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魔神の受肉~悪魔が下界で貴族令嬢に擬態します~  作者: 烏兎徒然
一章 カルローネ家の令嬢
14/25

悪魔のお茶会 前編

それにしてもやはり彼女は異常。

供給源をルシフェルの魂に切り替えただけで、直感的に私の本性に気づいたのだから。

それは無意識のうちに魔導術(現代では特性魔法と呼ばれている)を常に発動しているからなのだけれど、高位種族であるハイヒューマンにしか扱えない魔導術を、下位種族であるヒューマンである彼女が使えている。

それは本来あり得ない事である。


ミーランの全身をくまなく注視してみるも原因は不明。

私が繁々と見つめ続けたせいでミーランの頬は紅く染まり、今や過呼吸気味である。


「え、と、ルシフェル様……何かわたくしが不手際でも……?」

「ああ、いえ、そうではないのよ。貴女のその特異体質の理由がよく分からなくてね」


その言葉にキョトンと小首を傾げるミーランは、なんの衒いもなく、あまりにも純粋な表情をしていた。


「わたくしが……特異体質ですか?」

「ミーランが特異な体質の持ち主であるというのは……気づきませんでした。ちなみにどういった体質なのでしょうか?」


私の特異体質という表現に、一番に反応したのはやはり知恵の神である、白鐸だった。


白鐸からしてみればミーランという存在は、異常な程知恵の回る少女といった認識だけで、魔導術の看破までは出来ていないようであった。


「魔導術――今は特性魔法なんて呼ばれているものね。それを無意識のうちにミーランは行使しているみたいなのだけれど……」

「え!? わたくし、妖魔だったのですか!?」


ミーランが思わずといったように、大声を上げ椅子から立ち上がる。

しかし、ちょっと嬉しそうな顔をしているのはなぜだろう……。

もしかしてリアと同じく混沌(ケイオス)として私と親しいからとかそんな理由だったり……いや、まさかね。

とりあえず説明するから座りなさい、とミーランを着席させて説明を続ける。


「そもそも、別に特性魔法は妖魔だけが使えるモノではないのよ。より正確に言うのならば種族(・・)特性魔法といったところかしら? 生命あるもの全てが元来持っているはずのものであり、魔術のように理論立てたものでもなく、魔法や法術のようにイメージで覚えるものでもない、より本能的な術なのよ。虎が爪や牙を攻撃手段として扱うようなものね。だからこそ刹那的であり、本能に忠実な側面を持つ妖魔や魔物が多く使えるだけであって、人種も本来は扱えるべきものなのよ」


ミーランやリアは分からなくもないけれど、白鐸ですら初耳といった表情をしている。

本当に知恵の神として生まれたのか疑わしくなってきたぞコイツ。

――いや、白鐸の【見通す力】こそが白鐸専用の魔導術であるからこそ、理解出来ていなかったのだろう。

魔導術は世界の設定として、法術と同じく最初から存在していて未だ残り続けている。

けれど、ずっと昔に廃れた技術だ。

それこそ白鐸が生まれるよりずっと前に。

下界の生命体全員が法術を使えていた時代の当時でさえも、法術の方がずっと有用だったために、あまり重要視されていなかった。


「あの、いまいちわたくし特性魔法? 魔導術? がよく分からなくて……」


おずおずと、自身の知識不足を恥じ入るようにミーランが言う。


「仕方がないわ。殆ど忘れ去られた術でもあるし……」


そう言うと、リアがそっと手を挙げる。


「ルーナ様。生命が本来持つものというのならば、忘れ去られるのもおかしな話ではないですか?」

「まあ、リアも大概おかしいくらいよ。それはまた違った意味でだけれど。リアの場合は魔導術の天才ね。霧化に蝙蝠变化、吸血で100%眷属化出来るうえ、チャームも使える。吸血鬼の特性魔法を全て完全に使い熟せているのはかなり珍しいのよ」

「え、わたくし、天才だったのですか? 吸血鬼なら誰でも出来るものなのだと思っていました……そういえばリアも血液操作の術を使えないと言っていましたね――」


目を点にして驚くリア。

最近は驚くリアを良く見ている気がする。


「吸血鬼や妖魔なんかの特性魔法はとても分かりやすいけれど、人種の特性魔法は凄く分かりづらいのよ。

たとえばヒューマンであれば、思考能力の向上。エルフであれば魔力の制御能力向上。ドワーフであれば物体の魔力の揺らぎを視認することが出来たり――ね。そしてそれには殆ど魔力の消費はないうえに、術式行使特有の魔力の変質が起きないのよ」


魔力の変質が起きなければ、自身の中の魔力が術として変質する感覚を捉えられない。

リアは未だに分かっていないようだが、ミーランと白鐸はその言葉で理解した様子だ。


「だからこそ忘れ去られたの。意識的に使えこなせるように訓練すれば、どれもより強力になるし、魔力の消費量的に常時扱えるものだったりと、とても便利なのだけれどね。魔法とも魔術とも法術ともまた違った感覚で扱うものだから、無意識に使っていたり――もしくは呪術と勘違いされていたりする場合もあるかもしれないわね」


大陸四大国家のうち、三つの大国の王が人種の中でも最も魂魄の小さいヒューマンであるのは、無意識のうちに思考能力向上の魔導術を使っているヒューマンが多いのが、大きな要因なのかもしれない。


そこでミーランが何かを思い出したようにハッとする。


「そういえばエルフの一族で、魔法をとても正確に、より緻密に扱える呪術師一族がいるという噂を聞いた事があります……。なんでも超長距離射撃魔法を寸分の狂いもなく、放つ暗殺一族だとか。飽くまでも噂話だったのですが、ルシフェル様のお話を聞く限り、どうやら眉唾ものの噂ではなく、それも魔導術とやらだったのですね」


ほっほーう。

やっぱり呪術と勘違いするケースもあったのか。

そうなるとドワーフの《物体の魔力を視認する魔導術》も確実に呪術扱いされていそうだなあ……。

ドワーフの一族、秘伝の魔眼! みたいな。


――ああ、矮小な存在が、微々たる力を至高のものとしている、そんな愚かな様を眺めてみたい……。


「ッ!」

「!!」


おっと、ついつい嗜虐的な恍惚の表情をしてしまった。

たまにリアに注意されるから気をつけているんだけど、慣れてない白鐸とミーランを驚かせるつもりはなかったんだ。

でも、ミーランの方が今はずっと恍惚の極みみたいな表情をしているね。


とりあえず、自分の両頬をむにむにと軽くつまんで表情を整える。


「ま、まあ、魔導術で代表的なのといえば竜種のブレスなんかもそうね。人種と違って妖魔は複数の魔導術を持っている場合が多いけれど、そのぶん人種の魔導術はその種族の特性を最大限活かした魔導術になっているわ。例えばヒューマンの《思考能力向上》も極めれば《体感時間の延長》にまで到れるわよ」


恍惚の表情は終えたものの未だ瞳の輝きが消えないミーランは、甲斐甲斐しくも私の話にはしっかりと返事を返してくれる。


「ドラゴンやワイバーンなんかのブレスの術式行使は、術式反応がないのにも関わらず、事実術が行使されている事について長年の間、謎とされているのですよ」

「白鐸が《見通し》たり、リアが《吸血》するようなものね。なまじっか炎や冷気を放射する単純な現象だからこそ、法術や魔法のようなものだと勘違いしてしまったのでしょう」


ふふん、知恵の神や、国の王女様相手に講義をしていると、なかなか気分がよい。


「あの……それでわたくしの特異体質の件はどういった事なのでしょうか?」


ああ、忘れてた。

けれどこれは、私にも本当にわからない。

特異体質としか言いようがない。


「ミーランの魔導術はヒューマンの魔導術ではなくて、高位種族であるハイヒューマンの魔導術を行使しているのよ。高位種族が下位種族の魔導術を扱える事があっても、その逆は本来あり得ないはずなのだけれど……。思考能力の向上に加えて、知覚能力の向上というのがハイヒューマンの魔導術なのだけれど身に覚えはあるかしら?」


ミーランが目を見開く。

きっと身に覚えがあるのだろう。

それでも意識的に訓練を積んでいたわけではないだろうから、その知覚能力は微々たるものなのかもしれないけれど。


「たしかにわたくし、お父様やお兄様のような虹瞳を持っていないし――魂魄を見通す?事も出来ないけれど、なぜだか相手の考えが理解出来たりする時が多いんです」

「正直《思考能力の向上》に加えて、その《知覚能力の向上》の魔導術は鍛え上げれば、虹瞳をも遥かに越えるポテンシャルがあるわよ。だからこそ知恵の神である白鐸と、今までそれなりに対等に渡り合って来られたのかもしれないわね」

「では、魔導術を鍛え上げれば、このケモノにひと泡吹かせられるのでしょうか?」


ミーランがにっこりと微笑むのと対象的に、白鐸はムっと眉間に眉根を寄せる。


「白鐸の魔導術は自身より格が下の事象ならば、下界全体に及んで完全に事象を把握できるというぶっ飛んだモノだけれど、タイマン勝負ならなんとかなるんじゃない?」

「では、私も白鐸の知覚範囲外にいるのでしょうか?」

「たしかにリアやルシフェル様の周囲は靄がかっているように、見通す事が難しいですね。そして二人が揃えば何も見えなくなります」


ナチュラルに白鐸より格が上であると宣言するリアだが、それを当然のものとして答える白鐸も大分温厚な性格をしている。

というより長い付き合いだからこそ無視している可能性も否めない。


「あら、私の予想よりずっと《見通せて》いるのね。それは好都合だわ。とにかく下界のあらゆる情報を私は集めたいのよ。それこそ白鐸が『靄がかかっているように』見える相手なんかは特に。下界の天才と呼ばれるような人物の情報は、すぐに教えて貰えれば助かるわ。私の下界歴はまだたったの八年で、何も知らないようなものなのよ」

「はい! ではルシフェル様! プスタータ・シエール筆頭に零級冒険者達はどうでしょう?」


プスタータ・シエール――……よく読む本の著者だ。

ミーランの口ぶりからすると、まだ存命らしい。


「私が良く読む本でも、なかなか感心するような仮説を多く発表しているのが、プスタータ・シエールという名前だと言うことだけなら知っているわ。詳しい人物像等は分かるかしら?」

「えと、わたくしもそこまで詳しいわけではないのですが、わたくし達が入学する学園の統括理事という役職についていて、大魔導師という称号を持っているデナーロ商業国の重鎮ですね。

零級冒険者に認定されていますが、ほぼ引退しているような状態らしく、冒険者組合が必死で繋ぎ止めているとか……」

「プスタータは今日(こんにち)の文明を築き上げた、英雄の一人と私は認識しております。大陸でも数少ない法術使いの一人として有名なハイエルフですな」


なるほど。

エルフの高位種族であるハイエルフか。

殆どの高位種族が消え去った今、寿命のないハイエルフならば、人種の間で英雄扱いされてもおかしくはないけど、私が求めている人材とは少し違う。


「シエールならば私の友人ですよ。今でも手紙でやり取りをしております。ルーナ様がお会いしたいのならば呼びつけますが?」


イヤ、国の重鎮を呼びつけるのは無理だよ、リア。

意外な接点に驚いたというより、リアにも友達と呼べる人材がいたことに驚く。


「いえ、いいわよ。どうせ入学したら会う事になるでしょうし、それまでは放置でも構わないわ。リアの友達というだけで、充分な接点が既に出来上がっているわけだし。それより零級冒険者というのは一体なんなのかしら?」


その問いにみな一様に目を点にする。

ええ…………そんな常識的な話だったの……?


コホンと咳払いをして、空気を戻した白鐸がリアとミーランに顔を向けて、なんとか私の体裁を保ってくれるように配慮してくれようとする。


「それならばミーランかリアの方が私より詳しいのではないか? 私が知っているのは冒険者組合の成り立ちなど、歴史的な事実が大部分で、細かいところまでは見通していないからな」

「王族の一般教養として教えられた範疇であればお話できますが……」


リアからするならば、冒険者組合からは狩られる側の存在だろうしミーランから聞くのが一番良いかも知れない。


「一般的な事で充分よ、ミーラン。教えて頂戴」

「はっ、はい! えとまず冒険者組合というのはデナーロ商業国を本部に、各国に支部が置かれていており、《対敵性生命体》とされる《妖魔や魔物》を狩るプロフェッショナルたちが所属する、国さえ跨いで存在する大きな互助組織のような物です。

国の騎士等は主に対人に特化しています。

それ故に、あらゆる特性を持つ妖魔や魔物を狩るのは、画一的な装備や戦闘技術を有する集団では分が悪いため、国の騎士ではなく冒険者達が担っているのが現状です。

大抵の国に冒険者組合の支部が置かれていますが、支部でありながら、その国の管理下に帰属している組織であり、王国の場合は志願制が敷かれているので、有事の際にはもちろん戦争にも駆り出る冒険者もたくさんいます。

しかし戦争で大半の冒険者を失ってしまうと、国の魔物や妖魔を討伐する事に手間どってしまうので、そこを上手く調整するのが王族を筆頭にした為政者達や軍部の腕の見せどころですね。

特殊な遊撃隊として扱う事もあれば、後方に配置して安全な位置にいてもらう事もありますし、森や山岳地帯など魔物の多い場所での哨戒部隊として扱う事もあります。

そんな冒険者にはランクという六級から一級までの区分があって、数字が低いほど優秀な冒険者であり、それに見合った依頼を受け、報酬を得ます。

その中でも一級冒険者は英雄と呼ばれる存在ですが、その英雄の壁を越えた者が大陸には三名おり、例外的な区分として零級冒険者と称します」


その例外の三名。

零級と称される冒険者。

『無音の大賢者』プスタータ・シエール。

『灰色の閃光』シュネ・カイト・シュレム。

『燐火の花畑』ポマ・クラーラ。

二つ名を持つ冒険者は冒険者組合からの授与される名誉であり、貴族でいうところの名誉爵位に近いものがあるらしい。


一級冒険者が英雄とされる区分であるのにも関わらず、それを越えた区分を制定しなければならないほどの実力者として、零級冒険者はあまりにも有名らしく、それらの種族や特徴等を教えてもらった。


それにしても二つ名持ちの冒険者ってなんか、かっこいいなぁ……。

この中なら灰色の閃光さんが、最も求めてる人材に近いかもしれない。


「なんだか自由そうでいいわねー……冒険者。――……私もやってみようかしら」


流石に私の声色から本気ではないと分かってはいるのだろうが、一応という補足で苦笑気味にミーランが告げる。


「ルシフェル様、冒険者は十一歳からでないとなれないのですよ。見習い冒険者といって組合登録はしていないけれど、本職の冒険者の弟子といった形で雑事を手伝いながら、冒険者としての経験を積んでいる子達も中にはいるらしいですが……大半は冒険者養成学園に通ってから十三歳で登録というのがこの国では一般的ですね」

「あら、学園なんてあるのですね?」


リアは初耳といった様子。

たしかに曾祖母がなくなって依頼引きこもっていたのなら、知らなくても無理はないのかもしれない。


「はい。冒険者科と職員科の二つのコースを選べる、二年制度の学園です。識字率の高さから初代ルーナ様の物語等、幼い頃から魔物討伐の英雄譚が身近なものであるので、ティグレル王国では冒険者は平民にとって『カッコイイ職業』とされていますね。一部の国では底辺職と揶揄されていますが……。本部のあるデナーロ商業国に次いで我が国の冒険者組合は制度もしっかりしていて、所属する冒険者の練度もとても高いと評判です。学園卒業生以外の新人冒険者は依頼に制限がかけられたりするので、新人の依頼達成率もかなり高い水準です」

「そういえば最近読んだ本にもそういった事が書かれていたわね……平民の暮らしに重点を置いていた本だったから、私にはあまり関係ない事だと特別意識していなかったけれど」


なるほど。

ならば、この国の冒険者組合に足を運びにくる可能性は大いにありそうだ。

一度灰色の閃光さん――シュネちゃんには一度は会ってこの目で確認しなければならない。

今のところ候補はシュネちゃん含めると――三人、といったところかしら。

まだまだ少なすぎる……。


あ、そういえば一番聴きたい事を忘れてた。

そもそも最初にミーランに興味をもったキッカケはまったく別の事だ。


「ねえ、ミーラン。話は変わるのだけれど、サタニストって本部とかあるのかしら?」

「いえ、わたくしはまだ所属したばかりということもあってそういった話は聞いた事はないですが、この魔道具でサタニスト内での連絡は常に行えるようになっています」


そういってミーランが取り出したのは黒い表紙に赤い魔石が埋め込まれた魔道具の書物。

最後のページに文字を書くと、全ての教典にその文字が現れるため、それで細かい連絡を取り合っているらしい。

大切にしているのか優しい手付きでそっと円卓の上においてページを開く。

幻術の類いの魔法陣も刻まれているのか、特定条件を満たしていないと、中の内容が別物に見えるように施されている……。


「これは――……先史文明レベルの高度な魔道具ね。白鐸、この魔道具の作成者を見通してみて頂戴」


頼むと白鐸は「承知致しました」と告げ、ほんの一秒程目を瞑る。

そして目を開けると、険しい表情で結果を端的に告げた。


「――……ルシフェル様、その魔道具の作り手にはルシフェル様に近いような靄がかかっており、見通せません」

「………………ふむ」


これはもしかすると当たりか?


「なんて使えないケモノなのでしょう。ルーナ様の命令を遂行できないとは」

「ええ、リア様、まったくもってその通りです。このケモノは普段偉そうにしているくせに肝心なとこで役に立たないのです」

「そんな事知った事ではないわ。ルシフェル様以外の者からの暴言は許さんぞ、貴様ら」


白鐸、全然温厚じゃなかったや。

普通に喧嘩腰だ。


「魔力量も低くて、体積を自在に変えるだけしか戦闘能力のない者に負ける気はまったくしませんね」

「リア様、殺ってしまっても構いません。守護式神はリア様がなれば良いのです」

「ほほう、私と本気でやり合うか? たしかに貴様よりは魔力量は低いが、魔力の多寡が全てではないぞ」


三人がガタリと席を立つ。


「ダメよ白鐸。リアとミーランに怪我を負わせるのは」

「…………もしやこの者らも候補なのですか?」


怪訝な表情で問いかける白鐸に「そういうことよ」と私が頷くと、そのままの怪訝な表情で白鐸は席に渋々と言った様子で座り直す。


「で、あれば致し方ありませんな」


腕を組み、未だ苛立っている様子で、憮然とした表情のままの白鐸を見てため息をつく。


「そもそも、そんなくだらない喧嘩で守護式神と準守護式神が簡単に喧嘩しないで欲しいわ」

「っ! 申し訳ございませんルーナ様」

「大変失礼致しました。頭に血がのぼってしまい……お許しくださいルシフェル様」

「わっ、あっ! も、申し訳ございません!!」


リアと白鐸に続いてミーランも謝罪する。

謝るべき対象がまったく違う事にはもう指摘する気もない。


「なにはともあれ、いずれはサタニストの本部に乗り込みにいかないといけないわね。どうやら一番可能性の高そうな特異点(・・・)だわ」

「特異点ですか……?」


リアとミーランが同時に首を傾げる。


「そう、特異点。歴史の転換点。階段を登る事象、または人物。停滞した時を動かす点――それが特異点」


虚空にハテナを浮かべる二人を見て、微笑ましくなる。

この事は詳しくは教えない。

気づかなくていいのだ。

何も知らないままでいればいい。


「まあ特別な人材探しってとこね。私が下界に降りてきた理由の一つよ」


一先ずその答えになんとなく納得したような腑に落ちないような表情を浮かべる二人。

そこで何かを思い出したかのようにハッとするミーラン。


「そ、そういえばルシフェル様。わ、わたくし、失礼ながら、もしルシフェル様にお会いする事が出来たのならば、一度お伺いしたい事があったのです……あの、よ、よろしいでしょうか?」

「あら、どうしたのミーラン? そんな恐縮しなくてもいいのよ。貴女は私の信者で、私の庇護下にいる者だもの。なんでも聞いてもらってかまわないわ」

「ぁぅ……」


ミーランの頬に手を添えて微笑むとミーランは緊張しながらも、なにやら神妙な面持ちだ……。

なんだろうか? 顔も少し熱い気がする。

あ、照れてるのか。

ティエラ以外の人間と接する機会が殆どないせいで、距離感がいまいち分からない。


「えぇと……悪魔の皆様は――アンヘル教についてはどうお考えなのでしょうか……」


あー、悪魔を神の敵対者とするアンヘル教と、悪魔こそが神であり世界を管理するものとしているサタニストは真逆の教えだ。

熱心なサタニストのミーランにとっては気になる事だろう。


「特になにも。そもそも実際にいるわよ、アンヘル教の神々は」

「へ……?」

「それはッ!?」


リアには一度話したことがあるので、ミーランと白鐸は驚きを顕にする。

白鐸は物質界である下界のあらゆる事象は見通せても、霊界についての知識は私や父上、過去に下界に顕現した悪魔や天使などが語った知識しかないらしく、霊界は世界が違ってまったく見通すことも出来ないらしい。

ほんとにこのケモノ今のところまともな情報寄越してこないどころか、何も知らないな。

知恵の神(笑)なんじゃないかと疑わしくなってきた。

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