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魔神の受肉~悪魔が下界で貴族令嬢に擬態します~  作者: 烏兎徒然
一章 カルローネ家の令嬢
15/25

悪魔のお茶会 後編


●   ○   ●    ○


大陸全体が戦乱の時代、アンベリーナという女性が思想を持ってして人々を纏め上げたのがアンヘル教の起こりである。

口伝で大陸中に物凄い勢いで伝播したため《アンベリーナの教え》が訛り《アンヘル教》となった。


彼女の教えにより感銘を受け、戦争に辟易していたあらゆる国々の憂国の民達は、アンベリーナ女王が統治している国――ジュラメント国に集う。

多く増えた人口増加に伴い、新たに名を変えて出来たのが、宗教国家ジュラメント神聖国という、今日(こんにち)まで続く大国の興りであった。


アンベリーナは『思想』を持ってして、大陸中の戦争を止めようとし、世界で初めて『宗教』を作り上げた人物であり、当時のルシフェルの特異点候補(・・・・・)でもあった。


悪魔を神の敵対者として設定したのは、戦乱の世においては多くの悪魔召喚が行われていたためである。

悪魔と契約して、敵国兵へ虐殺の命令をしたのは人であるが、直接手を下して多くの命を刈り取ったのは事実悪魔であったため、必然的に悪魔を悪の立ち位置とする事で、人同士の争いに終わりを与えようと考えた。

そして全能たる神という虚像の絶対者を、人の心の寄す処として作り上げる事で希望を見出すよう、人々の心に救いを与えて民衆の意思を纏め上げた。


その教えは今では初期の原型から、かなり離れたものの大筋は殆ど同じである。

まず異界から現れたとされる『光と太陽を司る女神マーネス』『夜と月を司る神ノックス』の二柱の最高神である夫婦神が世界を創造した所から始まる。


その二柱は新たなこの世界を、終の世界にすべく五柱の子作った。

『業火と勝利を司る女神フォティアラ』

『大地と豊穣を司る女神テーラ』

『海と幸運を司る男神ヴァダーラ』

『大空と栄達を司る男神ルフトラ』

『死と生命を司る女神モルヴィータ』の五柱の大いなる神々。

さらに五柱大神には数多の眷属神もいる。

しかし有名なのは十二の月に当てはめた十二柱の眷属神のみであり、教会関係者や熱心な信徒でなければ全ての眷属神は覚えていないどころか、存在すら知らなかったりもする。



まず女神マーネスが光を生み出し(光の日)、神ノックスが続いて夜を生み出した(夜の日)。

女神フォティアラが火を生み出す山を作り(火の日)、男神ヴァダーラが水を生み出し(水の日)、女神テーラが大地を整え(木の日)、男神ルフトラが地上からでも神々の住処が見えるように空を創りだし(空の日)、最後に女神モルヴィータがそこに住まう者を生み出した(命の日)。


しかしモルヴィータは失敗した。

善良な人族のみを生み出すつもりが、魔神ルシフェルの邪魔により、邪悪な人族や、人族になりそこねた醜悪な亜人種が生まれる。

神々がなんとかしようと奔走している時を見計らい、魔族や魔物や妖魔といった混沌の存在を、イタズラに世に解き放って逃げ去ったルシフェル。

大陸は混乱に陥った。

それはもう神々でさえも修正が不可能なほどであった。

モルヴィータはその事を後悔し、神の世を離れ、冥府と呼ばれる孤独の世界で、罪人を永遠に罰する事を贖罪として、今もなお冥府では罪人の死者がモルヴィータによって裁かれている。

故に土の日はモルヴィータに配慮し命を大切にする日であり、安息日として制定されており、その間は狩猟行為等も禁止されている。

あくまで慣習的なものであって絶対ではない。

しかし敬虔な信徒は、その日はみな肉等の料理を食べないように心がけている。


これが現在のアンヘル教で教わる神話である。

初期段階では亜人種や魔族が醜悪な存在として語られてはいなかったが、いつの間にやら増えていた。



そんなアンヘル教の教えは爆発的に大陸中へと広がり、それによって生まれたばかりの存在であるのにも関わらず、中位程度の魔力量を持って、その存在が霊界に現れたのである。


私は弟妹(きょうだい)達や、ミカイルとその部下達天使勢の数名を引き連れて、新人ごときに神面されてたまっか! こっちはモノがちゃうんじゃボケェ! 上等だオラァ! と殴り込みにいったのだ。


今でこそ腐敗も多く目立つアンヘル教だが、当時は本格的な戦争三昧の戦乱の世に辟易した人間は多く、純粋で敬虔な信徒が多かったため、生まれた神々もまた純粋で善としての性質を大きく受けていた。


神として生まれてきた夫婦神と、他の五人の神は非常に人格者であり、むしろ対面して早々に土下座を敢行される始末。


「人の想いにより生まれた身である事は重々承知の上です。決して本物の神々である貴方様がたへの隔意はございません。むしろ非常に申し訳なくも思っているのです……」


などと気まずそうに語られてしまえば、殴り込みにきた側も拍子抜けであった。

そのうえで彼らを『神人族』として新たな霊界の仲間に向かい入れて、ついでにブラック企業ばりに忙しい霊界での仕事も手伝ってもらう事にした。


下界の激しい戦乱の世の調整を行い、絶滅する種がでないようにと神経を削って、日々仕事に負われていた私達は、あの時少しおかしなテンションであったのだと思う。


「神人族がいるならば、しっかりと下界に反映される神々の設定を作りましょうよ!」


言い出したのは普段はとてもおしとやかな淑女である、ミカイルであった。

それに悪ノリする形でみんなでワイワイとアンヘル教の本物の恩恵を作り上げた。

そういう意味では私もアンヘル教を作った者の一人とも言える。


まずは私の前世知識から引っ張ってきた日付という概念を作った。

光の日を始まりの一日として、七人の神にちなんで七日を一週にし、最高神と神堕ちしたモルヴィータを除いた四週で一月に制定。

一年は336日になる。

ジュラメント神聖国の興りから、神聖歴という新たな暦を初めるよう、託宣を下したかったのだが、まだ下界に顕現できない神人族の代わりに天使族が神人族を騙り、下界に顕現し託宣を下した。


そして私達は更に調子に乗って、誕生した曜日によって魂魄に加護(神聖国が加護と称したが、属性と言った方が適切である)が付与されるように、神術を用いて世界に新たなルールを設定した。

魂魄に直接属性が付与されることになるため魔術や魔法、法術などの習熟速度が早まったり、術そのものの威力や精度が上がったり、ともかくその属性が扱いやすくなるなどの恩恵が与えられる、生命誕生ボーナスを世界に設定したのだ。

故に下界では生まれた日によって、得意魔法が決まるとも言われている。


光の日生まれは光系統の術。

夜の日生まれは闇系統の術。

火の日生まれは火系統の術。

水の日生まれは水系統の術。

木の日生まれは土系統の術。

空の日生まれは風系統の術。

命の日生まれは回復系統の術。


これらを基本に産まれた日によって、魂魄に属性が付与された状態でのスタートとなる。

完璧なバランスだ! とみんなで盛り上がっていたような気がする。

完全におかしなテンションだったと、今では思える。

いや、むしろ若さゆえの過ちというべきか……。

色々と設定を考えるのが楽しかったのは否定はしない。

しかし私達は世界のバランスを保つ管理者でありながらも同時に、世界をその都度時々で柔軟に変えていくことも仕事のうちの一つでもあるのだ。


そして、下界に降りてきて初めて知った事実だが、どうやら当たりと外れの日があるらしいということが分かった。

下界の者達からしたら、全然完璧なバランスではないようであった。


空の日生まれは最も当たりとされている。

それは浮遊魔法の習得難度が高いためだ。

他の火や水などといったものは、生み出すのも、動かすのも比較的イメージがしやすい。

対して風という目に見えないものを操り自身を浮遊させ、自在に空を飛ぶ浮遊魔法は不可を可能とする自己暗示に近いイメージを持たねばならないため、有用なのにも関わらず難しい術の一つとされている。

しかし、空の日生まれはそれを比較的簡単に覚える事が出来るうえ、その操作感覚も非常に正確に行える。


逆に最も不遇とされているのが回復系統の術に属性が付与される、命の日生まれの者である。

浮遊魔法は難しいが、それでもゴールが見える範疇の難しさである。

しかし回復魔法は、まさしく終わりが視えないといったレベルの難しさであるため、命の日生まれのものが必死で訓練しても、回復魔法を使えず生涯を終える事もあるほどであった。


回復魔法の使い手はとても希少であり、回復魔法を扱える者の実に九割九分が命の日生まれである。

つまり命の日生まれでなければ、そもそも回復魔法は覚える事すら不可能といったレベルの難易度なのである。

回復魔法も不可を可能とする自己暗示に近い強烈なイメージ力と、それに加えて人体という複雑なモノを相手にしなければならない。

人体についてよほど深い造詣でもなければ、イメージがどうしても大雑把なものになってしまい、術の行使は不発に終わる。


その点ミーランは《深夜の茶会》にて、人体のあらゆる壊し方を教わっていたようで、幼い頃より幾度となく兄たちのソレらの遊び(・・)を間近で見てきたため、回復魔法を扱えるのにあまり時間を要さなかった。

産まれた当初は命の日生まれで不遇の子とされていたが、すぐに回復魔法を会得したことで、魂器を図る以前からミーランは天才魔法師と称されていた。



他にもその日によって、その属性の魔物が活発になる事でバランスを取るという世界改変(アップデート)も行った。

前述の魂魄に属性を付与するのは私の案であったが、これはミカイルの発案である。


火の日には、火の属性を持った魔物が活発で好戦的になる。

水の日には、水の属性を持った魔物が活発に、といった具合でだ。

決して強くなるわけではなく、その行動が活発になるだけであるが、遭遇しにくい魔物の素材を得たい場合はその魔物の属性の日に、縄張り近くに赴けば会える確率が上がる。


そして命の日だけは特殊で、全ての魔物の気性が大人しくなる。

だが、決してサンドバッグというわけではなく、近づけば普通に襲いかかってくる。

しかし、それでも普段よりずっと狩りを行いやすいのは事実である。


そのためアンヘル教では、過剰な乱獲や生態系の維持の意味合いを含めて、信者達に『モルヴィータへの感謝という配慮』という建前で、命の日の狩猟禁止令と肉職禁止令を出したのだ。

ちなみに妖魔はこの曜日感覚には特に何も感じないらしい。

そこら変はシステムさんの管轄であるため、確実なことは分からないが、知恵ある妖魔と、本能だけで動く魔物との違いであると思われる。


特に行商人などは命の日を狙って移動を行ったりと、この世界の人々は曜日感覚には鋭いアンテナを張っている。


そんな経緯があるため、私も他の悪魔達もアンヘル教の神々に特に確執も何もない。


●   ○   ●   ○




「そんな感じだから普通にいるわよ、アンヘル教の神々も。正確には神人族という一つの種だけれどね」


そんな私の話を聞いて、白鐸はなるほどと感心して頷く程度であったが、ミーランは複雑そうな表情をしていた。

悪魔を至高とする信仰心を持つ彼女にとって、やはりアンヘル教は敵なのだろう。


「あ、そうだわ。ミーランにお願いがあるのだけれど」


私がそう言うと、複雑そうだったミーランの表情は途端に霧散し、宝石眼を輝かせる。

そのコロコロと変わる表情は純粋なヒューマンのミーランを、耳をピンと立てて勢いよくしっぽを振って喜びを顕にする獣人のように素直で、つい彼女に視えない耳としっぽを幻視してしまう。

つまりとても分かりやすい。

王家の人間がこんなにも感情を表に出すのは、本当に珍しい事だ。

たとえ警戒心を解いた状況であっても、幼い頃より厳しく躾けられる王族貴族の仮面は、本来滅多な事では外れないもの。

日常に根付くほど習慣化したそれは、むしろ意図的に仮面を外す事も難しいくらいである。

何年も話していない人間が、いきなり大声を上げるようなもの。

確実に明日の彼女の表情筋は、筋肉痛を味わう羽目になることだろう。

南無三。


「なんでしょう! お願いなどではなくご命令ください! どんな事でもやり遂げてみせましょう!」

「あら、そう? なら〝ルーナ・カルローネ〟の私とお友達になってちょうだいな」


どんな事でもやると意気込んでいたミーランだったのに、なぜか肯定の返事がなかなか返ってこない。

勢いよく振り回していたしっぽが項垂れ、耳もシュンとしている――ように視えてしまう。

ミーランの愛らしい容姿ところころ変わる表情のせいで、どうも愛玩動物のように思えてしかたがない。


「あの……それは流石に、畏れ多い、と言いますか……」


なるほど。

納得の狂信者理論だ。


「『ルーナとしての友達』よ。ルシフェルとしての私には今まで通りに接すればいいじゃない。今のうちから、私とミーランが頻繁に交流を重ねる仲である事を貴族間の間で周知させておきたいのよね」

「わ、わかりました。それがルシフェル様の願いであるのであれば……。わたくしは全力を賭して己の心を殺し、律し、そしてルーナ様のお友達という大役を立派に勤めあげてみせましょう!」


私のお友達になるのが大役って、なんだか私が特大の厄介者みたいじゃない?

そもそもこの子、もう少し頭のいい子じゃなかったっけ?

フィーゼラの一族が王家ではなく、白鐸の駒である事を突き止め、それを交渉材料として知恵の神とも呼ばれる白鐸相手に、対等な交渉してきたりしたという凄い話は聞いていたんだけど……。


「それは何か狙いでもあるのですか?」


両手拳を胸の前で握りしめて、ふんす! と気合いを入れているミーランを無視して白鐸が問いかけてきた。

その問いかけに私は指を下唇に当てて、少し考える。

魂魄を得てから思考する時には、この仕草でないと落ち着かない。

癖のようなものだ。


「そうねえ…………頻繁に情報交換をしたいというのが主な理由だけれど、他にもルーナ個人としての泊付けにもなるのよね。少なくとも王家側なんかは私とミーランが友誼を結ぶ事に関しては喜ぶんじゃないかしら。それとパパっと家督争奪できるよう下地作りの一環でもあるわ。あとは――将来的に一緒に通うことになる学園への布石も兼ねて……ってところかしら?」


そこまで言ったところで、微笑んだリアにジっと見つめられている事に気づく。


「色々と仰っておりますが、単純にルーナ様が暇でしかたないから、遊びに来てほしいだけなのでは?」


まあ、ぶっちゃけそうなんだよね……。

流石リア、私のことを良く分かっていらっしゃる……。

正直屋敷での日々は暇で暇で仕方がないので、話し相手になってもらいたい気持ちはある。

魂魄宣言の儀以外のパーティーに参加した事もなく、親からも離れて暮らしているためだけに、ルーナの友達は未だゼロ人なのだ。


ミーランは思想こそアレだが、緩いウェーブがかったホワイトブロンドの髪に空色の瞳を持つ整った彼女の顔面は、完全な癒やし枠である。


長女属性として末っ子気質な女の子は、ついつい可愛がってしまう。

そしてなにより私は美しい者を側に置いて、愛でるのが趣味なのだ。

しかしそれは人であったころの価値観の基準とは違っていて、萌えだとか、尊いだとか、そういう感情とは全く別のものである。

美しい容姿のものを側に置きたがるのは単純に悪魔の本能由来のもの。


ともあれ、リアの問いには、目線を外す事で明言することは避けた。

というよりタイミングよくピヨピヨピヨピヨと、小鳥の鳴き声のような――けれど命を感じない機械的な音が突然鳴り出したのだ。


「おや、もうこんな時間でしたか。この部屋にいると時間の経過が分かりにくいのが難点ですな」


腰にぶら下げていた白鐸の魔道具がその音の出どころであった。

それはどうやら懐中時計であったようで、蓋を開けて時間を確認している。

アラーム機能付きなのかな? 便利だなあ……。

そこで私はハっとする。


懐中時計? なんでそんなものがあるの? 

暦は制定したけれど、一日を二十四時間とした覚えはない。

けれど白鐸の持つ懐中時計は、まさに前世知識のそれと遜色ない。

むしろアラームのような機能までついているのだから、より優れているともいえる。


「白鐸、その魔道具はなにかしら?」

「何、とおっしゃられても……? ただの懐中時計ですよ。人種の貴族ならば大抵持っていると思いますが」

「少し見せてもらってもいいかしら」

「ええ、それは構いませんが……?」


白鐸から受け取った懐中時計。

名前も同じ、零時を基準にしているのも同じ。

長針と短針に秒針もある。

そして曜日もわかるようになっている。

中々高度な技術で作られている魔道具だ。

先史文明であれば流通していても何らおかしくはないが、今のこの大陸でこれだけの技術を持っているものなんてきっと限られている。

私は懐中時計の知識を誰かに話したことはないはずだ。

そもそも霊界では時間という概念すらあやふやであり、自身の年齢も大体百年単位でしか数えない大雑把なものだ。

そもそも不死の存在である精神生命体は自身の年齢すら数えない。

魔力の多寡で自身や相手の年齢を推し量るだけ。

私は父上から託された最後の仕事の事もあって時間はある程度把握していたが、それでもある程度だ。

だからこそ下界に降りてきてからも、今のいままで時間という概念を忘れていた。

日々のルーティーンや突発的な予定等も全てリアが管理していてくれてたからこそ、特に時間について考えた事もなかった。

だからこそ私が他者に時計の存在を教えるということはあり得ない。

私の前世の知識を知れるのは父上かシステムさんくらいである。

しかしシステムさんは世界に〝ルール〟を作り上げたりはするが、魔道具なんてものは作らない。

父上ももちろんそんな物を作りはしないだろう。

ならば誰が作ったのか?


「ねえ、懐中時計って誰が作り上げたものなのかしら?」

「S.S.という人物ですね。ほら、私の懐中時計にS.S.と刻まれているでしょう? S.S.の作り上げた懐中時計はプレミア化していて珍しい品なのですよ」


少し自慢気に話す白鐸。

意外とミーハー気質なのか。


「懐中時計も貴族の装飾品の一つとして重要な位置づけとなっております。スーツやドレス、そして靴に次いで、腰にぶら下げる懐中時計は重要なステータスとなりえます。わたくしは有名魔道具師のモノを持っていますが、S.S.本人が作り上げた懐中時計となると、それこそ王族クラスでないと手が届きませんね」


白鐸の説明に補足してくれるミーランだけれど、知りたいのはそこじゃないの。

S.S.って誰よ!!


「ルーナ様、S.S.というのは、先程も話に出たプスタータ・シエールの師であり、謎大き天才大魔道士として広く知られている者です。多くが謎に包まれた人物ですが、それでも英雄譚といえばS.S.の名がまず真っ先にあがるほどです。歴史的資料からみてもかなり長生きであり、プスタータの師であるため恐らくハイエルフなのではという話ですが、それも定かではないのです。現在は既に表舞台からは姿を消していますので生死不明ですが、プスタータ曰く『生きている』との事。恐らく各地を今も放浪しているのではないかと」


そう! ナイス、リア! そういった情報が欲しかったんだ!

あとでいい子、いい子してあげよう。


「ありがとう。では――ミーラン、白鐸の両名に最高神ルシフェルとして命じます。そのS.S.なる人物については出来るだけ詳しく調べてください。噂話程度のものでも構いません」


厳かな雰囲気を醸し出すためにルーナからルシフェルの魂に切り替える。

あんまり意味ないかな? と思ったけれどやっぱりミーランにとってこの状態の私は何かが違うのか、既に瞳を潤るわせている。


「その神勅、確かに承りました」


白鐸とミーランが私の前に跪いて頭を下げる。



◇◇◇



帰りの場所の中、私は一人S.S.なる人物について考える。

偶然の一致……とするのには少し希望的観測に過ぎる。

まさか異世界からの前世の記憶持ちが私以外にいる?

いや、そんな事はあり得ない。

なにせ異界からの魂の流入は重要な問題であるため、しっかりとした万全の対策はしている。

たまに前世の記憶持ちがいるけれど、それはこの世界での前世のことだ。

こればかりは仕方がない。

なにせ魂の浄化は術式や〝世界のルール〟に干渉して行うものではなく、悪魔の一般的なお仕事の一つなので、稀に人為的なミスで前世の記憶を保持したまま、生まれ変わる事例は今までも何件かあった。

しかし此処とは違う世界の知識を持つ者はまったく別の案件である。

異界からの魂の流入は、一つ通すだけでも接点が出来上がり、次元を大きく歪めてしまうことで、別の世界との距離がぐんっと近づくのだ。

けれど、そのような事になれば私達が気づかないはずもないし、現に今もこの世界に次元的な問題は見当たらない。


はあ……分かってたことだけれど、とりあえずS.S.は後回しだ。処理能力が越えてる。


それにしても、S.S.さんはなんでそんな変な名前を名乗っていたんだろうか。

普通に考えれば偽名だよね。

誰かにバレたくなかった?

そのわりには英雄譚として語り継がれるほど有名で、大々的に活躍しているのが矛盾しているけれど。


ふと対面のリアを見ればなにやらニコニコと上機嫌な様子。

私の憂いとは正反対だ。


「どうしたの、なんだか楽しそうね?」

「それはもう。ルーナ様にはじめてのお友達が出来た日であり、そしてその御方は私にとって同好の士であるのですから」


ニコニコと無邪気に喜ぶリアを見ていたら、なんだかわからない事をアレコレと考えて悩むのは無駄に思えて、少し気持ちが楽になった。


「ふふっ、貴女は楽しそうでいいわね」

「はい、ルーナ様のお側にいるだけで、このリアは幸せものです」



《『業火と勝利を司る女神フォティアラ』の眷属神》春

1月『鍛冶の神:クノル』

2月『探求の神:ズモル』

3月『試練の女神:ユテル』


《『海と幸運を司る男神ヴァダーラ』の眷属神》夏

4月『芽吹きの神:ルティー』再生

5月『旅の女神:クリィー』再会

6月『商業の神:エディー』契約


《『大地と豊穣を司る女神テーラ』の眷属神》秋

7月『癒しの女神:ネペルネ』

8月『美の女神:エネルネ』

9月『出産の女神:サレルネ』


《『大空と栄達を司る男神ルフトラ』の眷属神》冬

10月『芸術の女神:ミアナ』

11月『愛の女神:リリナ』

12月『夢の女神:ユエナ』


《『死と生命を司る女神モルヴィータ』の眷属神》

神の座を降りたモルヴィータを追って共に冥府へと向かったとされているが、どのような存在だったのかは語られていない。


後世に後付けされた神々のこぼれ話等は多くある。


男神ルフトラは大の女好きであるため眷属神も全て女神である。

対して女神テーラは男嫌いのため眷属神も全て女神である。

女神フォティアラは戦神として有名であるが、数多くいる眷属の中には戦神は一人もいないのは自身が圧倒的な力を持つからとされている。

海と幸運を司る男神ヴァダーラは侠気を愛する者であるため、勇気有るものには人間の一個人であろうと力を貸してくれるという一番身近な神である、とされており主に船乗り達からの信仰に篤い。

(これは恐らく船乗り達が海の神秘である、この世ならざる景色を大海で目にしてきため、大海の神ヴァダーラが奇跡をくれ、無事に陸へと導いてくれていたに違いない、という噂が誇張してできたものである)



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