トリシア・ミゼラルは生き残りたい
2話目です。
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異世界転生は、私も好きなジャンルですが、人気あるんですね。
少しでも面白いお話をお届けできるように頑張ります。
あまりに一瞬過ぎて、私じゃなかったなら見逃しちゃうところだったね。
「お前を俺の婚約者にする!」
高らかにそう宣言した声やその後の動きは、「口うるさい後見人が勝手に場を設けたから仕方なく選びました」感が満載だ。
でも実際は彼、スチュアートは、最初からトリシアしか見ていなかった。
そして、彼の頬はうっすらと赤く上気していたのを私は見逃さない。
根っからのチュートリアル夫婦ファンの私じゃなけれ気付けないちょっとした変化だ。
チュートリアル夫婦というのは、トリシアがスチュアートをスチュー、スチュアートがトリシアをリアと、お互いをそう呼び合うことと、ゲームの中で、二人が主人公のお世話をするという体のチュートリアル、いわゆるプロローグで活躍することからファンが付けたあだ名だ。
そして、前世の記憶が正しければ、回廊を抜ける数秒間の内に、スチュアートは庭に集まる令嬢たちの中から美しく艶やかな栗色の髪を持つ少女を目ざとく見つけて、初恋の気持ちを滾らせた上で平静を保ち、わざわざ自分が立った場所からパッと目につくところに彼女が立っているようなポジションを選んでいるのだ。
まるで、その場でテキトーに選びました感を出したかったのは、照れちゃうから。
いくら神童、早熟と言われても所詮8歳の男子。
好きな子を正面から好き、と言えないで、うっかりいじめちゃったりするのと同じ感じなのだ。
でもそこで才能の無駄遣いで、俺の嫁にしちゃうあたりの強引さが、俺様王子っぽくて・・・好き。
このエピソードは、もちろんゲーム本編ではなくて、後にリリースされた公式ガイドブックに載った短編の小説が出典になる。
スチュアートはこの幼さから来る幼稚な行動が、実はトリシアを傷つけたのでは、と散々悩んだ挙句、勇気を出して「お前こそが、この王たる俺に相応しい女だから選んだのだ」と俺様なセリフで再び愛を告げるのに対し、トリシアはいつもの余裕な笑顔で「知ってますよ」と返すのが、二人がお互いを思い合う感じが出ていて、堪らなく萌えたのが忘れられない。
ただ、この幸せそうな二人がこの後死んじゃうんだよねー、っていうのが、やっぱりこのゲームらしさというか、公式め!となる所以であったりする。
そう公式。
このゲーム「僕の全てを君に」通称“ぼくキミ”の世界は正直選べるなら転生をしたい世界ではない。
なぜなら、お先真っ暗な未来が待っているのが、わかっているから。
「他国の戦争の影響で長い戦乱の世になる」だの「子宝に恵まれず国が乱れた」だの「大飢饉で国が傾いた」だの、主人公と攻略対象が結ばれた!キャッキャうふふ。した後にポソッとこんな情報が差し込まれるのだから、やってられるか!
いいじゃん!平和で!
いいじゃん!子沢山で!
ええやん!腹いっぱい食ったら!
あんなに頑張ったんやから、幸せに過ごさせてやってや!
と、ファンなら誰しもそう唸り、その後に「公式め!」となるのだ。
そして、ゲームの中で、スチュアートとトリシアの二人は、主人公の家族として、王族の心得や淑女の嗜み、果てには戦闘教練や戦術指導を施して、主人公を一人前の王族に、そして淑女に育て上げ、その後に、スチューは、隣国の電撃的な侵攻で討ち死にし、リアも後を追って自死してしまうのだ。
物語的には、主人公がこれをきっかけに、偉大な兄の志を受け継ぎ、優しい姉の悲しい思いを繰り返させない、という強い決意をして、本当の物語が始まっていくわけで、二人の死には意味があるわけですが!
いざ、私ことトリシアが、ショタなスチューの姿を見て、ほぼイキかけた上に、前世の記憶が蘇って、自分が近い将来に逝くことに気づいて、何とかしないと!! !!ってなるのはしょうがないですよねー。
次回は、ついに(?)主人公さんの登場です。
更新は次の週末(18日か、19日)を予定しています。
作業の流れが、週前半にプロット、週後半に書き上げ、投稿の流れです。
また次の週末をお待ちいただければ幸いです。