが来るというのに、これでは困るな」

この地にやってきてから数か月、()()()()()()()()()()()。これでこの広い屋敷を一人で寂しく掃除をする苦行から解放される。ちなみに掃除そのものは大したことはない、ただ一人でずっとというのが寂しいのだ。そして、貴族の屋敷とはその主人や家族の生活リズムに合わせて、使用人たちの動きも決まってくる。社交パーティが好きな主人の家では、当然遅い時間まで、その対応をすることになる。


では、早起きな主人ではどうなるだろうか。当然、使用人が主人より遅く起きることはあってはならない。主人が目を覚ましたと思ったら、飛び起き、何食わぬ顔でこう言わないといけないのだ。


「「おはようございます。旦那様」」


もちろん、とびっきりの笑顔を添えて。


「ひぃっ・・・」


私とミュラーがたどり着いたのは、屋敷の裏側にある炊事場だった。

ここには、表から出入りをしない使用人たちが使用する勝手口があった。そこから外に出ようとドアノブに手を掛けた彼をタッチの差で捕まえることができた。

彼は、自信なさげに少し丸まった背とクシャッとした癖のある髪の毛、印象としては書庫で静かに本を読んでいる文学青年といった方がしっくりくるほどの線が細く、そして、その手に似合わないほどの武骨な手斧がなんだがアンバランスな気もしてしまう。


彼の名前は、ジュード・ミュゼレム・クラレント卿。男爵の位と女王シャルロッテと同じようなハイパーチートを持つ、私の元“付き人”で、私たちの旦那様であった。

ついに主人公が・・・次から物語を進めていきたいと思います!


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