トリシア・ミゼラルは婚約する
始めての投稿です。
一区切りが付くまでは、更新を続けたい・・・!
感想をいただける程、続けられるかは不明ですが、少しづつ頑張ります。
私の名前は、トリシア・ミゼラル。
ミゼラル侯爵家の令嬢にして、このギルヌベリア王国の第三王子スチュアート・グレイスノート・ギルヌベリア殿下の婚約者を務めていた。
王族の婚約者というのは貴族にとって最高の栄誉であり、同時に、困りごとの種でもある。
例えば、王族の男児と同じ時期に娘が生まれたのに、その娘があまり愛想が良くないとか、何を間違ってか、その娘が婚約者に選ばれるも宮廷の王座を巡る争いに片足を突っ込んだことを嘆いてみたりと、まあ様々である。
婚約者を決めていくには、最初に王子と同じ年頃の令嬢が集められ、お茶会や晩餐会などを通じて人柄や相性を見極めながら決まってくのがこの国での一般的な流れであった。まあ、ある意味、政略結婚的で、えいやで押し付けられるよりも、多少は未来の王族の良好な家庭環境に向けた一定の配慮とは言えるだろう。
そんな感じで婚約者に選ばれたのが、当時8歳だった私だ。
その当時からすでに私は、にこりともしない無愛想な令嬢だった。
ちなみに無愛想と言ってもおべっかを使ったり、お世辞を言ったり、そういうことが嫌いであっただけで、本当に楽しければ笑うし辛ければ泣きもする普通の子どもだった。
ただ頑固な子どもなのは、間違いなく。こうなったのも、「せっかく可愛いお顔が台無し」だの「笑顔になれれば、一番」と笑顔の練習を無理やりさせようとする周りの大人への反発でもあった。
ある日、私の父、ミゼラル侯爵の元に一通のお茶会の招待状が届いた。
豪奢な装丁の手紙は、お友達からの「あーそーぼー」代わりの招待状とは別格の雰囲気を醸しており、子供ながらに、何かが始まろうとしていることはわかった。
それから、週3のマナーのお稽古がお茶会特化になり、素敵な挨拶の仕方や所作の訓練が始まり、お茶会当日にそのためだけに仕立てた特別なドレスも設えられた。
そしてお茶会当日は、いつもはメイド長のカリーか、執事のミュラーが随伴するところをわざわざお父様が付いてきて向かった先はステキなお庭のパーティ会場だった。
穏やかな春の日差しとそこに咲く色とりどりの花々。そこに集まる花の妖精のような少女たち、遠くから見ると、まるでお人形さんたちのティーパーティのようで心躍るが、中に踏む込めば、笑顔の向こうでギラギラと燃え上がる小さな女たちの戦場でしかなかった。
わざとらしい衝突や足の踏みあいもなんのその。始まる前からお茶をうっかり掛けられた少女は泣きそうになりながらもお付きの侍従たちが少しでもマシに戻されてから、会場に戻っていく様は、まるで気絶した新兵に水をぶっかけて練兵場に戻していくよう凄惨な光景だった。
私?私はぶっきらぼうな返事やニコリともしてみせないため「こいつは潰さなくても大丈夫だわ」とあまり標的にはならなかった。せっかくのドレスが汚れないでホント―に良かった!
そんな妖精たちが一瞬ざわめくと、少女たちが待ちわびた王子様がやってくる。
金色の輝くような髪に、南国の海のように鮮やかな青色の瞳、まるで絵本に出てくるような白い馬が似合いそうな正真正銘の王子様だった。
でも、その王子様は全てを虜にするような笑顔ではなく、何かにイラつくような荒々しい雰囲気を纏い、彼の後ろを這う這うの体で縋る中年の男性を振り切るような早さで回廊を抜けパーティ会場に降り立った。
美しい王子は、猛獣のような表情で、集まった少女たちを睥睨すると、先ほどまでギラギラと牽制しあっていた少女たちもビクッと肩を震わせる。
首を見回すようにぐるりと回す途中で、青い瞳とピタリと合ってしまった。王子はスッと目を細めると、ツカツカと、私の前まで来て、ピシりとこちらを指差し。
「お前を俺の婚約者にする!」
傲岸不遜を体現するような台詞を高らかに宣言した後は、「これで良いな!ヘンドリクス!」とまた元来た道を風のように戻っていってしまった。
ヘンドリクス、と呼ばれた中年の男性は「王子!お待ちください!王子!」とまた彼の後を縋るように追いかけていき、残されたのは、この日のために念入りな準備と最高の笑顔の練習を重ねてきた少女たち曇ったような泣き顔と婚約者に選ばれたというのにニコリともしない私だけだったのだ。
少女のすすり泣く声が穏やかに響き、このまま解散するのか、それとも心労を癒すためお茶のいっぱいでも飲んだ方がよいのか、どう動くべきなのかを、誰もが失っていたところで、
「よ、良かったな。王子の婚約者になれて・・・」
と一歩遅れて、お父様が私の声を掛けるも、それが原因で、また周りの何人かが泣き出してしまった。そういうところだぞ、父。
その時、心の中で今までにない物がもぞもぞと動き出して、それが大きく膨らんで弾けると
(うわぁ〜、スチューってば、リアのこと、超愛しとるやん)
と久方振りのお国の言葉で呟きながら、浮上してしまうくらいテンアゲして、私トリシア・ミゼラル侯爵令嬢は、異世界から転生をした事実に初めて気づいたのだった。
転生者=主人公ではないお話です。
主人公が登場するのは、ちょっと先・・・。いや大分先?